特集 匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組

2 匿名・流動型犯罪グループによる多様な資金獲得活動の動向

匿名・流動型犯罪グループは、特殊詐欺をはじめ、様々な犯罪により資金を獲得しているとみられる。警察では、こうした多様な資金獲得活動に着目した取締りにより、同グループに対して効果的に打撃を与えるとともに、組織的犯罪処罰法等の積極的な適用により犯罪収益の剝奪を推進している。

令和6年4月から5月までの間における匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪(注1)について、主な資金獲得犯罪(注2)の検挙人員508人を罪種別にみると、詐欺が289人、強盗が34人、窃盗が103人となっており、匿名・流動型犯罪グループが詐欺を主な資金源としている状況がうかがわれる。

また、令和6年4月から5月までの間における同グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員のうち、SNSでの犯罪実行者募集情報に応募する形で犯行に関与した者は155人と、全体の30.5%を占めている。

注1:匿名・流動型犯罪グループによる資金獲得犯罪とは、匿名・流動型犯罪グループの活動資金の調達につながる可能性のある犯罪をいい、特殊詐欺や強盗、覚醒剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝又は強要、窃盗、各種公的給付金制度を悪用した詐欺等のほか、一般の経済取引を装った違法な貸金業や風俗店経営、AVへのスカウト等の労働者供給事業等をいう。

注2:詐欺、強盗、窃盗、薬物事犯及び風営適正化法違反

 
図表特-3 匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員
図表特-3 匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる主な資金獲得犯罪の検挙人員
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(1)特殊詐欺

令和5年中の特殊詐欺の認知件数は1万9,038件、被害額は約453億円と、認知件数は3年連続、被害額は2年連続で増加し、高齢者を中心に多額の被害が生じており、依然として深刻な情勢にある。

令和5年中の特殊詐欺の検挙人員2,455人のうち、暴力団構成員等の人数は439人(17.9%)と、依然として暴力団が特殊詐欺を主要な資金源の一つとしている実態がうかがわれる一方、近年は、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる特殊詐欺が広域的に行われている状況がみられる。

特殊詐欺を敢行する匿名・流動型犯罪グループは、SNS等で高額な報酬を示唆して「受け子」等を募集し、犯行に加担させるなどしている。

また、首謀者、指示役、実行役の間の連絡手段には、匿名性が高く、メッセージが自動的に消去される仕組みを備えた通信手段を使用するなど、犯罪の証拠を隠滅しようとする手口が多くみられる。

 
犯罪実行者募集情報の掲載イメージ
犯罪実行者募集情報の掲載イメージ

CASE

無職の男(43)らは、令和4年6月、市役所職員等を装って高齢者に電話をかけ、還付金を受け取ることができるなどと虚偽の事実を告げ、その旨を誤信した同高齢者にATMを操作させて、同男らの管理する預金口座に約46万円を振り込ませるなどした。同男らは、特殊詐欺グループに属し、グループ内の連絡手段に匿名性の高い通信手段を使用するなどして犯行に及んでいた。令和5年9月までに、同男ら12人を電子計算機使用詐欺罪等で逮捕した(大分)。

さらに、近年、特殊詐欺を敢行する犯罪グループは、架け場等の拠点を小規模化・多様化して短期間で移転させる傾向を強めているほか、首謀者や指示役のほか、架け子・架け場が海外に所在するなどのケースもみられる。

CASE

職業不詳の男(38)らは、カンボジア国内において、令和5年1月、通信事業者を装って高齢者に電話をかけ、「有料サイトの未払料金等がある。指定する方法で未払料金等を支払ってほしい」などと虚偽の事実を告げ、25万円相当の電子マネーを購入させてだまし取った。同男らは、匿名性の高い通信手段を使用するなどして緩やかな結び付きでつながり、複数の高齢者に対して同様の手口で犯行を敢行していた。同年4月、カンボジアから退去強制された同男ら19人を、詐欺罪で逮捕した(警視庁、宮城、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、新潟、長野、静岡、富山、岐阜、愛知、京都及び熊本)。

(2)SNS型投資・ロマンス詐欺

令和5年下半期において、SNSを使用した非対面型の投資詐欺やロマンス詐欺の被害が急増し、同年中の被害額は、特殊詐欺の被害額(約453億円)を上回る約455億円に上るなど、極めて憂慮すべき状況にある。

 
図表特-4 SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数・被害額(令和5年・月別)
図表特-4 SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数・被害額(令和5年・月別)
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これらの詐欺では、被疑者がSNSやマッチングアプリを通じて被害者と接触した上で、他のSNSに連絡ツールを移行し、やり取りを重ねて被害者を信用させ、預貯金口座への振込みにより被害金をだまし取るといった手口がみられる。同年中の被害状況をみると、被害者の年齢は、男性は50歳代から60歳代、女性は40歳代から50歳代の被害が多く、また、同年におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の1件当たりの平均被害額は1,000万円を超えている。SNS型投資・ロマンス詐欺については、被害実態や犯行手口が必ずしも十分に明らかになっていないことから、これを早急に解明する必要がある。

 
図表特-5 被害者の年齢層(SNS型投資詐欺)
図表特-5 被害者の年齢層(SNS型投資詐欺)
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図表特-6 被害者の年齢層(SNS型ロマンス詐欺)
図表特-6 被害者の年齢層(SNS型ロマンス詐欺)
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こうした情勢を踏まえ、令和6年6月、犯罪対策閣僚会議において、「国民を詐欺から守るための総合対策」(注1)が決定され、SNS型投資・ロマンス詐欺のほか、特殊詐欺やフィッシング詐欺を含め、この種の犯罪から国民を守るため、関係省庁・事業者等が連携し、同対策に基づく施策を推進することとされた。

SNS型投資・ロマンス詐欺には、匿名・流動型犯罪グループの関与がうかがわれることから、警察では、同グループが資金獲得活動として同種事案を敢行している可能性も視野に、SNS型投資・ロマンス詐欺対策が新たな「警戒の空白」(注2)となることのないよう、部門横断的な体制を構築した上で、特殊詐欺対策及び匿名・流動型犯罪グループ対策と一体的に捜査と抑止を含む総合的な対策を強力に推進していくこととしている。

注1:21頁参照

注2:警戒の空白を生じさせないための組織運営については、221頁参照(第7章)

(3)強盗・窃盗等(注)

強盗・窃盗等についても、SNSや求人サイト等で「高額バイト」、「即日即金」等の文言を用いて実行犯が募集された上で敢行される実態がうかがわれる。このような匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる手口により敢行された強盗・窃盗等事件は、令和3年9月以降、令和6年3月までに22都道府県において78件発生しており、これらの中には、被害者を拘束した上で暴行を加えるなど、その犯行態様が凶悪なものもみられる。

注:強盗、窃盗、住居侵入、建造物侵入等

CASE

とび職の男(20)らは、令和5年2月、被害者宅に侵入し、被害者の両足をテープで緊縛した上、「金(きん)はどこにあるんだ」などと脅迫し、現金約8万円等を強取した。捜査を進めたところ、同男らは、SNSを通じて犯罪に加担するようになり、指示役の下、実行役、運転手等、役割を細分化させ、相互に連絡を取る際には匿名性の高い通信手段を用いるなどして犯行に及んでいたことが判明した。また、指示役には、暴力団の関係者が含まれていた。同年8月までに、同男ら9人を強盗殺人未遂罪等で逮捕した(福島)。

CASE

飲食店従業員の男(19)らは、令和5年5月、腕時計店に侵入し、店員に対してナイフ様の刃物を示して、「伏せろ、ぶっ殺すぞ」などと脅迫し、ショーケースをたたき割って腕時計等(販売価格合計約3億856万円)を強取した。捜査を進めたところ、犯行に使用された車両を用意した男(33)は、SNS上に掲載された犯罪実行者募集情報に応募の上、犯行に加担していたことが判明するなど、背後に犯罪の実行を指示する組織の存在がうかがわれた。令和6年2月までに、同男ら7人を強盗罪等で逮捕した(警視庁)。

MEMO 組織的窃盗・盗品流通事犯

近年、外国人グループ等により、組織的に金属盗や自動車盗、万引きが敢行され、盗品が海外へ不正に輸出されるなどの事案が発生しており、治安上の課題となっている。例えば、メンバーが流動的に入れ替わる外国人グループにより太陽光発電施設内の銅線が大量に盗み出され、買取業者に売却されるなど、窃盗等が組織的かつ計画的に行われているほか、こうした事案が不法滞在外国人等の収入源となっている実態もみられる。また、海外に所在する首謀者が、SNSを利用してつながった実行役に対して盗む物品を指示し、指定した場所に大量の盗品を送らせるという手口での犯行も確認されている。

警察では、匿名・流動型犯罪グループが組織的窃盗・盗品流通事犯にも関与している可能性を視野に、実態解明を進めているほか、このような組織的窃盗・盗品流通事犯に対し実効的な対策を講じるため、警察庁にワーキンググループを設置し、部門横断的な検討を行っている。

CASE

カンボジア人の男(26)らは、令和5年6月から同年7月にかけて、太陽光発電施設2か所において、銅線約2,800メートル(時価合計約1,200万円相当)を窃取した。捜査を進めたところ、外国人コミュニティを通じて知り合ったメンバーがグループを形成し、離合集散を繰り返しながら複数の犯行に及んでいた実態が明らかになった。同年12月までに、同男ら7人を窃盗罪で検挙した(群馬)。

 
銅線窃盗の被害品及び工具
銅線窃盗の被害品及び工具

(4)繁華街・歓楽街における多様な資金獲得活動

匿名・流動型犯罪グループは、風俗店、性風俗店、賭博店の経営やスカウト行為等に直接的又は間接的に関わるなど、繁華街・歓楽街における活動を有力な資金源としているとみられる。また、インターネットやSNS、匿名性の高い通信手段の利用等によって、その活動実態や資金の流れを潜在化させつつあるほか、警察への対抗措置を強化している。

CASE

グループ内の規約に違反したとして、同じグループのメンバーである男性をマンションに監禁し、殴る蹴るなどの暴行を加えた男(32)ら21人を、令和6年2月までに、監禁罪、強制わいせつ致傷罪等で逮捕し、同グループに対する捜査を進めたところ、同グループが、違法なスカウト行為を組織的に敢行していた実態が明らかになった。

同グループは、1,000人以上の構成員を有し、首都圏のほか、宮城県、大阪府、熊本県等の繁華街・歓楽街で広域的に活動しており、風俗営業等に紹介した女性の売上げに応じて支払われる紹介料を、主な資金源としていた。同グループでは、構成員や活動を管理する要員を「総務課」や「契約課」と、グループ内での連絡に使用するアプリケーションを開発する要員を「アプリ課」と称するなどし、会社に扮した組織管理を行っていた。また、警察官から職務質問を受けた際の受け答えの指導等を担う要員を指定するなどして、警察への対抗措置を組織的に講じていた(警視庁)。

 
図表特-7 違法なスカウト行為を敢行するグループと風俗店等、女性との関係
図表特-7 違法なスカウト行為を敢行するグループと風俗店等、女性との関係

また、近年、いわゆるホストクラブ等で男性従業員が女性客を接待するなどして高額な料金を請求し、その売掛金等名下に女性客に売春をさせたり、性風俗店で稼働させたりするといった事案が問題となっている。こうしたホストクラブ等の中には、風営適正化法に定められた営業の許可を得ることなく営業する店舗や、許可を受けていても、客引き禁止違反、営業時間制限違反、料金表示義務違反等の違法行為を行う店舗も見受けられるとともに、事案の背後で暴力団や匿名・流動型犯罪グループが不当に利益を得ている可能性が懸念される。

警察では、こうした犯罪組織の関与も視野に、違法行為を行う悪質なホストクラブ等に対する厳正な取締りを推進している。

(5)その他の資金獲得活動

匿名・流動型犯罪グループによる資金獲得活動は多岐にわたっており、特殊詐欺や強盗・窃盗にとどまらず、様々な手口で犯罪を繰り返している。

① 悪質なリフォーム業者による詐欺等

高齢者宅を狙って家屋修繕や水回り工事等の住宅設備工事やリフォーム訪問販売を装い、損傷箇所がないにもかかわらず家屋を故意に損傷させ、それを修理することで高額な施工料を要求するなどの悪質なリフォーム業者による犯罪行為が確認されている。こうした悪質行為が組織的に反復継続して敢行され、その収益が匿名・流動型犯罪グループの資金源となっている可能性があることから、警察では、実態解明及び取締りを推進している。

CASE

屋根補強工事代金名目で現金をだまし取ろうと考え、令和5年4月、高齢者の自宅を訪問して屋根瓦修繕工事契約を締結の上、雨漏りの解消又は防止の効果がない工事を行い、同高齢者から現金約64万円をだまし取ったとして、同年9月、屋根瓦修繕業の男(28)ら7人を詐欺罪及び特定商取引法違反(不備書面交付等)で逮捕した 。

捜査を進めたところ、同男らは、屋根瓦修繕の訪問販売を営むグループとして活動しており、指示役の指示の下、近隣での工事の挨拶を装って被害者宅を訪問し屋根の点検を勧める役割の者、被害者宅の屋根に上って瓦を調べた上、「このままでは雨漏りします」などと言って工事契約を勧める者、後日改めて契約を締結する者、雨漏りに効果のない工事を行う者等、役割を細分化させた上で、匿名性の高い通信手段を使ってグループのメンバーと連絡を取り合いつつ、静岡県、神奈川県及び山梨県等で活動していたことが判明した(静岡)。

② オンラインカジノ

近年、海外オンラインカジノサイトへのアクセス数の増加が指摘されており、国内の賭客が自宅や違法な賭博店等のパソコン等からオンラインカジノサイトにアクセスして賭博を行う状況がうかがわれる。こうしたオンラインカジノに係る賭博事犯には、実質的な運営者として、又はその背後で、暴力団や匿名・流動型犯罪グループが関与しているケースもみられることから、警察では、捜査を徹底し、実態解明を進めているほか、賭博運営者等に対する組織的犯罪処罰法の適用による加重処罰や犯罪収益の剝奪に努めている。

CASE

無職の男(40)は、マンションの一室を利用し、備付けのパソコンを賭客に使用させてオンラインカジノで賭博を行わせる違法な賭博店を運営していた。同男らは、店舗となるマンションを移転するなどしてその活動を潜在化させていたほか、同店舗には暴力団員が頻繁に出入りするなど、背後組織として暴力団の関与が疑われる状況であった。令和6年2月までに、同男ら11人を賭博罪(常習賭博)等で検挙した(鹿児島)。

③ フィッシング

近年、フィッシング(注1)によるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金被害が増加しており、こうした事案の中には、匿名・流動型犯罪グループが関与する事例も確認されている。警察では、捜査を徹底し、実態解明を進めるとともに、関係機関・団体と連携した被害防止対策を推進している(注2)

注1:実在する企業・団体等や官公庁を装うなどしたメール又はショートメッセージサービスを送り、その企業等のウェブサイトに見せかけて作成した偽のウェブサイト(フィッシングサイト)を受信者が閲覧するよう誘導し、当該フィッシングサイトでアカウント情報やクレジットカード番号等を不正に入手する手口

注2:フィッシングによる被害防止対策については、116頁参照(第3章)

CASE

元暴力団構成員の男(49歳)らは、令和元年9月から同年11月にかけて、フィッシングによりインターネットバンキング利用者から口座情報等を不正に取得したとみられる中国人の男と共謀して不正送金を敢行するとともに、「出し子」の男らに現金を引き出させるなどして、総額500万円を窃取した。同男らは、匿名性の高い通信手段を通じて連絡を取り合いながら、同様の手口での犯行を繰り返しており、被害総額は約9,300万円相当に上った。令和3年1月から令和6年1月にかけて、首謀者である同男や中国人の男を含む31人を、不正アクセス禁止法違反、電子計算機使用詐欺等で検挙した(沖縄、茨城、埼玉、神奈川、山梨、静岡、兵庫、福岡及び宮崎)。

④ このほかの各種事犯

匿名・流動型犯罪グループが大麻等薬物の密売やヤミ金融関連事犯等の資金獲得活動を行っている実態も確認されており、警察では、実態解明及び取締りを徹底することとしている。

CASE

傷害事件の捜査過程で、未成年を含む素行不良者グループを把握したことから、同グループの実態解明を進めた結果、同グループが、SNSを通じて入手した大麻や、自ら栽培した大麻を密売していることが明らかになった。同グループは、薬物の密売に当たって、匿名性の高い通信手段を用いて連絡を取り合うなどし、その活動を潜在化させていた。令和6年1月までに、同グループの男(33)ら10人を大麻取締法違反(営利目的栽培)等で逮捕した(愛媛)。

CASE

飲食店経営者の女(44)らは、令和元年11月から令和2年6月にかけて、融資を申し込んできた顧客4人に対し、法定利息の約6倍から約31倍で金銭を貸し付け、約40万円の元利金を受領した。捜査を進めたところ、同女らは、広域的にヤミ金融事犯を敢行するグループに属しており、同グループは、SNS等を通じてヤミ金融の利用客を募集し、返済に窮した同利用客を、別の利用客の募集や取立て等に従事させるなどしながら、犯行を繰り返していたことが明らかになった。令和5年10月までに、同グループのメンバー14人を出資法違反(超高金利)等で逮捕するとともに、同グループのメンバーらが保有する現金約800万円に対し、組織的犯罪処罰法の規定に基づく起訴前の没収保全命令が発出された(島根、福岡)。

MEMO 第一線から見た匿名・流動型犯罪グループ

警察庁では、匿名・流動型犯罪グループを治安対策上の脅威と位置付けて実効的な対策を推進するに当たり、組織犯罪対策を第一線で担う者が日々感じている実態を的確に反映するため、都道府県警察本部の組織犯罪対策部門で情報収集・分析を指揮する「情報官(注)」をはじめとする捜査幹部と意見交換を重ねている。ここでは、情報官や、特殊詐欺事件の捜査責任者から得られた「現場の声」の一端を紹介する。

注:都道府県警察本部の組織犯罪対策部門においては、関係する様々な部門が保有する組織犯罪に関する情報を一元的に集約・分析するとともに、関係部門間における情報の共有化等を図ることにより、より戦略的な組織犯罪対策を講ずるため、総括情報官等を設置する「情報官制度」を導入している。

① 匿名・流動型犯罪グループの勢力

匿名・流動型犯罪グループの勢力については、「全体的に勢力を拡大させている」ないし「部分的に勢力を拡大させている」との認識が大勢を占め、この傾向は、大都市圏のみならず全国的に共通である。

② 匿名・流動型犯罪グループに対する取締り

匿名・流動型犯罪グループに対する取締りに関し、SNSや匿名性の高い通信手段が捜査上のハードルとなっており、これを乗り越えていくことが重要であるとの認識が広く全国の捜査幹部に共有されている。そのための取組として、「通信事業者や暗号資産交換業者等の関係事業者との協力関係を強化する」、「携帯電話の解析技術を強化する」ことのほか、「仮装身分捜査(注)」のような新たな捜査手法の導入を求める声もある。

このほか、匿名・流動型犯罪グループに対する取締りに関し、次のような、現場からの強い声もある。


【第一線の声】

・匿名・流動型犯罪グループに対する取締りにおいては、各部門で強力に突き上げ捜査を行うことを前提として、部門間で情報を集約・共有し、無駄のない効率的な捜査に取り組むことが重要である。

・特殊詐欺等の全国的に敢行される犯罪については、各都道府県警察内部での連携等のみでは対処しきれないと感じている。全国警察が一丸となって取り組むことによって、効率的な捜査が実現され、匿名・流動型犯罪グループの壊滅に近づくことができる。

・匿名・流動型犯罪グループは、手を替え品を替えその活動を匿名化・潜在化させていることから、だまされたふり作戦、協力者への保護対策といった従来からの手法にとらわれず、警察としても、創意工夫しながら強力な対策を推進していく必要がある。

・匿名・流動型犯罪グループは新たな技術を取り入れつつ資金獲得のための犯罪を敢行していることから、こうした動向に的確に対応するため、SNSや携帯電話の解析技術等の向上を図り、携帯電話、預金口座、電子マネー等犯行ツール対策を今後更に強化していく必要がある。


警察では、こうした第一線の声も踏まえ、全国一丸となって、匿名・流動型犯罪グループに対する諸対策を強力に推進していくこととしている。

注:捜査員が仮装の身分を使用して捜査対象者と接触するなどして、情報・証拠の収集を行う捜査手法



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