トピックスIV サイバー事案(注)の被害の潜在化防止に向けた官民連携の取組
(1)サイバー事案対処における通報・相談の重要性
サイバー空間の安全・安心を確保するため、警察では、サイバー事案を把握した場合には、検挙のための捜査のみならず、攻撃者・犯行手口等の実態解明、被害の未然防止・拡大防止対策等を推進している。これらは、国民・事業者等からの通報・相談によって得られた情報等を端緒として実施しているものであり、通報・相談は、警察活動において重要な役割を担っている。
注:サイバーセキュリティが害されることその他情報技術を用いた不正な行為により生ずる個人の生命、身体及び財産並びに公共の安全と秩序を害し、又は害するおそれのある事案

(2)サイバー事案の被害の潜在化の状況
サイバー事案の被害は、被害者自身に対する社会的評価の悪化の懸念等から通報・相談そのものがためらわれる傾向にあり、いわゆる「被害の潜在化」が課題となっている。令和4年(2022年)に実施した民間企業や行政機関等に対する「不正アクセス行為対策等の実態調査」(注)において、過去1年間に不正アクセス等の被害に遭った民間企業や行政機関等に対して届出先機関等について調査したところ、「届け出なかった」という回答が最も多く、約4割を占めた。届出を躊躇(ちゅうちょ)させる要因として、「実質的な被害がなかった」ことや、「社・団体内で対応できた」ことが多く挙げられている。
注:令和4年の調査は、同年9月9日から12月7日までの間に、市販のデータベースに掲載された企業、教育機関(国公立、私立の大学等)、医療機関、地方公共団体(県・市区町村等)、独立行政法人及び特殊法人から、2,950件を無作為に抽出し、調査票を郵送で配布して実施した。電子メール又は郵送により、600件の回答を得た。

(3)被害の潜在化防止に向けた官民連携の推進
警察では、サイバー事案対処における通報・相談の重要性や、サイバー事案の被害の潜在化の状況を踏まえ、通報・相談しやすい環境整備の推進や、関係機関・団体、サイバー保険(注1)を取り扱う損害保険会社をはじめとする民間事業者等との連携、民間事業者等との共同対処協定(注2)の締結等を通じて、サイバー事案による被害に関する警察への通報・相談を促進している。
注1:サイバー事案等により企業に生じた損害等を補償する保険
注2:令和4年12月末までに、金融機関や暗号資産交換事業者等、全国で610事業者・団体と本協定を締結している。
① 関係機関と連携した通報・相談の促進
個人データの漏えい等の事態についての個人情報保護委員会への報告の義務付け等を内容とする個人情報保護法の一部を改正する法律が令和4年4月に施行されたことや、「サイバー事案の被害の潜在化防止に向けた検討会」において関係機関等との連携強化の必要性等について議論されたことなどを踏まえ、警察庁と個人情報保護委員会においては、令和5年3月以降、サイバー事案によるものとみられる個人データの漏えい等の発生時において、被害企業等からの警察への通報・相談が円滑になされるようにするための協力体制を構築している。
また、ランサムウェアによる被害が教育機関において発生している状況を受け、警察では、文部科学省と連携して、被害の未然防止及び拡大防止対策等の徹底を教育機関に働き掛けるとともに、ランサムウェア等による被害に関する警察への通報・相談を促進している。
さらに、電子商取引及びキャッシュレス決済の普及に伴い、クレジットカード決済市場の規模が増加する一方で、サイバー攻撃の増加等を背景に、クレジットカードの不正利用被害額が過去最高となっていることを踏まえ、警察では、経済産業省と連携して、本人認証や不正検知の強化等の被害実態を踏まえた有効な対策を推進するよう民間事業者等に働き掛けるとともに、被害に関する警察への通報・相談を促進している。
② 通報・相談しやすい環境整備
警察では、ウェブサイト等における発信を通じ、各都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口の周知や、サイバー事案に関する警察への通報・相談を促す広報を行うなどの取組を実施している。
また、サイバー事案に関する通報・相談に適切に対応するため、令和5年度から採用時・昇任時教養等の各種学校教養において、サイバー事案対処に関する講義を新設又は増設するなど警察職員全体の対処能力の向上に向けた人材育成を推進している。

通報・相談促進の広報資料