特集 匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組

第3節 今後の展望

匿名・流動型犯罪グループは、多様な資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化され、実行犯はSNSでその都度募集され流動化しているなどの特徴を有する、新たな形態のものである。こうしたグループが敢行する多様な資金獲得活動には、特殊詐欺等、その被害を拡大させているものや、強盗といった国民に大きな不安を与える凶悪な犯罪も含まれていることは、第1節第2項で述べたとおりである。国民の不安を払拭するためにも、こうした犯罪の検挙と抑止が急務である。

このような情勢から、警察が今後一層取り組むべき課題として、次のものが挙げられる。

(1) 実態解明と取締りの徹底

匿名・流動型犯罪グループによる多種多様な資金獲得活動は、特殊詐欺のみならず、SNS型投資・ロマンス詐欺、強盗や風俗関係事犯、サイバー空間における犯罪にまでその裾野を広げつつあるとみられる。活動分野を拡大するこうしたグループの弱体化と壊滅のために、全国警察が収集した犯罪グループに関する情報を集約・分析し、その実態を解明するとともに、分析結果に基づく統一的な指揮の下で全国警察が一体となり、中核的人物の検挙、徹底した犯罪収益の剝奪、資金源の遮断等の取締りを実施することが必要である。これについては、第2節でも述べたように、現在、都道府県警察において、部門の垣根を越えて匿名・流動型犯罪グループの犯罪手口、資金源等の活動実態を明らかにするための実態解明、中核的人物の取締りを行うための事件検挙に取り組んでおり、成果を上げつつあるところである。

(2)新たな情報通信技術・科学技術への対応

匿名・流動型犯罪グループに対する実態解明及び取締りを困難としている要因の一つに、同グループがSNSや匿名性の高い通信手段、暗号資産を用いたマネー・ローンダリング等、情報通信技術や科学技術の進展に合わせて、新たな技術を取り込みながらその活動を巧妙化させているという点が挙げられる。

警察においては、このように社会情勢の変化に伴い変容を続ける匿名・流動型犯罪グループに対して後手に回ることのないよう、情報通信技術や科学技術に精通した人材を育成するなどし、警察の技術力を活かして対策の高度化を図っていくことが求められている。

(3)取締体制の不断の見直し

匿名・流動型犯罪グループが敢行する、特殊詐欺をはじめとした広域的な資金獲得活動に対しては、広域的かつ弾力的な警察力の運用が重要となる。これについては、第2節で述べたように、全国各地で発生した特殊詐欺事件に関して他の都道府県警察からの依頼を受けて管轄区内の捜査を行う体制として「TAIT」が整備されたところである。今後、こうした捜査体制を余すところなく活用し、都道府県警察の枠にとらわれない、強力な取締りを一層推進していく必要がある。

また、警察庁においても、令和6年4月、長官官房参事官(特殊詐欺対策及び匿名・流動型犯罪グループ対策担当)を設置し、これを司令塔として、各部門が一体となった対策を一層推進していくこととしている。

(4)関係機関・団体との連携強化

匿名・流動型犯罪グループへの対策を推進していくに当たっては、関係機関との連携も必要不可欠である。非行少年グループや不良外国人グループが匿名・流動型犯罪グループの中に含まれている可能性もある中、少年や外国人がこうしたグループに加わらないようにし、また、高齢者をはじめ国民一般が匿名・流動型犯罪グループによる犯行の被害に遭わないようにするためには、警察での取組はもちろん、関係機関・団体等が一体となって総力を挙げたアプローチを行う必要がある。これについては、政府においても、「国民を詐欺から守るための総合対策」が策定されたところであり、同対策に基づく施策を推進していく必要がある。

匿名・流動型犯罪グループは、社会のトレンドの変化、科学技術の進展に合わせ、犯罪の手口、組織の連絡手段、組織形態等を変化させながら、国民の被害を拡大させ、取締りを逃れようとしている。

警察では今後、従来の方法にとらわれることなく、組織の総力を挙げて、匿名・流動型犯罪グループに対する実態解明及び取締りを強力に推進していく。



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