トピックス

トピックスIII 構造的な風俗関係事犯に対する警察の戦略的取組

社会構造の変化による人と人との「つながり」の希薄化が指摘されるとともに、情報通信社会の急速な進展等による国民の生活環境やライフスタイルの急速な変化が生じている中、違法・悪質な営業手法を採るホストクラブを含む風俗営業等やオンライン上で行われる賭博事犯が社会的な問題となっている。これら事案等の背後には、暴力団や匿名・流動型犯罪グループが関与し、不正な収益を得ている実態も認められるところであり、警察では、こうした新たな治安課題に的確に対応するため、戦略的な実態解明・取締り等を推進している。

(1)悪質ホストクラブに関連した収益構造の実態解明・取締り等の推進

悪質ホストクラブにおいては、女性客の好意に乗じて、およそ返済ができないことを分かっていながら大きな債務を負わせ、売春や性風俗店での稼働を余儀なくさせる悪質な営業行為が認められるほか、性風俗店やそれとの結節点となるスカウトグループ等と結託して女性を徹底的に搾取することで、不正な収益を得ている実態が認められる。こうした中、警察では、悪質ホストクラブに関連する事案(注1)について、令和6年(2024年)中は、81事件(前年比39事件(92.9%)増加)、207人(前年比121人(140.7%)増加)(注2)を検挙した。

注1:ホストクラブの経営者、従業員等が、ホストクラブの料金を背景として女性客に売春をさせるなどした事案や、無許可営業、20歳未満の者への酒類等提供等の悪質な営業を行った事案

注2:ホストクラブの経営者、従業員等のほか、女性客を紹介された性風俗店の関係者等の事案に密接に関与していた者も含む。

CASE

ホストクラブ従業員の男(28)、性風俗店等への女性のあっせんを業とするスカウトの男(33)らは、令和5年2月、売掛金の支払をさせるため、同ホストクラブの女性客(19)を大分県内のソープランドに紹介した。その後、同男らは、当該紹介の対価を、同ソープランドにおいて同女性客が売春をすることにより得た収益の一部であることを知りながら、同ソープランドの経営者の女(59)らから受け取った(いわゆるスカウトバック)。令和6年8月までに同男らを職業安定法違反(有害業務の紹介)及び組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で、同女らを売春防止法違反(場所提供業)等で逮捕した。さらに、同ソープランドが匿名・流動型犯罪グループとみられるスカウトグループからも女性の紹介を受けており、同グループが全国で同様の紹介行為を大規模に行っていたことから、令和7年4月までに同グループの首魁(かい)の男(33)ら12人を職業安定法違反(有害業務の紹介)等で逮捕した(警視庁、栃木、石川、岐阜及び大分)。

 
図表III-1 悪質ホストクラブに関連する収益構造の例
図表III-1 悪質ホストクラブに関連する収益構造の例

こうした情勢を踏まえ、令和7年5月、第217回国会において、接待飲食営業(注1)に係る遵守事項・禁止行為を追加することなどを内容とする風営適正化法の一部を改正する法律が成立し、同年6月に施行された(注2)。警察では、当該改正後の風営適正化法を厳正に運用しているほか、個々のホストやスカウトの検挙にとどまらず、悪質ホストクラブに係る違法なビジネスモデルの解体及び最終的に利益を得ている実質的な責任者やグループ全体の取締り、排除等に向けて、関連する組織・個人間の関係性、不正な収益の流れ等について情報収集・分析を徹底し、実態解明を推進している。

注1:設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業

注2:法律の概要については、QRコード参照
QRコード 悪質ホストクラブ対策について

 
図表III-2 風営適正化法の一部を改正する法律の概要
図表III-2 風営適正化法の一部を改正する法律の概要
 
風営適正化法の一部を改正する法律に関する広報啓発資料
風営適正化法の一部を改正する法律に関する広報啓発資料

(2)オンライン上で行われる賭博事犯の検挙及び実態解明の推進

スマートフォン等からアクセスして賭博を行う「無店舗型」のオンラインカジノについては、アクセス数の増加及びこれに伴う依存症の問題が強く指摘されているほか、これを通じた我が国資産の海外流出、マネー・ローンダリングへの利用等が懸念されている。

警察では、賭客の検挙のみならず、突き上げ捜査や徹底的な情報分析により、賭博運営に関与し、不正な利益を得ている決済代行業者やアフィリエイター(注1)等を常習賭博罪、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)等で検挙することで社会に警鐘を鳴らすとともに、組織的な資金獲得活動及びマネー・ローンダリングの実態解明や犯罪収益の剝奪を推進している。

そうした中で、警察では、オンライン上で行われる賭博事犯(注2)について、令和6年中には、62件(前年比49件(376.9%)増加)、279人(前年比172人(160.7%)増加)を検挙し、このうち「無店舗型」のものについては、55件(前年比50件(1000.0%)増加)、227人(前年比195人(609.4%)増加)であった。

注1:商品・サービスを供給する事業者と宣伝広告効果に応じた成功報酬が支払われることを条件として当該商品・サービスの広告を掲載する契約(アフィリエイト契約)を結び、当該広告を掲載するウェブサイト等を運営する者

注2:違法な賭博店等のパソコン等からオンラインカジノサイトにアクセスして賭博を行うものを含む。

 
オンラインカジノの違法性に関する広報啓発資料
オンラインカジノの違法性に関する広報啓発資料

MEMO オンラインカジノの実態把握のための調査研究

警察庁では、令和6年度、オンラインカジノの利用実態やサイトの情報を把握するため、オンラインカジノの実態把握のための調査研究(注)を行った。

同調査研究によれば、国内におけるオンラインカジノサイトの利用経験者の推計は約337万人であり、国内における年間賭額の推計は約1兆2,423億円であった。また、経験者のうち、約60%の者が、依存症の自覚があると回答しているほか、経験者及び未経験者のうち、約44%の者が、オンラインカジノの違法性を認識していなかったと回答している。

また、日本国内から利用される可能性が高いオンラインカジノサイトに関する情報を収集した結果、上位40サイトいずれも海外のライセンスを取得しており、このうち7割がオランダ・キュラソー島のライセンスを取得していた。さらに、調査の対象である40サイトのうち、日本からの利用が禁止されていることを明示していないサイトは38サイト、日本からのアクセス率が100%であるサイトは6サイトであった。サイトの広告手法としては、ユーザーの登録に応じ紹介者に報酬を支払うアフィリエイト広告が主流であり、著名人を広告塔に採用している実態がみられる。

注:警察庁委託調査は、アンケート調査及びオンラインカジノに関するデスクリサーチにより実施した。アンケート調査は、日本国内在住の15歳から79歳までの人を対象に、オンラインカジノに関する一般的な質問に関する調査を実施した上で、回答を得た約2万7,000人の中から、オンラインカジノの未経験者6,500人、経験者500人の合計7,000人を抽出し、利用経験に応じた調査を実施した。オンラインカジノサイトに関するデスクリサーチは、一般的なプラットフォームから検索可能なサイトに限定し、日本人向けオンラインカジノサイトを紹介する比較サイト7つにおいて、紹介頻度の高い上位40サイトを抽出し、本調査の対象とした。

 
図表III-3 オンラインカジノの実態把握のための調査研究の結果(令和6年度)
図表III-3 オンラインカジノの実態把握のための調査研究の結果(令和6年度)

こうした情勢を踏まえ、令和7年6月、第217回国会において、違法オンラインギャンブル等(注)を行う場を提供するウェブサイト等の提示や違法オンラインギャンブル等に誘導する情報の発信を禁止することに加え、違法オンラインギャンブル等を行うことが禁止されている旨の周知徹底を図るための措置を国及び地方公共団体が講ずることを内容とするギャンブル等依存症対策基本法の一部を改正する法律が成立し、同年9月から施行される。

警察では、オンラインカジノの違法性について、広報啓発を一層強化しているほか、違法オンラインギャンブル等に誘導する情報の発信等を行わないよう周知するなど、国民が違法オンラインギャンブル等に係る情報を目にする機会の減少につなげることとしている。

注:ギャンブル等のうち、国内においてインターネットを利用して違法に行われるもの

CASE

社交飲食店従業員の女(34)は、令和5年5月から令和6年4月にかけて、海外オンラインカジノサイトの運営者らとの間で交わした、宣伝広告効果に応じて報酬が受けられるアフィリエイト契約に基づき、動画配信サイト等を利用し、飲食店経営者の男(39)ら不特定多数の者に対し、同オンラインカジノサイトの利用を勧誘するとともに、同サイトに利用者登録した者に対して財産上の利益を供与すると宣伝するなどした。それにより、同女は、日本国内に居住する同男に同サイトに登録させ、常習として同サイト上で賭博をさせた。同年9月、同女を常習賭博幇(ほう)助罪で、同男を常習賭博罪でそれぞれ逮捕した(埼玉)。

 
図表III-4 オンラインカジノに関連する収益構造の例
図表III-4 オンラインカジノに関連する収益構造の例


前の項目に戻る     次の項目に進む