トピックスIII 新たなモビリティや自転車の良好な交通秩序の実現
電動キックボードや自動配送ロボット等の新たなモビリティが登場し、道路交通の主体が多様化している中、新たなモビリティに係る交通ルールの整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が施行された(注)。警察では、改正後の道路交通法を適切に運用するとともに、電動キックボードをはじめとする新たなモビリティと通行空間を共有する自転車の交通秩序を整序化することにより、新たなモビリティと自動車、自転車、歩行者等との共存を図り、多様な交通主体全ての安全かつ快適な通行を確保することとしている。
注:特定小型原動機付自転車の交通ルールについては令和5年7月1日から、遠隔操作型小型車の交通ルールについては同年4月1日からそれぞれ施行された。
(1)新たなモビリティへの対応
① 特定小型原動機付自転車の交通ルール
道路交通法の一部改正により、一定の基準(注1)を満たす電動キックボード等は、「特定小型原動機付自転車」に分類された。特定小型原動機付自転車については、16歳未満の者の運転は禁止されたものの、運転免許を要しないこととされた。また、車道の左側を通行することが原則とされ(注2)、乗車用ヘルメットの着用の努力義務が課されるなど、自転車と同様の交通ルールを適用することとされた一方で、交通反則通告制度や放置違反金制度の対象とされた。さらに、危険な違反行為を繰り返す者には、都道府県公安委員会が特定小型原動機付自転車運転者講習の受講を命ずることができることとされた。
なお、特定小型原動機付自転車については、自動車損害賠償責任保険(共済)に加入し、車体にナンバープレートを取り付けなければならない。
警察では、特定小型原動機付自転車の販売事業者やシェアリング事業者による購入者や利用者への交通安全教育が努力義務とされたことを踏まえ、これらの事業者による講習会等が効果的に行われるよう支援するとともに、悪質・危険な違反行為に対する指導取締りを徹底することとしている。
注1:性能上の最高速度が20キロメートル毎時以下に設定されていること、車体の大きさが長さ190センチメートル、幅60センチメートルを超えないこと、道路運送車両の保安基準に適合する最高速度表示灯が備えられていることなど
注2:例外として、性能上の最高速度が6キロメートル毎時以下に設定され、それに連動して最高速度表示灯を点滅させているなどの条件を満たす場合には、道路標識等により通行することができるとされている歩道を通行することができることとされたが、その場合には、歩行者を優先し歩道の車道寄りの部分を徐行しなければならないこととされた。

特定小型原動機付自転車
② 遠隔操作型小型車の交通ルール
道路交通法の一部改正により、一定の基準(注)を満たす自動配送ロボット等は、「遠隔操作型小型車」に分類された。遠隔操作型小型車は、歩道や路側帯を通行することが原則とされるなど、歩行者と同様の交通ルールを適用することとされたほか、道路において通行させる場合には、車体の見やすい箇所に標識を付けなければならないこととされた。また、遠隔操作型小型車の使用者は、遠隔操作型小型車を遠隔操作により通行させる場合、通行場所を管轄する都道府県公安委員会に一定の事項を事前に届け出なければならないこととされた。
警察では、制度の内容について周知を図るとともに、歩行者の安全を確保するため、必要に応じて、遠隔操作型小型車を停止させるなどの危険防止等の措置を講じることとしているほか、都道府県公安委員会では、遠隔操作型小型車の通行に関して道路交通法に違反した使用者に対しては、行政処分を的確に行うこととしている。
注:遠隔操作により通行する車であって、性能上の最高速度が6キロメートル毎時以下に設定されていること、車体の大きさが長さ120センチメートル、幅70センチメートル、高さ120センチメートルを超えないことなど

遠隔操作型小型車

遠隔操作型小型車の標識
(2)自転車の安全利用の促進
① 自転車関連交通事故の状況
近年、交通事故件数が減少傾向にある中、自転車関連交通事故件数は令和3年(2021年)に増加に転じた。自転車対歩行者事故の発生件数は横ばいで推移しており、令和4年中は、そのうち約4割が、歩行者が優先されるべき歩道上で発生している。
また、令和4年中に発生した自転車関連の死亡・重傷事故については、安全不確認や交差点安全進行義務違反をはじめ、自転車側にも何らかの法令違反が認められるものが約7割を占めている。

② 自転車の交通ルール
道路交通法上、自転車は、「車両」の一種であるため、信号や道路標識等に従わなければならないほか、原則として車道の左側を通行しなければならないこととされている。このうち、普通自転車(注)は、道路標識等で歩道を通行することができるとされている場合や、13歳未満の子供や70歳以上の高齢者が運転する場合等には、例外的に歩道を通行することができることとされているが、この場合、歩行者を優先し歩道の車道寄りの部分を徐行する必要がある。
警察では、地方公共団体、学校、自転車関係事業者等と連携し、「車道が原則、左側を通行 歩道は例外、歩行者を優先」、「交差点では信号と一時停止を守って、安全確認」、「夜間はライトを点灯」、「飲酒運転は禁止」及び「ヘルメットを着用」を内容とする新たな「自転車安全利用五則」を活用するなどして、全ての年齢層の自転車利用者に対して、自転車の交通ルール等の周知を図っている。
注:他の車両を牽(けん)引しておらず、大きさ等が一定の基準を満たす自転車
MEMO 全ての年齢層の自転車利用者に対する乗車用ヘルメット着用の努力義務化
自転車乗用中死者の約6割が頭部に致命傷を負っていること、乗車用ヘルメットを着用していなかった場合の致死率(注1)は、乗車用ヘルメットを着用していた場合の約2.1倍(注2)となっていることなどを踏まえ、道路交通法の一部改正により、令和5年4月1日から、全ての年齢層の自転車利用者に対して乗車用ヘルメット着用の努力義務が課された。警察では、乗車用ヘルメットの着用による被害軽減効果について交通安全教育や広報啓発を一層強化し、その着用の定着を図ることとしている。
注1:死傷者に占める死者の割合
注2:頭部損傷が致命傷となった割合や致死率は、平成30年から令和4年にかけての死傷者数を基に算出
③ 自転車利用者による交通違反に対する指導取締りの強化
警察では、自転車指導啓発重点地区・路線(注)を中心に、歩行者や他の車両にとって危険性・迷惑性の高い違反に重点を置いた指導取締りを行っている。
また、交通の危険を生じさせるおそれのある一定の違反行為を反復して行った自転車の運転者を対象として、自転車の運転による交通の危険を防止するため、自転車運転者講習を実施しており、令和4年中は510人が受講した。
注:自転車関連交通事故の発生状況、地域住民の苦情・要望等を踏まえ、全国1,930か所(令和5年4月末警察庁調べ)を指定

CASE
警視庁では、東京都内の自転車関連交通事故が増加傾向にあることを受け、令和4年10月末から、歩行者や他の車両にとって危険性・迷惑性が高く、重大な交通事故に直結する「赤信号無視」、「右側通行」、「一時不停止」及び「歩道通行」の四つの違反について取締りを強化しており、歩行者をはじめとする他の交通主体の安全確保に努めている。