2 警備実施
(1)警衛
警察では、皇室と国民との親和に配意した警衛を実施しつつ、御身辺の安全確保と歓送迎者の雑踏等による事故防止を図っている。
令和6年中の国内での主な行幸啓は図表6-12、主なお成りは図表6-13のとおりである。



「清流の国ぎふ」文化祭2024御臨場に伴う警衛(10月、岐阜)

第43回全国豊かな海づくり大会御臨席に伴う警衛(11月、大分)
海外へは、天皇皇后両陛下が、同年6月に英国を御訪問になった。また、秋篠宮皇嗣同妃両殿下が、同年12月にトルコを御訪問になった。
(2)警護
① 要人警護の強化に係る警察の取組
令和4年7月、奈良県奈良市内において、警護対象者である安倍元首相が街頭演説中に銃撃を受け、殺害されるという重大事件が発生した。警察庁では、警察による警護を実施していたにもかかわらず警護対象者の生命を守ることができなかったことを極めて重く受け止め、同年8月、新たな警護要則を制定し、警護における警察庁の関与を強化することとした。
そのような中、令和5年4月、和歌山県和歌山市内において、演説を予定していた岸田首相(当時)に向けて、警護が実施されている中で爆発物が投てきされ、その後、当該爆発物が爆発する事件が発生し、首相のみならず聴衆を危険にさらすという重大な事態となった。これを受け、警察庁では、事実関係を確認し、その分析・評価を行うとともに、警護に関する課題及びその解決策を検討し、警護対象者及び聴衆の更なる安全確保に向けた取組を推進することとした。
警察では、これらの事件の教訓を踏まえ、以下の取組を推進している。
○ 情報の収集及び分析を通じた警護上の危険度評価
○ 警護計画の基準の策定及び警護計画案の審査
○ 警護の実施に関する警察庁への報告等
○ 警護員の増強等の警護体制の強化
○ 体系的な教養訓練計画に基づく教養訓練の充実・強化
○ 警護の高度化に資する装備資機材の充実
○ 警護対象者が参加する行事の主催者等と連携した警護の実施
○ 聴衆の安全確保
なお、新たな警護要則の制定から令和7年5月末までに警察庁が審査した警護計画案は約9,700件となった。
② 第50回衆議院議員総選挙に伴う警護
令和6年10月、第50回衆議院議員総選挙が行われた。同選挙は、新たな警護要則の施行後初めて行われた大規模国政選挙であり、同選挙期間中、多数の警護対象者が全国で遊説活動を行った。厳しい警護情勢の下、警察では、必要な態勢を構築し、組織の総力を挙げて対応し、同選挙に伴う警護を完遂した。
警察では、岸田首相(当時)に対する事件(注)を踏まえ、警護対象者の身辺の安全を確保する観点から、主催者に対し、講演、演説等の実施場所として適切な場所を選定することを含め、警護対象者に危害を加えようとする者の接近を防止するため、講演、演説等の実施場所に応じた実効的な安全確保措置を講ずるよう、働き掛けを強化してきた。
こうした取組の結果、同選挙期間中、警護対象者が参加する街頭演説や屋内演説会においては、警察と主催者が緊密に連携した上で手荷物検査・金属探知検査を一律実施するなどの諸対策を講じ、警護対象者と聴衆の安全を確保することができた。
警察では、同選挙に伴う警護で得られた教訓も踏まえ、引き続き、主催者との連携を深化させつつ、警護についての国民の理解と協力を得るための取組を進めるとともに、警護の実施状況や情勢の変化を踏まえて、警護の在り方について不断の見直しに努め、警護に万全を期すこととしている。
注:214頁参照

第50回衆議院議員総選挙に伴う警護(10月、埼玉)

主催者による手荷物検査の実施
③ 令和6年の主な警護
令和6年中の首相の主な海外訪問は図表6-14、主な外国要人の来日は図表6-15のとおりである。警察では所要の警護を実施し、要人の身辺の安全を確保した。


(3)機動隊の活動
都道府県警察には、集団警備力によって有事即応体制を保持する常設部隊として機動隊が設置されているほか、管区機動隊、第二機動隊等が設置されている。
また、専門的な知見・能力が求められる様々な事案に対応するための専門部隊が設置されており、その能力を生かして第一線で活動している。

機動隊の訓練


(4)雑踏警備
祭礼、花火大会等の恒例行事や、ハロウィーン等のイベントが開催される場合は、多数の人が集まることにより雑踏事故が発生するおそれがある。
このため、警察では、あらかじめ行事やイベントの主催者に対し、必要な安全対策をとるよう指導しているほか、主催者が存在しない場合においても、行事やイベントにおいて多数の人が集まる場所を管轄する自治体に対して必要な働き掛けを行うなどしている。
また、主催者又は自治体と連携し、公共交通機関等に対し、事前広報の実施や誘導員の配置等について必要な協力を働き掛けるとともに、警察部隊の投入が必要と判断される場合には、所要の体制を確立した上で、主催者又は自治体と連携し、雑踏警備を実施している。


プロ野球チーム優勝パレードの際の横浜における雑踏警備の状況(11月、神奈川)
(5)小型無人機対策
警察では、小型無人機等飛行禁止法等を適切に運用するなど、小型無人機を悪用したテロ等の未然防止に努めている。具体的には、重要施設等の周辺において警戒を実施し、不審者の発見に努めたり、操縦者が利用するおそれのあるビルや敷地等の管理者に対して、出入口の施錠の徹底を働き掛けたりするなどの対策を進めている。また、重要施設等周辺の公園等の管理者に対して、関係機関と連携しながら、小型無人機の飛行が禁止されている旨を周知する看板の設置等について働き掛けるほか、訪日外国人に対し、小型無人機に関する規制を周知するリーフレットの配布等を関係機関に申し入れるなどの取組を推進している。
さらに、飛行している小型無人機を早期に発見するため、小型無人機の位置を特定する検知器等も活用しつつ上空に対する警戒を行っているほか、違法に飛行している小型無人機を発見した場合には、対処資機材を用いるなどして、小型無人機による危害を防止することとしている。小型無人機の更なる普及や性能の向上を見据え、警察では、必要な資機材の整備、各種訓練の実施等により、小型無人機を悪用したテロ等への対処能力を向上させることとしている。
(6)警察用航空機(ヘリコプター)の活用
警察では、ヘリコプターテレビシステムやホイスト救助装置(注)等の様々な資機材が装備された警察用航空機(ヘリコプター)を全国に配備しており、その機動力を生かしたパトロール、被疑者の追跡、重大事件発生時における情報収集等を行っている。また、大規模災害をはじめとする緊急事態等の対処を念頭に、警察用航空機の操縦士を計画的に養成するため、操縦資格の取得のための専門的な教養を実施するなど、警察用航空機の運用能力の更なる向上に向けた取組を推進している。
注:航空機の機外に装着した電動装置を用いて、ワイヤーで人や物を昇降させるための装備

警察用航空機を活用したパトロール
MEMO 大阪・関西万博の開催に向けた警察の取組
令和7年4月13日から10月13日までの184日間、大阪府大阪市夢洲(ゆめしま)において、大阪・関西万博が開催される。
大阪・関西万博は、開催期間中には約2,800万人の来場者が見込まれており、また、開閉会式やナショナル・デー等の機会には、国内外から多数の要人の来訪が予想されるなど、国際的にも高い注目を集めている。
警察庁においては、令和6年7月、警察庁次長を長とする「大阪・関西万博警備対策推進室」を設置し、また、開催地を管轄する大阪府警察においては、令和5年4月、副本部長を長とする「大阪府警察万博対策本部」を設置するなど、所要の体制を構築した。大阪・関西万博に向けて、主催者等と緊密に連携し、「会場等におけるテロ等違法行為の未然防止」、「会場内外における雑踏事故等の未然防止」といった、大阪・関西万博期間中における安全・安心の確保に向けた取組を推進している。

万博会場における警戒状況