第7章 警察活動の支え

8 研究機関の活動

(1)警察政策研究センター

警察大学校に置かれている警察政策研究センターは、様々な治安上の課題に対する調査研究を進め、政策提言を行うとともに、警察と国内外の研究者等との交流の拠点として活動している。

① フォーラムの開催

警察政策研究センターでは、関係機関・団体と連携し、国内外の研究者・実務家を交えて社会安全等に関するフォーラムを開催している。

 
フォーラムの開催
フォーラムの開催
 
図表7-19 フォーラムの開催状況(令和6年度)
図表7-19 フォーラムの開催状況(令和6年度)

CASE

令和7年3月、公益財団法人日工組社会安全研究財団との共催により、「オンラインカジノをめぐる現状と対策」をテーマとするフォーラムを開催した。専門家及び警察庁の職員による講演・パネルディスカッションが行われ、活発に意見交換がなされた。また、同フォーラムは特設サイトにおいてオンデマンドで配信された。

② 大学関係者との共同研究の推進

警察政策研究センターでは、大学関係者と共同して研究活動を行っている。これまでに、例えば、テロ等の各種治安事象への対策を講じるに当たって、国民の自由と安全をいかにバランス良く保障していくかについて、慶應義塾大学大学院法学研究科との間で、憲法学的見地からの共同研究を行っている。

③ 大学・大学院における講義の実施

警察政策研究センターでは、警察政策に関する研究の発展及び普及のため、京都大学法科大学院・公共政策大学院、中央大学法学部・総合政策学部、東京大学公共政策大学院・法学部、東京都立大学法学部、法政大学法学部及び早稲田大学法科大学院等に職員を講師として派遣し、警察行政や社会安全政策論等に関する講義を実施している。

 
大学・大学院での講義
大学・大学院での講義
④ 警察に関する国際的な学術交流

警察政策研究センターでは、海外で開催される国際的な学術会議に参画し、日本警察に関する情報発信を行っている。また、韓国警察庁警察大学治安政策研究所、フランス高等治安・司法研究所及びドイツ・フライブルク大学安全・社会センターとの間で協定を締結し、警察に関する国際的な学術交流を実施している。

⑤ 海外調査研究員の派遣

警察政策研究センターでは、海外調査研究員を海外の大学・大学院や行政機関等に1年間派遣し、警察に係る外国の法制度等について調査研究を行っている。令和5年から令和6年にかけて、6人を英国等に派遣し、自動運転の実用化に向けた法整備等をはじめとする最新の海外の取組について調査研究を行った。

(2)警察情報通信研究センター

警察大学校に置かれている警察情報通信研究センターでは、警察に係る情報通信に関する研究を行っており、その成果は、犯罪捜査の効率化や警察における情報通信システムの整備に活用されている。

例えば、犯罪捜査等の効率化のため、防犯カメラ等に記録された低照度・低画質な画像の鮮明化技術等の画像処理に関する研究を行っている。

 
画像処理に関する研究
画像処理に関する研究

(3)科学警察研究所

科学警察研究所は、最新の科学技術に基づき警察活動を支えるため、警察庁に附置されている研究機関である。その業務は、科学技術を犯罪捜査や犯罪予防に役立てるための研究、その研究成果を活用した鑑定・検査及び都道府県警察の鑑定技術職員に対する技術指導を行うための研修という三つの柱から構成されている。

① 犯罪捜査等のための研究

科学警察研究所では、犯罪捜査をはじめとする警察活動への実用化の観点から科学技術の研究を行うとともに、鑑定等に利用する技術、資機材等についての検証等を行っている。科学警察研究所の研究によって確立・実証をされた知識や技術は、犯罪捜査における鑑定・検査に活用されており、DNA型鑑定、違法薬物の分析、画像解析、ポリグラフ検査、プロファイリング等を通じて、事件の解明、被疑者の検挙等に貢献している。

研究例 全身死後CT画像からの自動性別年齢推定システムの開発

遺体の身元確認においては、遺体の性別と年齢をできる限り正確に推定する必要がある。本研究では、死因究明のために撮影される全身死後CT画像に記録された骨格を資料とした、ディープラーニング(深層学習)等の機械学習による性別・年齢推定法の開発を行っている。また、学習用資料を増やして精度を向上させることを目的として、死後CT画像の解析を自動化するソフトウェアの開発も進めている。

 
左:サポートベクトルマシンによる頭蓋骨の性別推定(イメージ図) 右:深層学習による年齢推定における関心領域(上:腰椎椎体、下:寛骨)
左:サポートベクトルマシンによる頭蓋骨の性別推定(イメージ図) 右:深層学習による年齢推定における関心領域(上:腰椎椎体、下:寛骨)

研究例 単繊維の指掌への付着と脱離に関する研究

痴漢事犯の捜査では、被疑者と被害者との接触を裏付けるために、被疑者の指掌に付着していた単繊維と被害者の着衣の繊維との異同識別が行われるが、事件発生から被疑者の検挙、試料の採取までの間に相当数の単繊維が被疑者の指掌から脱落していると予想される。そこで、蛍光染色した木綿の単繊維を被験者の指掌に移行させた後、4つの異なる条件(指掌を覆うポリ袋の有無、指掌や他の物体との接触を避ける注意の有無)で指掌に残留する単繊維の数を計測した結果、指掌をポリ袋で覆った場合には、被験者の意識や行動に関係なく60分後でも50%以上の単繊維が指掌に残留した。このことから、被疑者の指掌に付着した証拠物としての単繊維を長時間保持し、他の繊維による汚染を防ぐ目的で、付着単繊維の検査が行われるまで被疑者の指掌をポリ袋で覆うことが望ましいと判断された。こうした知見も踏まえつつ、今後も痴漢事犯の適切な捜査を支援していくこととしている。

 
指掌に残留する単繊維の数の計測結果
指掌に残留する単繊維の数の計測結果

研究例 高齢者を対象とする運転技能検査の効果的な活用に関する研究

高齢運転者の重大事故の発生が相次いでおり、高齢運転者の交通事故防止は喫緊の課題である。そこで、令和4年に導入された、一定の違反歴のある75歳以上の運転者を対象とする運転技能検査の実施状況を把握し、運転技能と交通事故や交通違反に関連する要因を分析することで、運転技能検査の効果的な活用方法や高齢者の安全な運転継続の支援といった高齢運転者の交通事故防止のための研究を行っている。

 
センサを取り付けての運転技能の評価
センサを取り付けての運転技能の評価
② 鑑定・検査

科学警察研究所では、ミトコンドリアDNA検査(注)、薬物プロファイリングによる異同識別等の高度な専門的知識や技術が必要とされる鑑定や、火災の再現実験等の特殊な設備や技術が必要とされる鑑定を実施している。また、偽造通貨及び銃器の弾丸・薬きょう類については、全て科学警察研究所が資料の鑑定を行っている。

注:細胞核ではなく、細胞内のミトコンドリアに存在するDNAの塩基配列を分析する検査。同配列は、男女を問わず母親の配列と同一となるため、母子や兄弟姉妹間の比較に有効とされる。

③ 法科学研修所における研修

科学警察研究所に置かれている法科学研修所では、主に都道府県警察の科学捜査研究所及び鑑識部門で勤務する職員を対象として、鑑定・検査及び鑑識活動に必要となる専門的知識に関する研修を行っている。また、国内外の大学、研究機関等に、研修生をおおむね3か月から6か月までの期間にわたって派遣し、専門性を高めるための研究に従事させることによって、新たな鑑定手法の開発等に役立てている。



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