第2節 高齢者が被害を受けやすい犯罪、事故の防止

1 犯罪による被害への対応

(1) 犯罪による高齢者の被害状況
ア 高齢者の刑法犯被害認知状況
 昭和60年の高齢者の刑法犯被害認知件数は、11万4,896件で、刑法犯の総被害認知件数(人が被害を受けたものに限る。以下同じ。)の8.1%を占めている。この割合は、総人口に高齢者の占める割合が14.7%であるのに比べ、その約2分の1である。しかし、最近5年間の推移をみると、高齢者の刑法犯被害認知件数の増加率は、高齢者人口の増加率を上回っている。
 60年の高齢者の刑法犯被害を包括罪種別にみると、知能犯の被害の中で高齢者の被害の占める割合が16.2%と高いことが目立つが、他の包括罪種においては、総人口に占める高齢者人口の割合と比べて低く、特に粗暴犯では3.4%と著しく低いことが目立っている。また、最近5年間の推移をみると、窃盗犯、知能犯で高齢者の被害が著しく増加している。
 さらに、罪種別に高齢者の被害の占める割合をみると、60年は、放火が26.8%、背任が26.4%、詐欺が16.4%、横領が15.3%と高いことが注目される。また、最近5年間の推移をみると、非侵入盗、乗物盗、詐欺で高齢者の被害が著しく増加している。
 最近5年間の高齢者の刑法犯被害認知件数の推移は、表1-5のとおりである。
イ 罪種別被害状況の分析
(ア) 放火
 罪種別にみて、総被害認知件数の中で高齢者の被害認知件数の占める割合が最も高いのは、放火である。
 60年の放火による年齢層別死者数(放火自殺者を除く。)は、図1-4のとおりである。

図1-4 放火による年齢層別死者数(昭和60年)

 このうち高齢者は、8人と総数の19.0%を占めており、この割合は、総人口に高齢者の占める割合の14.7%を上回っている。
〔事例〕 無職の男(47)が、5月14日夜、釜石市内において、実父(78)と口論の末自宅に放火したため、高齢で足が不自由であった実父が逃げ遅れて焼死した。即日逮捕(岩手)
(イ) 強盗
 60年の強盗の被害を手口別にみると、総被害認知件数の中で高齢者の被害の占める割合が高いのは、上がり込み(注1)の23.0%、押入り(注2)の18.2%、居直り(注3)の16.4%であり、いわゆる侵入強盗による高齢者の被害が多いことが目立っている。
(注1) 上がり込みとは、昼間又は夜間就寝前に屋内に侵入し、金品を強奪する手口である。
(注2) 押入りとは、夜間就寝中に屋内に侵入し、金品を強奪する手口である。
(注3) 居直りとは、金品を窃取するため屋内に侵入し、家人等に発見されて強盗に変わった手口である。

表1-5 高齢者の刑法犯被害認知件数の推移(昭和56~60年)


 被害者の年齢層別、強盗特定手口別認知件数は、表1-6のとおりである。

表1-6 被害者の年齢層別、強盗特定手口別認知件数(昭和60年)

〔事例〕 不動産ブローカー(31)ら3人は、港区南青山に一人で暮らしている短期大学学長(72)を殺害して土地等その資産を強奪することを企て、2月1日夜、学長宅に押し入り、同学長を緊縛して木製トランクに詰め込んでら致し、窒息死させた。2月9日逮捕(警視庁)
(ウ) 侵入盗
 60年の侵入盗の被害を手口別にみると、総被害認知件数の中で高齢者の被害の占める割合が高いのは、居空き(注1)の21.2%、忍込み(注2)の17.9%で、家人の居る住居にすきをうかがって侵入し、金品を窃取する手口が目立っている。
(注1) 居空きとは、家人等が昼寝、食事等をしているすきに、家人等が在宅している住宅の屋内に侵入し、金品を窃取する手口である。
(注2) 忍込みとは、夜間就寝中に住宅の屋内に侵入し、金品を窃取する手口である。
 被害者の年齢層別、侵入盗特定手口別認知件数は、表1-7のとおりである。

表1-7 被害者の年齢層別、侵入盗特定手口別認知件数(昭和60年)

(エ) 非侵入盗
 60年の非侵入盗の被害を手口別にみると、総被害認知件数の中で高齢者の被害の占める割合が高いのは、ひったくり(注1)の21.2%、詐欺盗(注2)の20.5%である。
(注1) ひったくりとは、携帯しているハンドバッグ等をひったくって窃取する手口である。
(注2) 詐欺盗とは、人を欺もうし、そのすきをみて金品を窃取する手口である。
 被害者の年齢層別、非侵入盗特定手口別認知件数は、表1-8のとおりである。
(オ) 詐欺、横領、背任
 人を欺もうして金品をだまし取る詐欺では、高齢者の被害が多いことが目立つ。60年の詐欺の被害を手口別にみると、総被害認知件数の中で

表1-8 被害者の年齢層別、非侵入盗特定手口別認知件数(昭和60年)

高齢者の被害の占める割合が高いのは、留守宅(注1)の43.6%、土地(注2)の23.9%、寸借(注3)の20.3%、証券(注4)の20.0%、会費・寄付金(注5)の19.8%、保証金(注6)の18.8%、代金(注7)の16.9%等であり、特に留守宅の割合が極めて高いことが注目される。
(注1) 留守宅とは、留守宅を訪れ、留守にしている者に関して口実を設け、留守を預かる家族等から金品をだまし取る手口である。
(注2) 土地とは、土地の売買、貸借、担保提供等を口実とし、金品をだまし取る手口である。
(注3) 寸借とは、口実を設け、寸借名義で金品をだまし取る手口である。
(注4) 証券とは、偽造、変造若しくは無効の債券等を使い、又は株券、債券等の価値を偽り、金品をだまし取る手口である。
(注5) 会費・寄付金とは、会費、寄付金等の名義で金品をだまし取る手口である。
(注6) 保証金とは、身元保証、利権の付与等を口実とし、その保証金等の名義で金品をだまし取る手口である。
(注7) 代金とは、商品の売却等を装い、前金又は内金名義で金品をだまし取る手口である。
 被害者の年齢層別、詐欺特定手口別認知件数は、表1-9のとおりである。
 また、人からの信用を悪用して財産を不法に領得する横領と背任についても、総被害認知件数の中で高齢者の被害の占める割合は、それぞれ15.3%、26.4%と高くなっている。
(2) 高齢者を犯罪から守るための警察活動
ア 独居老人等に対する保護、奉仕活動
 独居老人や老夫婦だけで暮らしている者等は、犯罪や事故の被害者となりやすく、また、日常生活を営む上で様々な悩みや不安感を抱いていることが多い。警察では、これらの高齢者が安心して暮らしていくための支えとなるよう、巡回連絡等の際に独居老人世帯等を計画的に訪問してその生活実態や悩みごとを把握するとともに、必要に応じて、防犯指導、困りごと相談、緊急時における連絡方法の教示、関係機関や親族への連絡その他の保護、奉仕活動を行っているほか、高齢者が困りごと等について気軽に警察に相談することができるような親近感の醸成に努めている。
〔事例〕 兵庫県和田山警察署では、昭和60年9月、「独居老人の近況を保護者に伝える活動」を実施し、親族等と離れて暮らしている独居老人39人を対象に、その希望に応じてスナップ写真と近況を伝える手紙を親族等に郵送した。実施後、手紙を受けた独居老人の親族等から感謝の手紙が多数寄せられた。
イ 高齢者の犯罪被害を防止するための広報活動等
 高齢者を犯罪から守るためには、まず、高齢者自身が自らを守るための知識、能力等を向上させることが重要である。このため、警察では、高齢者を対象とした各種防犯パンフレットの配布、老人クラブ、老人ホーム等における防犯講習の実施、巡回連絡等に際しての防犯指導等の方

表1-9 被害者の年齢層別、詐欺特定手口別認知件数(昭和60年)


法により、高齢者が被害を受けるおそれの強い犯罪の予防対策について啓発活動に努めている。
 また、高齢者の犯罪被害の状況をみると、身体の衰えや心のすきに付け込んだ犯罪によるものが多い。これらの犯罪の中には、高齢者自身では被害を防止することができないものも多く、このような犯罪から高齢者を守るためには、近隣者をはじめ地域全体の協力が必要である。このため、警察では、高齢者を取り巻く地域の人たちに対し積極的な広報活動等を行い、高齢者が安全に暮らしていくために必要な協力を呼び掛けている。
〔事例〕 沖縄県与那原警察署では、60年11月、「防犯を考えるお年寄りと警察のつどい」を開催し、これに参加した管内の老人クラブの会員等約450人と、身近な犯罪の予防対策や警察に対する要望等について懇談するとともに、寸劇を交えて、悪質な商法への対処方法に関する講習を行った。老人クラブからは、楽しみながら防犯の知識が得られる機会をこれからも作ってほしいという要望が出された。

2 悪質な商法による被害への対応

(1) 悪質な商法のまん延
 近年、豊田商事や投資ジャーナルの事例にみられるように、多数の人に被害を与える悪質な商法のまん延が社会問題化している。これらの悪質な商法は、正当な企業活動を装って組織的かつ巧妙に敢行されることをその特徴としており、主な形態としては、次のようなものがある。
○ 現物まがい商法(ペーパー商法)
 金地金、ゴルフ会員権等を販売すると称して、預り証だけを交付し、会社で現物を運用して得た利益のうちから一定の金額を支払うことを約束する商法である。実際には、現物を運用することもなく、集めた金を会社経費や投機的な取引の資金等に充ててしまい、客が現物の引渡しを求めても、これに応じない。
○ 証券取引、商品取引に絡む悪質な商法
 甘言を用いて、証券取引あるいは国内の私設市場や海外の商品取引所で行われている先物取引に誘い込む商法で、相場で損をしたように見せかけて被害を与える。
○ マルチ商法、マルチまがい商法
 商品の購入者を次々に販売員とし、売上げに応じて高額のマージンを支払うことを約束して販売網を拡大する商法である。販売員に過大な仕入れをさせたり、販売を促進するために他の商品を購入させるなどして被害を与える。
○ 原野商法
 値上がりが確実な土地であるかのように申し向け、ほとんど価値が無く、値上がりも期待できないような北海道の原野等の土地を、法外な値段で売り付ける商法である。
○ おめでた商法、霊感商法
 「あなたは1万人の中から選ばれて会員になる資格を与えられました」と言って喜ばせたり、あるいは「悪霊がついているから、これを取り除く必要がある」と言って不安に陥れるなど相手の心理を動揺させ、それに乗じて商品や会員権を売り付ける商法である。
(2) 悪質な商法による高齢者の被害状況
 警察では、昭和61年2月、無作為に抽出した全国の60歳以上の高齢者4,915人を対象としてアンケート調査を実施したが、取引の勧誘に関するアンケートの結果(有効回答者4,843人)は、表1-10のとおりであり、最近1年以内に、家庭を訪問されて「いいもうけ話がある」とか「悪霊を取り除いてあげる」というような勧誘を受けたことがある高齢者は、854人で、全体の17.6%に上っている。これを同居形態別にみると、老人の一人暮らし、老夫婦家庭等の高齢者だけの世帯では、21.3%の者が 勧誘を受けたことがあると回答しており、この割合は、高齢者以外の者も居る世帯での15.6%に比べて高くなっている。このことは、独居老人や老夫婦等に対して、より積極的な勧誘活動が行われていることをうかがわせるものである。

表1-10 アンケートの結果(昭和61年2月)

 勧誘を受けたことがあると回答した高齢者854人に対し、その勧誘内容を尋ねたアンケートの結果は、図1-5のとおりで、「金等の現物まがい取引」と「大豆、貴金属等の先物相場」の勧誘が特に目立ってお

図1-5 アンケートの結果(昭和61年2月)


り、これらの勧誘を受けた高齢者は、それぞれ全回答者の28.5%に当たる243人、25.1%に当たる214人に上っている。
 また、56年6月から60年5月までの4年間に、警察の困りごと相談等に寄せられた商品取引に関する相談の状況は、表1-11のとおりで、高齢者からの相談件数は、1,791件と全相談件数の41.2%を占めている。

表1-11 商品取引に関する相談の状況(昭和56年6月~60年5月)

 これを相談内容別にみると、金の現物取引に関する相談では、高齢者からの相談件数が727件で、金の現物取引に関する全相談件数の55.8%を占めており、高齢者が特に金の現物取引に関連してトラブルに巻き込まれていることが分かる。57年6月から58年5月までの間の海外商品市場における先物取引に関する相談の状況をみると、高齢者からの相談件数が487件で、全相談件数の58.6%を占め、前後の期間に比べ、いずれも著しく高い数値を示しているが、これは、海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律の施行が58年1月であったため、先物取引に関する十分な知識を持たない高齢者をねらい撃ちにした強引な勧誘が頻発したためであると思われる。
 悪質な商法による高齢者の被害状況をみると、現物まがい商法、原野商法、霊感商法等により高齢者が被害を受ける事例が目立っており、悪質業者が高齢者にねらいをつけて商品の販売等を行っていることがうかがえる。特に、原野商法の検挙事例の中には、被害者のほとんどが高齢者であるものもみられた。
〔事例〕 不動産ブローカー(48)らは、都営住宅に住む高齢者を主な対象としてアンケート調査を実施し、抽選に当たったと称して無料で温泉旅行に招待し、ホテルで投資説明会を開いて、ほとんど無価値の北海道の原野をその場で法外な値段で売り付け、55年10月から59年6月までの間に、1,803人から現金32億5,507万円をだまし取った。1月25日逮捕(警視庁)
(3) 高齢者が被害を受けやすい原因の分析
 高齢者が悪質な商法による被害を受けやすい原因として、長年の蓄えや退職金により比較的まとまった金を持っている反面、長くなった老後の生活に対する経済的な不安感を抱いていること、核家族化の進展に伴って子供や兄弟等の身近な相談相手がいなくなり、精神的に不安定であること、いわゆる財テクブームのため利殖への関心が高まっているものの、利殖に関する十分な知識を持っていないことなどを挙げることができる。
 取引の経験に関するアンケートの結果(4,915人中、有効回答者3,878人)は、図1-6のとおりで、約3分の2の高齢者が、資産形成取引の経験がないと回答している。また、取引の経験がある者について、その取引内容をみると、「土地」、「株」、「国債等の債券」が多いのに対し、「金地金、宝石等の現物取引」、「大豆、貴金属等の先物相場」が極端に少なくなっている。
 悪質業者の手口をみると、いきなり商売の話をするのではなく、親身になって話の相手をしてあげたり、旅行に招待するなど高齢者を喜ばせて契約を結ばせてしまうものや、高齢者の信仰心を利用して、「契約しないと不吉なことが起こる」などと申し向け、精神的な不安感に付け込んで取引に応じさせるものなどが目立っている。その手口が余りに巧妙なため、だまされていても高齢者がそれに気付かない場合が多く、このことがまた、犯罪の早期検挙、被害の拡大防止を妨げる大きな要因となっている。

図1-6 アンケートの結果(昭和61年2月)

(4) 高齢者を被害から守る警察活動
 悪質業者は、法律をよく研究して処罰を免れるような営業形態を採ることが多く、また、ある商法が摘発されたり、社会的に非難が高まってくると、すぐに目先を変えた新手の商法に移行してしまう傾向がある。このため、捜査活動には大きな困難が伴うが、警察では、法適用上の問題点について関係省庁と検討を行うとともに、刑法のほか、外為法、証券取引法等の各種法令を適用して悪質な商法を摘発し、同種の犯罪の再発防止を図っている。
 悪質な商法による被害を防止するためには、まず消費者の一人一人が十分な自衛意識を持つことが必要であるが、高齢者は不安感に付け込まれやすく、また、だまされたことに気付きにくいことから、警察では、高齢者を主たる対象としたリーフレットやポスターを作成、配布するなどして、消費者啓発活動を積極的に推進している。
〔事例〕 悪質な商法による高齢者の被害を防止するため、警察庁では、被害の実例を載せた「なぜだまされたの、おじいちゃん」と題するリーフレット約6万5,000部を作成し、全国の防犯協会、警察署等を通じて老人クラブ等に配布した。

3 各種事故による被害への対応

(1) 水難事故
ア 発生状況
 昭和60年の高齢者に係る水難事故の発生件数は、506件で、全水難事故発生件数の15.9%を占めており、この割合は、総人口に高齢者の占める割合が14.7%であるのに比べ、それほどの差異はない。また、死者・行方不明者では、高齢者は424人で、全体の21.2%を占めているのに対し、被救助者では、高齢者は86人で、全体の5.4%にすぎない。このように、高齢者の被救助者が死者・行方不明者に比べて極めて少ないことは、高齢者が水難事故に巻き込まれた場合には、無事救助される例よりも、死亡したり、行方不明となる例の方が多いことを示しているものと思われる。
 60年の高齢者に係る水難事故の発生状況は、表1-12のとおりである。

表1-12 高齢者に係る水難事故の発生状況(昭和60年)

 場所別、行為別にみた60年の水難事故による高齢者の死者・行方不明者の状況は、図1-7のとおりである。場所別では、「海」が142人で最も多く、全体の33.5%を占め、次いで「河川」が118人(27.8%)となっ

図1-7 場所別、行為別にみた高齢者の死者・行方不明者の状況(昭和60年)

ており、また、行為別では、「通行中」(注)が163人で最も多く、全体の38.4%を占め、次いで「魚釣り中」が97人(22.9%)となっている。
(注) 「通行中」とは、歩行中に海、河川等に転落、滑落した場合をいう。
イ 警察の対応
 高齢者人口の増加に伴い、高齢者のレジャーとしての魚釣りや健康増進のための屋外スポーツ等が年々盛んになってきていることから、警察では、警ら、巡回連絡等の外勤警察活動を通じて、事故防止のためのきめ細かな助言を行ったり、都道府県、市町村等の関係機関、団体と緊密な連携を取りつつ、事故発生のおそれのある危険な場所の実態調査や事故防止の呼び掛け等に努めている。
(2) 山岳遭難事故
ア 発生状況
 昭和60年の高齢者の山岳遭難者は、123人で、全遭難者の18.8%を占めており、この割合は、総人口に高齢者の占める割合が14.7%であるのに比べ、高くなっている。最近5年間における高齢者の山岳遭難事故の発生状況は、表1-13のとおりである。

表1-13 高齢者の山岳遭難事故の発生状況(昭和56~60年)

 60年には、北アルプス乗鞍岳で高齢者一行16人が遭難し、高齢者登山の在り方について社会への警鐘となったほか、登山の知識や十分な準備がないまま入山した高齢者が道迷い、過度の疲労、病気等によって遭難する事例が目立った。
 また、60年における高齢者の山岳遭難者123人の原因別遭難状況は、表1-14のとおりであり、「道迷い」が72人と最も多く、全体の58.5%を占めている。次いで「転落、滑落」が25人(20.3%)、「疲労、病気」が13人(10.6%)となっている。
イ 警察の対応
 近年、高齢者の登山ブームが高まる中で、登山の知識や十分な準備がないまま入山したために、高齢者が遭難する事例が目立っている。このため、警察では、高齢者が加入している山岳会、同好会のほか、老人クラブや高齢の山岳愛好者を対象として、安全な登山についての啓もう活動を行い、事故防止の徹底を図っている。

表1-14 高齢者の原因別山岳遭難状況(昭和60年)

(3) 火災
ア 被害状況
 昭和59年の火災による死者の状況(放火自殺者を除く。)は、図1-8のとおりであり、61歳以上の高齢者の死者数は、577人で、総死者数1,338人の43.1%を占めている。この割合は、総人口に61歳以上の高齢者の占める割合が13.3%であるのに比べ、かなり高率であると言える。火災による死亡の原因をみると、61歳未満の者では「熟睡」が124人(16.3%)と最も多いのに対し、61歳以上の高齢者では「病気・身体不自由」が173人(30.0%)と最も多く、次いで「着衣着火により」が117人(20.3%)、「消火しようとして」が58人(10.1%)、「熟睡」が55人(9.5%)となっている。

図1-8 火災による死者の状況(昭和59年)

イ 警察の対応
 警察では、巡回連絡等の際に、火災予防や火災発生時の対応策に関するきめ細かな指導、助言を行っているほか、家族構成や非常の場合の連絡先等を尋ねて管内の居住者の実態把握に努め、特に、独居老人宅や老夫婦家庭等については、警らや巡回連絡等の各種活動の際にできる限り立ち寄って、火災による被害を受けないように見守っている。
〔事例〕 六日町警察署A駐在所のB巡査は、12月27日午前11時ごろ、かねてから巡回連絡等を通じて一人暮らしであることを把握していたC男(71)宅を訪問したところ、居間のこたつ付近から出た火が既に床板に燃え広がっており、体の不自由な同人が一人で消火に当たっているのを発見した。B巡査は、間一髪のところで同人を家屋の外に救出するとともに、懸命の消火活動によって火を消し止めた(新潟)。


目次  前ページ  次ページ