5 構造的な不正事案への対策
(1)政治・行政をめぐる不正事案
国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。
しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、通常は被害申告や目撃者の証言等が期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。
警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。

CASE
元岐阜県池田町長の男(76)は、令和4年7月に執行された保育園の空調機設置工事の入札に関し、電気工事会社の代表取締役の男(62)に対し、他の指名業者に関する情報を漏えいし、その謝礼等として、現金100万円を収受した。令和6年6月から同年7月までに、同元町長の男を収賄罪等で逮捕した(岐阜)。
CASE
第50回衆議院議員総選挙(令和6年10月27日施行)の際、大阪府太子町議会議員の男(55)は、令和6年10月、選挙運動員2名に対し、特定の候補者への投票を依頼するなどの選挙運動の報酬として、現金合計6万7,000円を供与した。同年11月、同町議会議員の男を公職選挙法違反(買収)で逮捕した(大阪)。
(2)経済をめぐる不正事案
企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺、横領等の違法事案のほか、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯や、国及び地方公共団体の補助金等の不正受給事犯が後を絶たない状況にある。また、弁護士や税理士といった社会的地位を有する者による詐欺、横領等の犯罪も発生している。
警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯その他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。
このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を運用して事案の早期解明を図っている。

CASE
機械工具の販売加工等を事業目的とする会社の元代表取締役の男(69)らは、融資金名目で金銭をだまし取ろうと考え、同社が資金繰りに窮しているにもかかわらず、経営状態が良好であるかのように装い、内容虚偽の決算報告書を金融機関に提出して融資申込みを行い、令和4年12月から令和5年2月にかけて、2つの金融機関から合計11億円をだまし取った。令和6年6月から同年7月までに、同男ら3人を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。
CASE
不動産販売業の男(33)らは、認知症である高齢者の心神耗弱に乗じて金銭をだまし取ろうと考え、同高齢者に不動産を共同所有とする不動産売買契約を締結させた上、令和5年6月、同男らが管理する口座に現金合計5,000万円を振込入金させた。令和6年6月、同男ら4人を準詐欺罪で逮捕した(警視庁)。
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さいたま市PTA協議会の元会長である男(59)らは、令和4年4月、自己の用途に費消する目的で、同協議会のため預かり保管中の預金を現金出金するなどし、合計485万円を横領した。令和6年6月、同男ら3人を業務上横領罪で逮捕した(埼玉)。
CASE
弁護士の男(48)は、令和5年12月から令和6年1月にかけて、会社役員の男(51)らが詐欺の被害金回復等をうたい、弁護士でないのに報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱った際、同男らに自らの弁護士名義を利用させた。同年6月から同年8月までに、弁護士の男ら13人を弁護士法違反(非弁護士との提携の禁止等)で逮捕した(警視庁)。