第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

5 構造的な不正事案への対策

(1)政治・行政をめぐる不正事案

国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。

しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、通常は被害申告や目撃者の証言等が期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。

警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。

 
図表2-49 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数(注1)の推移(平成26年~令和5年)
図表2-49 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成26年~令和5年)
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CASE

石川県志賀町長の男(57)は、令和4年7月から令和5年7月にかけて執行された道路改良工事等の3件の入札に関し、土木建築会社の代表取締役等に対して、秘密事項である同工事等の最低制限価格を漏えいし、職務上不正な行為をしたことに対する謝礼等として、現金合計110万円を収受した。同年10月から同年12月までに、同町長の男を加重収賄罪等で逮捕した(石川)。

CASE

第20回統一地方選挙(令和5年4月9日及び同月23日施行)の際、千葉県横芝光町議会議員の男(74)らは、令和5年3月から同年4月にかけて、複数の選挙人に対し、自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として、プリペイドカード合計52枚(額面合計約26万円)を供与するなどした。同年5月、同町議会議員の男ら2人を公職選挙法違反(買収等)で逮捕した(千葉)。

(2)経済をめぐる不正事案

企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺、横領等の違法事犯のほか、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯や、国及び地方公共団体の補助金等の不正受給事犯が後を絶たない状況にある。また、弁護士や税理士といった社会的地位を有する者による詐欺、横領等の犯罪も発生している。

警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯その他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。

このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を運用して事案の早期解明を図っている。

 
図表2-50 経済をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(令和元年~令和5年)
図表2-50 経済をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(令和元年~令和5年)
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電気通信事業を営むA社の元部長の男(46)らは、令和3年7月から同年10月にかけて、部材保管料等の名目で現金をだまし取ろうと考え、部材保管のための倉庫を確保していたなどの事実がないのに、これがあるように装い、倉庫業等を営むB社の担当者に同社名義の請求書をA社に送信させるなどして、A社から合計約98億3,700万円をだまし取った上、当該詐取金の一部を物件紹介料等としてC社名義等の銀行口座に振込送金させ、これらが正当な事業取引に基づく支払であるかのように装うなどした。令和5年3月から同年5月までに、同男ら3人を詐欺罪で逮捕するとともに、同年6月、同男ら2名を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿等)で逮捕した(警視庁)。

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旅行会社支店長の男(54)らは、令和3年9月から令和4年10月にかけて、市から委託を受けていた「新型コロナウイルスワクチン接種に係るコールセンター業務」に関し、同業務に従事したオペレーターの人員を水増しした内容虚偽の報告をし、同市から同業務委託費の支払名目で金銭をだまし取ろうと考え、内容虚偽の事業内訳書等を提出するなどし、合計約8億9,400万円をだまし取った。令和5年6月から同年7月までに、同男ら3人を詐欺罪で逮捕した(大阪、静岡、愛知及び兵庫)。

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県議会議員の男(55)らは、令和3年8月から令和4年3月にかけて、緊急雇用安定助成金制度等を悪用し、同助成金名目で現金をだまし取ろうと考え、休業を実施して休業手当を支給した事実がないのに、これがあるように装い、内容虚偽の支給申請書等を提出して同助成金の支給を申請し、合計約2,900万円をだまし取るなどした。令和5年6月から同年7月までに、同男ら7人を詐欺罪等で逮捕した(愛媛、鳥取)。

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弁護士の男(82)は、令和3年11月から令和4年6月にかけて、ロマンス詐欺の被害金回収等をうたい、業として報酬を得ていた会社役員の男(41)らに、弁護士名義を貸して法律事務をさせた。令和5年12月までに、弁護士の男ら4人を弁護士法違反(非弁護士との提携の禁止等)で逮捕した(大阪)。



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