第2節 サイバー空間における脅威への対処
1 検挙に向けた取組
(1)検挙活動
警察では、サイバー空間をめぐる脅威に対処するため、検挙に向けた取組を推進している。都道府県警察のサイバー部門では、管轄する地域において必要な捜査を行っているほか、国の捜査機関であるサイバー特別捜査部では、都道府県警察と連携しながら、重大サイバー事案(注1)に対処している。また、電子機器やネットワークを利用したサービスが普及・多様化し、あらゆる犯罪に悪用されている中、サイバー部門では他部門の捜査力のみでは対処が困難な場合等における支援を推進している(注2)。
注1:3頁参照(特集)
注2:令和7年中のサイバー事案の検挙件数については124頁参照。令和7年中のサイバー犯罪の検挙件数については125頁参照
CASE
無職の男(36)らは、令和6年6月及び同年9月、大手ECサイトを装ったフィッシングサイトを公開するとともに、同年11月、不正に取得した他人のIDやパスワードといった識別符号を保管した。本件では、生成AIを悪用して当該フィッシングサイトの改修が行われていたことが判明している。一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3(注))の捜査協力を得て、令和7年6月、同男らを不正アクセス禁止法違反(識別符号の入力要求及び保管)で逮捕した(大阪)。
注:5頁参照(特集)
(2)被害の潜在化防止に向けた取組の推進
① 関係機関と連携した通報・相談の促進
サイバー事案対処に当たっては、警察への通報・相談を一層促進し、国民・事業者等からの情報を広範に収集することが求められる一方、被害者自身に対する社会的評価の悪化の懸念等から通報・相談そのものがためらわれる傾向があり、いわゆる「被害の潜在化」が課題となっている。警察では、関係機関・団体、サイバー保険(注)を取り扱う損害保険会社をはじめとする民間事業者等との連携、民間事業者等との共同対処協定の締結等を通じて、サイバー事案による被害に関する警察への通報・相談を促進している。
注:サイバー事案等により企業に生じた損害等を補填する保険
② 通報・相談しやすい環境整備
警察庁では、インターネットからサイバー事案に関する通報・相談をすることができる一元的な窓口を運用している。また、ウェブサイト等における発信を通じて、サイバー事案に関する警察への通報・相談を促す広報を行うなどの取組を実施している。
さらに、サイバー事案に関する通報・相談に適切に対応するため、採用時教養、昇任時教養等において、サイバー事案対処に関する講義を実施するなど警察職員全体の対処能力の向上に向けた人材育成を推進している。
(3)犯罪の取締りのための技術支援体制
情報化社会の進展は、匿名性が高く、追跡が困難なサイバー空間を利用した様々な犯罪の実行を容易にさせており、こうした犯罪の取締りにおいては、高度な技術的な知見が必要となっている。
このため、警察では、警察庁及び全国の情報通信部に情報技術解析課を設置し、都道府県警察等に対し、捜索・差押えの現場でスマートフォンやコンピュータ等の電子機器を適切に差し押さえるための技術的な指導や、押収した電子機器から証拠となる情報を取り出すための解析の実施についての技術支援を行っている。
また、犯罪捜査の過程で押収した電子機器は、変形、燃焼、水没等により破損していることが少なくない。そこで、警察庁情報技術解析課に設置された高度情報技術解析センターでは、高度で専門的な知識及び技術を有する職員を配置するとともに、高性能な解析用資機材を整備し、破損した電子機器の機能回復及び情報の抽出・可視化等を行っている。

CASE
令和7年5月から同年6月にかけて、警察庁高度情報技術解析センターは、無職の男(36)による未成年に対する性犯罪事件に関し、破損した状態で押収したUSBメモリ及びハードディスクを機能回復し、データを抽出できる状態にした。その結果、犯行の動機や余罪を裏付ける電磁的記録を抽出することができたことで、同事件の全容解明に貢献した。
(4)国際連携の推進
① 外国捜査機関等との連携の推進
警察庁では、多国間における情報交換や協力関係の確立等に積極的に取り組んでおり、令和7年中は、G7ローマ/リヨン・グループ(注1)に置かれたハイテク犯罪サブグループ、サイバー犯罪条約(通称:ブダペスト条約)(注2)の締約国等が参加するサイバー犯罪条約委員会会合、EUROPOL(注3)が主催するサイバー犯罪会議等の国際会議に参加した。また、ICPO(注4)が提供する各国の法執行機関職員を対象としたサイバー犯罪対策等に関する研修に我が国の警察職員が参加するなど、サイバー空間における脅威に関する情報の共有や、国際捜査共助に関する連携強化等を推進している。
さらに、情報技術解析に関する知識・経験等の共有を図るため、ICPO加盟国の法執行機関に加えて、国外の民間企業や学術機関が参加するICPOデジタル・フォレンジック専門家会合に平成28年から参加しているほか、情報セキュリティ事案に対処する組織の国際的な枠組みであるFIRST(注5)に平成17年から加盟しており、組織間の情報共有を通じ、適切な事案対処に資する技術情報の収集を行っている。
注1:昭和53年(1978年)にボン・サミットを契機に発足したG8テロ専門家会合(G8ローマ・グループ)と平成7年(1995年)にハリファクス・サミットで設置されたG8国際組織犯罪対策上級専門家会合(G8リヨン・グループ)が、平成13年(2001年)の米国における同時多発テロ事件以降合同で開催されているもので、国際組織犯罪対策やテロ対策等について検討している。なお、平成26年(2014年)3月から、G7として実施している。
注2:サイバー犯罪に関する条約。サイバー犯罪から社会を保護することを目的として、コンピュータ・システムに対する違法なアクセス等一定の行為の犯罪化、コンピュータ・データの迅速な保全等に係る刑事手続の整備、犯罪人引渡し等に関する国際協力等につき規定している。平成24年に我が国について発効した。
注3:4頁参照(特集)
注4:4頁参照(特集)
注5:Forum of Incident Response and Security Teamsの略
MEMO 外国捜査機関との連携強化に資する取組
令和7年6月、警察庁サイバー警察局では、欧州等からデジタル・フォレンジックの専門家を招へいし、破損機器の解析等に関する意見交換を実施したほか、同年9月、オランダ国家警察との間で、サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について、サイバー犯罪対策部門の長等を交えたハイレベルな意見交換を行った。また、同年11月には、EUROPOLから暗号資産追跡の専門家を招へいし、日本の捜査員向けに暗号資産の高度な追跡方法等の講演及び実習を行った。さらに、同年12月には、外国捜査機関の捜査員等を招へいし、関係各国との国際共同捜査に関する捜査情報の交換等を行った。
② 国際協力の推進
警察庁では、サイバー空間における脅威への諸外国の対処能力の向上を図るとともに、外国捜査機関等との協力関係を強化することを目的として、外務省や独立行政法人国際協力機構(JICA(注))と連携して外国捜査機関等に対する支援を行っている。平成26年度からは、外国捜査機関等のサイバー犯罪対策等に従事する職員を招へいし、サイバー空間における脅威への対処に関する知識・技術を習得させることなどを目的とした研修を実施している。
注:Japan International Cooperation Agencyの略
MEMO AIとデジタル・フォレンジックに係る国際会議の開催
近年のサイバー事案では、生成AI等の最新の技術が悪用されるなど、従来の手法による捜査では対処が困難になってきている。
令和7年10月、ICPO・警察庁・JC3共催でAIとデジタル・フォレンジックに係る国際会議「Interpol Conference on AI in Digital Forensics」を開催した。同会議には、外国捜査機関、民間企業、学術機関等から90人を超える実務者・専門家が参加し、各国で顕在化しているAIを悪用した犯罪手口やディープフェイク(注)を検知するための技術等について情報共有や討議が行われた。
注:AI技術を応用して偽の動画や音声等を作る技術

国際会議「Interpol Conference on AI in Digital Forensics」の様子