第4章 組織犯罪対策

第4章 組織犯罪対策

第1節 匿名・流動型犯罪グループ対策

1 匿名・流動型犯罪グループの情勢

(1)匿名・流動型犯罪グループの特徴

暴力団勢力が衰退していく中、暴力団のような明確な組織構造は有しないが、先輩・後輩、友人・知人といった人間関係に基づく緩やかなつながりで集団を構成しつつ、暴力団等と密接な関係を有するとうかがわれる集団も存在しており、警察では、従来、こうした集団を暴力団に準ずる集団として「準暴力団」と位置付け、取締りの強化等に努めてきた。

こうした中、近年、準暴力団に加え、SNSや求人サイト等を利用して実行犯を募集する手口により特殊詐欺等を広域的に実行するなどの集団がみられ、治安対策上の脅威となっている。これらの集団は、各種資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化され、実行犯はSNS等でその都度募集され流動化しているなどの特徴を有する新たな形態のものである。

警察では、こうした集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と位置付けた上、その動向を踏まえ、繁華街・歓楽街対策、特殊詐欺対策、侵入強盗対策、暴走族対策、少年非行対策等を担う関係部門間における連携を強化し、匿名・流動型犯罪グループに係る事案を把握するなどした場合の情報共有を行い、部門の垣根を越えた実態解明を図るとともに、あらゆる法令を駆使した取締りの強化に努めている。

匿名・流動型犯罪グループの中には、その資金の一部が暴力団に流れているとみられるものや、暴力団構成員をグループの首領やメンバーとしているもの、暴力団構成員と共謀して犯罪を行っているものも確認されている。匿名・流動型犯罪グループの中には暴力団と何らかの関係を持っているものもみられ、両者の間で結節点の役割を果たす者も存在するとみられる。

 
図表4-1 暴力団及び匿名・流動型犯罪グループの特徴
図表4-1 暴力団及び匿名・流動型犯罪グループの特徴
① 中核的人物の匿名化と犯罪実行者の流動化

匿名・流動型犯罪グループが関与する事件をみると、中核的人物が、自らに捜査が及ぶことのないようにするため、匿名性の高い通信手段を使用して実行犯への指示をするなど、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分は匿名化される一方、犯罪の実行者は、SNSでその都度募集され、検挙されても新たな者が募集されるなど流動化しているという特徴がみられる。

② 多様な資金獲得活動とその収益の還流

匿名・流動型犯罪グループは、特殊詐欺をはじめ、組織的な強盗や窃盗、違法なスカウト行為、悪質なリフォーム業、薬物密売等の様々な犯罪を実行し、その収益を有力な資金源としているほか、犯罪によって獲得した資金を風俗営業等の新たな資金獲得活動に充てるなど、その収益を還流させながら、組織の中核部分が利益を得ている構造がみられる。

(2)匿名・流動型犯罪グループによる多様な資金獲得活動の動向

令和6年(2024年)中の匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪(注1)について、主な資金獲得犯罪(注2)の検挙人員を罪種別にみると、詐欺が過半数を占め、次いで窃盗、薬物事犯、強盗、風営適正化法違反の順となっている。

注1:匿名・流動型犯罪グループによる資金獲得犯罪とは、匿名・流動型犯罪グループの活動資金の調達につながる可能性のある犯罪をいい、特殊詐欺や強盗、覚醒剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝又は強要、窃盗、各種公的給付金制度を悪用した詐欺等のほか、一般の経済取引を装った違法な貸金業や風俗店経営、AVへのスカウト等の労働者供給事業等をいう。

注2:詐欺、強盗、窃盗、薬物事犯及び風営適正化法違反

 
図表4-2 匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員
図表4-2 匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員
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匿名・流動型犯罪グループは、特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺に加え、令和6年8月以降、関東地方において相次いで発生した、SNS等で募集された犯罪の実行者による凶悪な強盗等や、悪質ホストクラブ事犯、組織的窃盗・盗品流通事犯、悪質リフォーム事犯のほか、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等のサイバー犯罪に至るまで、近年、治安対策上の課題となっている多くの事案に深く関与している実態が認められる。

警察では、こうした多様な資金獲得活動に着目した取締りにより、匿名・流動型犯罪グループに対して効果的に打撃を与えるとともに、組織的犯罪処罰法等の積極的な適用により犯罪収益の剝奪を推進している。

CASE

無職の男(44)らは、令和5年2月、インターネットバンキング利用者の口座に不正にログインし、同利用者になりすまして開設した暗号資産取引口座に紐(ひも)付けられた預金口座に約1,200万円を不正に送金するなどした。同男を指示役とするグループは同様の手口での犯行を繰り返しており、関東管区警察局サイバー特別捜査部が、関係都道府県警察による捜査を通じて得られた情報を集約・分析するとともに、暗号資産の移転状況を追跡するなどした結果、同グループの活動実態を解明し、令和6年8月までに、同男ら9人を不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為)等で逮捕した(サイバー特別捜査部、警視庁、広島、北海道、宮城、茨城、群馬、千葉、静岡、大阪、兵庫、奈良、岡山、愛媛、福岡、長崎及び熊本)。

CASE

建設業の男(32)らは、令和5年12月、点検を装って静岡県内の住宅2軒を訪問し、自ら同住宅の屋根を損壊した上で、修理が必要である旨申し向け、被害者2人から屋根補修塗装工事代金名目で合計約60万円をだまし取った。令和6年9月までに、同男ら3人を詐欺罪等で逮捕した(静岡)。



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