第4章 組織犯罪対策

2 匿名・流動型犯罪グループへの対策

(1)実態解明及び取締りのための体制強化

匿名・流動型犯罪グループが、その匿名性・流動性を利用して、特殊詐欺、強盗・窃盗等の多様な資金獲得活動を行っている実態を踏まえ、その組織構造や内部統制、資金の流れ等を解明し、有効な対策を講じるべく、警察庁において、長官官房審議官(調整担当)及び長官官房参事官(匿名・流動型犯罪グループ対策担当)の取りまとめの下、部門横断的な情報共有、実態解明等を推進するとともに、全国の都道府県警察においても、組織犯罪対策等を担当する参事官級の職員を総合対策の司令塔とし、関係部門における対策の取組状況等を集約し、部門横断的な情報共有、実態解明等を推進している。

 
図表4-3 匿名・流動型犯罪グループの対策推進体制
図表4-3 匿名・流動型犯罪グループの対策推進体制

また、匿名・流動型犯罪グループによって実行される特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺について、都道府県警察の垣根を越えて迅速かつ効果的な捜査を推進するため、令和6年4月、他の都道府県警察から依頼を受けて管轄区域内で行うべき捜査を遂行する「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT(注))を、各都道府県警察に構築した。特に捜査事項が集中すると見込まれる警視庁、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪及び福岡の7都府県警察では、それぞれ専従の捜査体制を構築し、全国警察から派遣される捜査員を加え、合計約500人の捜査員を配置した。

令和6年中のTAITを活用した特殊詐欺事件等の検挙件数は323件であった。

注:Telecom scam Allianced Investigation Teamの略。「タイト」と呼称している。

CASE

無職の男(22)は、令和6年4月、高齢者の息子になりすまし、高齢者に対し、「現金を至急必要としているので、代わりに行く者に現金を渡してほしい」などと虚偽の事実を告げ、同男が息子のために現金を預かるものと同高齢者に誤信させ、現金1,000万円をだまし取った。同月、京都府警察による捜査の過程で、同男が京都駅から東京方面の新幹線に乗車中であることが判明し、同府警察が警視庁に新幹線停車駅への捜査員の配置及び同男の確保を依頼した結果、警視庁のTAIT捜査員が品川駅で降車した同男を確保後、同府警察が詐欺罪で逮捕した(京都及び警視庁)。

(2)戦略的な実態解明及び取締り等

中核部分の匿名化及び犯罪実行者の流動化といった新たな特徴を有する匿名・流動型犯罪グループを壊滅・弱体化するためには、同グループの主な資金獲得活動について、警察の各部門・各都道府県警察が垣根を越えて実態解明に取り組み、解明された情報を踏まえた最適な体制によりこれを取り締まるなど、警察の総力を挙げた戦略的な実態解明、取締り等を推進する必要がある。

こうした点を踏まえ、昨今、匿名・流動型犯罪グループが深く関与し治安対策上の課題となっている事犯を重点取組対象事犯として指定し、全国警察及び警察庁が連携して、これを踏まえた同グループの戦略的な実態解明、取締り等を推進している。

また、匿名・流動型犯罪グループの中核的人物等のうち、特に全国的な見地から速やかに活動実態を解明した上で取り締まるべき対象を取締りターゲットに指定し、全国警察及び警察庁が連携して、同グループの壊滅に向けた戦略的な取締り等を推進しているところ、対策の更なる強化を図るため、今後、警察庁における情報の集約・分析体制を強化するほか、取締りターゲットに係る専従の捜査体制を整備することとしている。

 
匿名・流動型犯罪グループ対策に係る全国司令塔会議
匿名・流動型犯罪グループ対策に係る全国司令塔会議

MEMO 組織的なマネー・ローンダリング事犯への対策

匿名・流動型犯罪グループは、獲得した犯罪収益について巧妙にマネー・ローンダリングを行っている。その手口は、コインロッカーを使用した現金の受渡し、架空・他人名義の口座を使用した送金、他人の身分証明書等を使用した盗品等の売却、暗号資産・電子マネー等の使用、犯罪グループが関与する会社での取引に仮装した出入金、外国口座の経由等、多岐にわたり、捜査機関等からの追及を回避しようとしている状況がうかがわれる。

特に、暗号資産を悪用したマネー・ローンダリングへの対策として、警察では、こうした様々な犯罪に悪用される暗号資産の移転状況を追跡するとともに、警察庁において、追跡結果を横断的・俯瞰的に分析し、その結果を都道府県警察と共有している。こうした取組により、例えば、インターネットバンキングに係る不正送金事犯と特殊詐欺事案に関して同一被疑者の関与が判明するなど、従来の捜査では必ずしも明らかにならなかった複数事案の関連性や、背景にある組織性等が浮き彫りになっているところであり、今後も更なる捜査の進展が期待される。

 
図表4-4 犯罪組織における暗号資産を悪用した資金の流れ(イメージ)
図表4-4 犯罪組織における暗号資産を悪用した資金の流れ(イメージ)


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