トピックスI 要人警護の強化に係る警察の取組
(1)安倍晋三元内閣総理大臣に対する銃撃事件を受けた警護の検証・見直し
令和4年(2022年)7月8日、奈良県奈良市内において、警護対象者である安倍晋三元内閣総理大臣が街頭演説中に銃撃を受け、殺害されるという重大事案が発生した。
警察庁においては、警察による組織的な警護を実施していたにもかかわらず警護対象者の生命を守ることができなかったことを極めて重く受け止め、警察庁次長を長とする「検証・見直しチーム」を立ち上げ、同警護の問題点を明らかにする検証を行うとともに、検証の結果を踏まえて、今後講じるべき具体的な対策を検討した。
検証・見直しに当たっては、11回にわたって国家公安委員会に経過を報告し、同委員会における議論を踏まえながら、同年8月25日、「検証・見直し報告書」を取りまとめた。同日、同委員会においては、新たな警護要則を制定し、警護における警察庁の関与を強化することとした。
(2)故安倍晋三国葬儀の執行に伴う警備
令和4年9月27日に行われた故安倍晋三国葬儀(以下「国葬儀」という。)は、新たな警護要則の下で迎える最初の大規模警備となった。国葬儀には、勅使、皇后宮使、上皇使及び上皇后宮使並びに秋篠宮皇嗣同妃両殿下をはじめとする皇族方が御参列されたほか、葬儀委員長を務めた岸田首相をはじめとする政府・政党要人、ハリス米国副大統領をはじめとする首脳級の要人を含む217の国・地域・国際機関からの代表等が参列した。
警察では、同年7月22日、警察庁次長を長とする「故安倍晋三国葬儀警備対策推進室」を警察庁に設置するとともに、警視庁をはじめとする関係警察において所要の警備体制を構築するなど、参列者の安全と行事の円滑な進行を確保するため、全国警察の総力を挙げて各種の対策を推進した。

国葬儀における警護
(3)警護の強化に係る取組
① 警察庁の関与の抜本的強化
ア 情報の収集及び分析等
警察庁では、国家的又は全国的な見地から、警護を的確に実施するために必要な情報を収集し、こうした情報や都道府県警察が収集した情報等の分析・整理を行い警護上の危険度を評価することとし、その結果を都道府県警察に通報する仕組みを導入している。
イ 警護計画の基準の策定
警察庁では、警護を的確に実施するため、街頭演説等の屋外警護、講演会等の屋内警護といった警護を実施する場所の状況等に応じ、警護対象者への接近防止措置、警護員の配置等に関する警護計画の基準を定める仕組みを導入しており、都道府県警察は、当該基準に適合する警護計画を作成している。
ウ 警護計画案の審査
新たな警護要則では、都道府県警察が作成する警護計画案を警察庁が事前に審査することとされ、令和4年末までに警察庁が審査した警護計画案は約1,300件となった。
警察庁では、こうした審査を通じて、都道府県警察に対し、警護の実施において留意すべき事項等を指示している。
また、複数の警護対象者が一堂に会する警護や、多くの人が集まることが予想される警護等では、必要に応じ、警察庁職員を当該警護の実施が予定されている都道府県警察に派遣して現地指導を行っている。

警察庁職員による現地指導
エ 警護の実施に関する報告等
都道府県警察は、警護を実施したときは、当該警護の状況を確認した上で、今後の警護において留意すべき事項等を警察庁に報告している。警察庁では、引き続き、当該事項等を踏まえ、都道府県警察に対する指導等を行っている。
② 警護体制の強化
ア 警察庁における体制の強化
令和4年11月1日、警察庁警備局警備運用部に、警衛及び警護に関する事務を所掌する警備第二課を50名体制で新たに設置し、警護を担う体制を大幅に強化した。
イ 都道府県警察における体制の強化
警視庁においては、警護現場における態勢を強化するため、身辺警護に従事する警護員を増強するとともに、警備部警護課の体制を大幅に強化した。
道府県警察においても、警護を担う部署を警察本部に新設するなど、警護体制の強化を進めている。
③ 教養訓練の充実・強化
警察庁では、警護の指揮を行う幹部及び警護員のため、習熟度に応じた必要な知識・技能の習得や実践的訓練の機会の確保に資する体系的な教養訓練計画を作成している。警察庁及び都道府県警察では、同計画に基づく教養訓練を行っているほか、警察庁では、外国関係機関との情報交換等を実施し、教養訓練の充実・強化に努めている。
④ 装備資機材の充実
新たな警護要則では、警察庁は、警護の高度化に資する装備資機材に関する情報の収集を行うとともに、その開発及び導入に努めるものとされた。これを受けて、警察庁では、防弾壁等の防弾資機材、小型無人機等の整備を進めている。
⑤ 今後に向けて
警察としては、引き続き、警護対象者等との更なる連携や、警護についての国民の理解と協力を得るための取組を進めるとともに、警護の実施状況や情勢の変化等を踏まえつつ、警護の不断の見直しに努め、警護に万全を期すこととしている。
MEMO 更なる警護の強化に向けた取組
令和5年4月15日、和歌山県和歌山市内において、演説を予定していた岸田首相に向けて、警護が実施されている中で爆発物が投てきされ、その後、周囲に聴衆が所在する中で当該爆発物が爆発する事案が発生し、首相のみならず聴衆を危険にさらすという重大な事態となった。
本事案の発生を受け、警護の実施に至る和歌山県警察の対応のみならず、警察庁の審査の在り方を含めて事実関係を確認し、その分析・評価を行うとともに、警護に関する課題及びその解決策を検討した。この過程で、警察庁は、一連の経緯を国家公安委員会に報告し、同委員会における議論を踏まえながら、報告書(注)を取りまとめた。
今後は、本報告書で示した「主催者等と緊密に連携した警護の実施」及び「聴衆の安全確保」の取組を新たに加え、「検証・見直し報告書」に記載された「警護の見直しのための具体的措置」を、引き続き推進することにより、警護の実施に万全を期することとしている。
注:「令和5年4月15日に和歌山市内において実施された内閣総理大臣警護に係る警護上の課題と更なる警護の強化のための取組について」(https://www.npa.go.jp/bureau/security/wakayama.pdf)

主催者による手荷物検査の実施