第3章 サイバー空間の安全の確保

2 被害の未然防止・拡大防止に向けた取組

(1)サイバー空間における脅威に係る対策

① 不正アクセス対策

警察では、不正アクセス行為の犯行手口の分析に基づき、関係機関・団体とも連携し、広報啓発等の不正アクセスを防止するための取組を実施しているほか、不正アクセス行為による被害防止のための広報啓発に資することを目的として、毎年、民間企業や行政機関等に対する「不正アクセス行為対策等の実態調査」(注1)及び「アクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況等に関する調査」(注2)を行っている。

注1:令和7年の調査は、同年8月27日から同年9月19日までの間に、市販のデータベースに掲載された企業、教育機関(国公立、私立の大学等)、医療機関、地方公共団体(県・市区町村等)、独立行政法人及び特殊法人から2,951件を無作為に抽出し、調査票を郵送で配布して実施した。電子メール又は郵送により、588件の回答を得た。

注2:令和7年の調査は、同年8月27日から同年9月19日までの間に、市販のデータベースに掲載された企業のうち業種分類が「情報・通信」、「サービス」、「電気機器」又は「金融」であるもの及び国公立・私立大学のうち理工系学部又はこれに準ずるものを設置するものから、1,884件を無作為に抽出し、調査票を郵送で配布して実施した。電子メール又は郵送により、225件の回答を得た。

② インターネットバンキングに係る不正送金事犯への対策

警察では、インターネットバンキングに係る不正送金事犯に対し、関係機関・団体と連携したフィッシング被害の実態把握や、フィッシングサイトに関する分析及び関係事業者への照会等、早期の実態解明と必要な取締りを推進している。

また、警察では、JC3等との間における官民連携の枠組みも活用して把握したフィッシングサイトの情報をウイルス対策ソフト事業者等に提供するなど、積極的な被害防止対策を推進している。

さらに、インターネットバンキングに係る不正送金事犯において、暗号資産交換業者の入金受付用の金融機関口座が送金先となっている実態を踏まえ、令和7年9月、警察庁は、金融庁と連携し、一般社団法人全国銀行協会等に対して、送金元口座名義人名と異なる依頼人名で行われる暗号資産交換業者等の金融機関口座への送金取引を拒否することといった対策に取り組むよう、金融機関等へ周知するよう要請した。

 
図表3-8 暗号資産交換業者への不正送金対策
図表3-8 暗号資産交換業者への不正送金対策

加えて、フィッシングの手口が巧妙化し、被害が急増している情勢に鑑み、利用者保護を目的として、フィッシングメールが届かない環境の整備やフィッシングサイトにアクセスさせないための対策について、「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(注)に基づいた取組を進めるため、関係機関と連携して、各事業者等に働き掛けを行っている。

注:32頁参照(トピックスI)

MEMO 証券口座不正取引への対策

令和7年3月以降、証券会社をかたるフィッシングメールの送信や証券口座への不正アクセス及び不正取引が急増した。

こうした事態を受け、同年7月、警察庁は、金融庁と連名で、日本証券業協会を含む金融関係協会に対して、①送信ドメイン認証技術(DMARC等)への更なる対応促進、②フィッシングサイトの閉鎖促進、③パスキーの普及促進(図表3-9参照)等について要請を行った。証券会社におけるインターネット取引時の利用者認証の強化や警察庁及び金融庁による注意喚起をはじめとした各種対策が講じられて以降、証券口座の不正取引被害は大幅に減少した。

 
図表3-9 フィッシング対策
図表3-9 フィッシング対策
③ インターネット上の違法情報・有害情報対策
ア インターネット・ホットラインセンター及びサイバーパトロールセンターの運用

警察庁では、一般のインターネット利用者等から違法情報、重要犯罪密接関連情報(注1)及び自殺誘引等情報(注2)に関する通報を受理して、警察への通報、サイト管理者への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を運用している。令和7年中、IHCでは国内外のプロバイダ等に対して5万7,185件の違法情報の削除依頼を行い、そのうち2万7,032件(47.3%)が、1,227件の重要犯罪密接関連情報の削除依頼を行い、そのうち1,072件(87.4%)が、5,192件の自殺誘引等情報の削除依頼を行い、そのうち4,241件(81.7%)が、それぞれ削除された。

注1:個人の生命・身体等に危害を加えるおそれが高い重要犯罪等と密接に関連する情報。具体的には、例えば、爆発物の製造を直接的かつ明示的に助長等していると認められる情報、殺人等を直接的かつ明示的に請負等する情報等をいう。

注2:他人を自殺に誘引・勧誘する情報等

 
図表3-10 インターネット・ホットラインセンターにおける取組
図表3-10 インターネット・ホットラインセンターにおける取組

IHCに通報された児童ポルノのうち、外国のサーバにそのデータが蔵置されているものについては、各国のホットライン相互間の連絡組織であるINHOPE(注)の加盟団体に対し、削除に向けた措置を依頼している。

また、警察庁では、インターネット上の違法情報等を収集し、IHCに通報するサイバーパトロールセンター(CPC)を運用している。CPCでは、犯罪実行者募集情報等を自動収集してその該当性を判定するAI検索システムを導入し、サイバーパトロールの高度化を図っている。

注:現在の名称はInternational Association of Internet Hotlinesであるが、旧名称のInternet Hotline Providers in Europe Associationの略称を現在も使用している。平成11年(1999年)に設立され、令和8年2月末現在、IHCを含む57団体(52の国・地域)から構成される国際組織

イ インターネット・ホットラインセンターにおける取組の強化

令和7年9月、ギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律の施行に合わせて、IHCの運用ガイドラインを改定し、「違法オンラインギャンブル等関連情報」を違法情報に追加するなど、IHCにおける取組を強化した。

 
違法オンラインギャンブル等関連情報に関する広報啓発資料
違法オンラインギャンブル等関連情報に関する広報啓発資料
ウ 効果的な違法情報等の取締り

警察では、サイバーパトロール等により違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、効率的な違法情報の取締り及び有害情報を端緒とした取締りを推進している。

また、合理的な理由もなく違法情報の削除依頼に応じないサイト管理者については、検挙を含む積極的な措置を講じることとしている。

④ ランサムウェア対策

警察では、ランサムウェア等による被害に関する警察への通報・相談を促進し、サイバー事案の潜在化を防止するとともに、捜査活動の効率化及び再発防止を図っている。特に、国民生活に大きく影響を及ぼすおそれのある医療機関等における被害の未然防止及び拡大防止を図るため、医療機関等に対する講演や個別訪問等を実施している。

また、中小企業を主な対象として、VPN機器等のセキュリティ対策や認証情報の適切な管理、オフラインを含むバックアップの取得、ログの保存、サイバー攻撃を想定した業務継続計画(BCP(注1))の策定等について幅広く広報啓発活動に取り組んでいる。

さらに、警察庁ウェブサイト(注2)において、ランサムウェア事案の手口に関する情報等を公開し、被害の未然防止対策等を講じるよう注意喚起を行っているほか、ランサムウェア等のサイバー事案発生に備えた警察への連絡体制の整備等について、関係機関を通じて事業者等に周知している。

注1:Business Continuity Planの略

注2:https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/ransom.html
QRコード ランサムウェア対策

⑤ サイバー攻撃対策

警察では、サイバー攻撃に適切に対処するため、警察庁サイバー警察局、サイバー特別捜査部等と都道府県警察が緊密に連携して、迅速かつ的確な捜査を推進することとしている。また、サイバー攻撃を受けたコンピュータやサイバー攻撃に使用された不正プログラムを解析し、その結果や犯罪捜査の過程で得た情報等を総合的に分析するなどして、攻撃者及び手口に関する実態解明を進めており、これらの情報等は、被害の未然防止・拡大防止に向けた取組のほか、サイバー攻撃の攻撃者を公表し、非難することでサイバー攻撃を抑止する、いわゆるパブリック・アトリビューションにも活用されている。

(2)官民連携の推進

① サイバーフォースの活動

近年のサイバー事案をみると、国家を背景に持つサイバー攻撃集団による高度な攻撃が引き続き発生しているほか、新たなぜい弱性とその対策が日々発見されており、それに応じて用いられる手口も次々と変化している。

このような情勢に対応するため、警察では、都道府県警察のサイバー事案対策部門に技術的な面から支援を行う部隊であるサイバーフォースを、警察庁及び全国の情報通信部(注1)にそれぞれ設置している。サイバーフォースは、個々の重要インフラ事業者等に対する脅威情報の提供や助言、サイバーテロ対策協議会(注2)での講演、サイバー事案発生を想定した共同対処訓練を実施するなどして、官民連携の強化に努めている。また、サイバー事案発生時には、都道府県警察と連携し、被害状況の把握、被害拡大の防止、証拠保全等について技術的な緊急対処を行っている。

さらに、警察庁のサイバーフォースセンターは、全国のサイバーフォースの司令塔の役割を担っており、サイバー事案発生時には被害状況の把握等を行う拠点として機能するほか、標的型メールに添付された不正プログラムの解析、全国のサイバーフォースに対する指示等を行っている。

注1:131頁参照

注2:138頁参照

② 日本サイバー犯罪対策センター(JC3)との連携

我が国における産学官連携の枠組みとして平成26年から業務が開始されたJC3では、産学官の情報や知見の集約・分析をし、その結果等を還元することで、脅威の大本を特定し、これを軽減し、又は無効化することにより、以後の事案発生の防止を図ることとしている。警察では、捜査関連情報等をJC3において共有し、産学におけるサイバーセキュリティに関する取組に貢献するとともに、JC3において共有された情報を警察活動に迅速・的確に活用し、安全で安心なサイバー空間の構築に努めている。

 
図表3-11 JC3の概要
図表3-11 JC3の概要

MEMO フィッシングサイト撲滅チャレンジカップの開催

JC3では、専門的な知識を持たない人でもプラットフォーム事業者等に対してフィッシングサイトのテイクダウン(機能停止)依頼を行うことができるツールを開発し、サイバー防犯ボランティア等に提供している。

また、JC3では、サイバー防犯ボランティア等が同ツールを活用し、フィッシングサイトのテイクダウン件数等を競う「フィッシングサイト撲滅チャレンジカップ」を開催しており、警察庁がこれを後援している。令和7年12月と令和8年1月の2回に分けて開催された第3回大会では、55団体が参加し、2,828件のフィッシングサイトがテイクダウンされた。

MEMO 官民連携によるボイスフィッシングへの注意喚起の実施

警察庁は、令和6年秋からボイスフィッシングによる法人口座の不正送金被害が急増したことを受け、金融庁、全国銀行協会及びJC3と連名で、広報啓発資料「サイバー警察局便り」の作成・公開を行い、その犯行手口や被害防止対策等に関する注意喚起を実施した。

 
図表3-12 ボイスフィッシングの流れ
図表3-12 ボイスフィッシングの流れ
③ サイバー防犯ボランティアに対する支援

サイバーパトロールにより発見した違法情報・有害情報をIHC、サイト管理者等に通報する取組やインターネット利用者に対する講演活動等を行うサイバー防犯ボランティアは、全国で332団体、7,633人(令和7年12月末現在)となっており、警察では、全国のサイバー防犯ボランティアの研鑽(さん)の場として研修会を開催するなどして、こうした活動を行う団体の拡大と取組の活性化を図っている。

また、警察庁においては、サイバー防犯ボランティア広報啓発コンテストを開催し、その入賞作品を渋谷スクランブル交差点等に設置されたデジタルサイネージで放映するなどの取組を実施している。

 
デジタルサイネージで放映されている入賞作品
デジタルサイネージで放映されている入賞作品
④ サイバーテロ対策協議会

警察では、各都道府県警察及びサイバー事案の標的となるおそれのある重要インフラ事業者等で構成される「サイバーテロ対策協議会」を全ての都道府県において設置し、サイバー事案の脅威やサイバーセキュリティに関する情報提供、民間の有識者による講演及び参加事業者間の意見交換・情報共有を行っているほか、サイバー事案の発生を想定した共同対処訓練等を行っている。

 
サイバーテロ対策協議会
サイバーテロ対策協議会
⑤ サイバーインテリジェンス情報共有ネットワーク

警察では、情報窃取の標的となるおそれの高い先端技術を有する事業者等との間で、情報窃取を企図したとみられるサイバー事案に関する情報共有を行う「サイバーインテリジェンス情報共有ネットワーク」を構築しており、事業者等から提供された情報等を集約・分析し、事業者等に対し、分析結果に基づく注意喚起を行っている。



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