第2節 匿名・流動型犯罪グループへの対策
1 実態解明・取締りのための体制強化
(1)匿名・流動型犯罪グループに対する戦略的な取締りのための体制強化
匿名・流動型犯罪グループが、その匿名性、流動性を利用して、特殊詐欺、強盗・窃盗等の多様な資金獲得活動を行っている実態を踏まえ、犯罪グループの収益構造に切り込んでいくべく、警察では、部門や罪種にこだわることなく、犯罪実態やターゲットの活動実態に応じた、警察の総合力を発揮できるような新たな体制を構築した上で、徹底した取締りを推進している。特に、匿名・流動型犯罪グループをターゲットとし、部門間の縦割りを排した専従体制として、令和6年(2024年)4月、全国警察において、暴力団、特殊詐欺に対する既存の取締り体制とは別に、匿名・流動型犯罪グループの犯罪手口、資金源等の活動実態を明らかにするための実態解明体制、中核的人物等の取締りを行うための事件検挙体制を、新たに整備した。
また、匿名・流動型犯罪グループを弱体化させるべく、犯罪で得た資金を確実に剝奪するため、その資金獲得活動とマネー・ローンダリングの実態解明等を推進することを狙い、犯罪収益の解明を担う既存の体制を拡充した。
さらに、大規模な繁華街・歓楽街を管轄する都道府県警察においては、繁華街・歓楽街を中心に風俗営業等の多様な資金獲得活動を行う匿名・流動型犯罪グループの実態解明・取締りのため、組織犯罪対策部門、生活安全部門等で構成する専従体制を構築し、部門横断的な対策を講じるなどしている。

MEMO 警視庁「犯罪集団等の実態解明及び取締りに関する特命チーム」
警視庁では、令和4年12月、「犯罪集団等の実態解明及び取締りに関する特命チーム」を発足させた。同チームは、副総監を長として、犯罪集団等に関する情報の集約・分析を行うとともに、事案対処のための部門横断的なタスクフォースを立ち上げ、実態解明及び取締りを推進している。
例えば、「風俗・スカウトタスクフォース」では、暴力団や匿名・流動型犯罪グループが、繁華街・歓楽街を中心として風俗営業等や賭博、スカウト・客引き等に関わり、その収益や他の犯罪によって蓄えた資金を新たな風俗営業等の事業に充てるなど、犯罪収益等を還流させている実態がうかがわれることを踏まえ、暴力団対策課、組織犯罪対策総務課、国際犯罪対策課、薬物銃器対策課、組織犯罪対策特別捜査隊、保安課及び生活安全特別捜査隊が連携し、犯罪組織に対する実態解明と取締りを推進している。
「風俗・スカウトタスクフォース」では、令和5年6月、インターネット上に開設されたサイトを通じて応募した中国人女性を雇って中国人客を相手に池袋地区で売春をさせていた風俗店の経営者の男(40)らを風営適正化法違反(禁止地域営業)等で検挙するなどしている。
MEMO 匿名通報ダイヤルの運用
犯罪組織に関する情報を警察へ通報する手段としては、110番通報や警察総合相談電話等が存在するが、これらは警察に対する直接の通報であることから、通報者の身元が特定され、事情聴取等の形で刑事手続に関わることとなる可能性があることを理由に、通報をちゅうちょすることがあると推察される。特に、組織犯罪については、組織からの報復や嫌がらせを恐れ、警察への通報に踏み切れないケースが少なくない。
警察では、このような事情を踏まえ、匿名で寄せられた通報を受け付け、有効な通報を行った者に対して情報料を支払う匿名通報事業(匿名通報ダイヤル)を活用し、匿名・流動型犯罪グループをはじめとする犯罪組織の実態解明や取締りに役立てている。

匿名通報ダイヤルに関する広報啓発資料
(2)広域的な捜査連携の強化
暴力団や匿名・流動型犯罪グループによって敢行される特殊詐欺は、全国各地で被害が発生しているが、その被疑者や犯行拠点の多くは首都圏をはじめとした大都市に所在していることから、捜査範囲が広域にわたる捜査をいかに効率的に行うかが課題になっていた。
こうした状況を踏まえ、全国警察が一体となって効率的に捜査を進めるため、令和6年4月から、他の都道府県警察から依頼を受けて管轄区域内で行うべき捜査を遂行する「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT(注))を、各都道府県警察に構築した。特に捜査事項が集中すると見込まれる警視庁、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪及び福岡の7都府県警察では、それぞれ専従の捜査体制を構築し、全国警察から派遣される捜査員を加え、合計約500人の捜査員を配置した。
また、SNS型投資・ロマンス詐欺についても、捜査手法等において特殊詐欺と共通する点があることから、迅速かつ効果的な捜査を推進するため、TAITを活用している。
注:Telecom scam Allianced Investigation Teamの略。「タイト」と呼称している。


全国特殊詐欺取締主管課長等会議において、刑事局長がTAITの運用方針等について都道府県警察へ指示