3 多彩な人材が活躍することができる環境の整備
2では、多彩な人材が、採用区分や職種の別、性別等に関係なく、意欲と高い専門性を持って様々な分野で活躍していることを紹介したが、こうした多彩な人材がその能力や知見を十分に発揮するためには、人材が活躍することができる環境が必要である。警察では、全ての職員がその能力を最大限に発揮することができるよう、一人一人がやりがいを感じながら生き生きと働くことができる職場づくりを推進しており、ここでは、そのような取組の一端を紹介する。
(1)全ての職員が働きやすい職場づくり
有能で意欲のある人材が高いモチベーションの下で業務に取り組むためには、個性を持った一人一人の職員が尊重されることはもちろん、それぞれが置かれている生活環境等にかかわらず、全ての職員にとって働きやすい職場環境を整備することが不可欠である。警察では、仕事と家庭を両立することができる職場環境の整備をはじめ、職員の意欲を引き出すための取組を推進している。
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ファシリテーションを活用した職場の活性化 ~「ゼロベースで考える会議」の仕組みづくり~ (山形県警察)
令和3年9月から、「自ら考える職務倫理教養」を推進する観点から、ファシリテーション形式の小集団会議手法を取り入れ、その定着と進展を図っている。
既成概念にとらわれない「ゼロベースで考える会議」の仕組みづくりとして、「他人の意見を否定しない」、「発言はその場限り」を原則とするとともに、付箋に意見を書いて貼り出す「付箋会議」の手法を織り交ぜ、参加者の主体意識と発言内容の可視性を高めているほか、参加者の自由で新しい発想と発言を促すため、「根拠がなくてもよい」、「責任を取らなくてもよい」、「できそうにないことでもよい」の3つのルールを明示し、参加者の心理的安全性を確保するための工夫もしている。
職務倫理を考える場としてスタートしたものの、現在では、業務の合理化、若手の育成等のあらゆるテーマに幅を広げており、職員相互の理解が深まることで職場の活性化につながるという相乗効果もあることから、今後もその定着と更なる進展を図っていく。

「付箋会議」の様子
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第一線の刑事組織犯罪対策警察職員サポート制度(けいさぽ制度)(警視庁)
「けいさぽ制度」とは、迅速かつ的確な事案対処が日常的に求められる第一線の刑事組織犯罪対策業務において、妊娠、出産、育児、介護等のライフイベントと調和した勤務環境を実現するためのサポート制度である。警察署の刑事組織犯罪対策担当の職員を対象として、個々の事情を踏まえた配置・運用や勤務調整を行うほか、育児休業から復職する職員を対象としたブラッシュアップ研修、育児休業等の取得者が所属する部署への本部員の応援派遣等を実施している。
本制度を利用した職員から、「育児休業の取得により妻の負担を軽減し、諦めかけていた刑事を続けられる」、「本制度が幹部まで広く周知されており、理解が得られている」などの声が届いているほか、職員の配偶者からも、「一度は刑事を諦めかけた妻が、仕事に対する意欲を高め、目標を持って勤務している」などの声が寄せられている。また、管理職の立場の職員からも、「仕事と家庭の両立について幹部や男性職員が意識改革をするきっかけとなった」、「結婚・出産しても刑事を続けられるという若手職員の安心感の醸成につながっている」などの声が寄せられている。

第一線の刑事組織犯罪対策警察職員サポート制度(通称:けいさぽ制度)
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勤務時間等に制約のある警察官のキャリアチャレンジ支援制度(滋賀県警察)
育児、介護等の事情を抱える警察官のキャリアアップを支援し、組織力の底上げを図るため、勤務時間等に制約を有するものの、意欲・適性を有する警察官を対象に、警察署の専務員(生活安全課、刑事課、交通課、警備課等で勤務する警察官)として一定期間特別に配置して捜査等の実務を経験させる「キャリアチャレンジ支援制度」を運用している。
近年、育児のために宿直勤務ができないなどの様々な勤務上の制約により専務員として勤務することが困難な警察官が、自信や意欲を失ったり、やむなく退職したりするケースがみられるなど、貴重な人材の喪失が組織的な問題となっていた。そこで、職員それぞれの事情に配慮した支援制度を整備するため、当事者の声を聴きながら検討を進め、試行実施を行った上で、令和4年度から本制度の本格的な運用を開始している。
対象職員は、事案発生時の呼出しへの対応、宿直や時間外勤務については、管理職と相談しつつ可能な範囲で従事することとしているほか、制度利用の終了後には、対象職員を定員上専務員として配置することとしている。これまでに14人の育児中の警察官がこの制度を利用し、「仕事を任せられてやりがいがあり、周囲の理解もあってありがたい」などの声が寄せられているほか、職員の事情に応じた効率的な働き方が推奨される組織風土の醸成にも一役買っており、職員個人だけではなく、組織にとっても大きなメリットがある制度となっている。

キャリアチャレンジ支援制度の概要
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警察職員のこころのケアの推進~カウンセラーとして~
岐阜県警察本部交通部 (男性警察官・40代)
私は、大学時代に、全国白バイ安全運転競技大会での白バイに乗っていた警察官の姿を見て、非常に感動するとともに「白バイ乗りになりたい」という憧れを抱きました。このことが警察官を志望し、かつ、白バイ乗りを目指したきっかけです。
しかし、警察官拝命後に、自分自身が適応障害と診断されて休職し、職場復帰に当たってカウンセリングを受診したり、心理学を学んだりしたことで、少しずつ自信を取り戻すと同時に、仕事にも目標を持って取り組むことができるようになった経験があったため、この貴重な経験を組織に生かせないかと考え、「Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)」について勉強し、カウンセラーの資格取得に至りました。このプログラムは、従業員が業務に影響する個人的な問題を解決するために専門的サポートをタイムリーに提供することによって、職場でのパフォーマンスの向上や維持を図ることを目的としたものです。
警察官は、職業柄、他人には話すことができない秘密があることも多くあり、また、特殊な仕事である警察官に特有の悩みや問題を抱えていることもあり、部外のカウンセラーに相談しても、悩みの全てを正直に話すことに抵抗を感じる場合があると思います。こうしたことを考えますと、警察官がカウンセラーの資格を取得することは、職場の環境を理解している、共に働く仲間だからこそ、悩みや問題について共感・理解することができ、仲間の不調や変化にもいち早く気付けるといった強みがあるのではないかと感じています。
私がカウンセラーの資格を取得してから約5年が経過しますが、資格を取得した際に一緒に学んだ仲間は、一般企業に勤める管理職の方が多く、一般企業でも社員のこころのケアには非常に力を入れているように感じました。その当時は、警察組織のこころのケアへの関心はまだまだ不十分な部分もあると感じていましたが、最近は、職員の相談体制が見直されるなど、警察組織の意識の変化を感じます。
しかし、今もなお、警察の仲間が自らの命を絶つ事案が発生するなど、今この時も一人で悩み苦しんでいる仲間がいるということを再認識させられます。そういった悲しい事案を未然に防ぐため、今後ますます警察内部カウンセラーの重要性・必要性が理解され、有効に活用されるようになってほしいと強く願っています。
(2)多彩な人材が持続的に高い専門性等の能力を発揮するための仕組みづくり
様々な知見や能力を有する人材が持続的に最大限のパフォーマンスを発揮するためには、働きやすい職場環境だけでなく、持続的に高い専門性等の能力を発揮することができるための仕組みづくりが必要であり、警察では、専門性を生かすことができるキャリアパスの形成、専門性を更に高めるための能力開発の支援等の取組を推進している。
CASE
専門捜査官の採用とキャリアパスプラン(福岡県警察)
福岡県警察では、専門的な知識・能力を有する人材を安定的に確保し、警察力の基盤の強化を図ることを目的として、平成7年度から、全国に先駆けて「警察官C(専門捜査官)」の採用試験区分を新設し、「経済」、「語学」、「情報工学」等の専門捜査官の採用を実施している。
最近においては、将来的に配置されることが想定される部署や、将来にわたる教育訓練・研修の見通し等を示すキャリアパスプランを策定・明示したほか、採用時の教育訓練に警察本部の関係部署による専門分野に応じた特別な課程を導入したり、捜査官としての基本的な知識・技能を習得するための実務研修の期間や研修先を個人の能力・適性により合ったものとしたりするなど、専門捜査官のキャリアパスを明確にして、その力を発揮することができる環境づくりを推進している。
これらの取組により、サイバー犯罪対策、匿名・流動型犯罪グループ対策、対日有害活動対策等に関係する所属に専門捜査官を優先的に配置することが可能となるなど、組織全体の捜査力の強化に貢献している。

キャリアパスプランの概要
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学業と勤務の両立
島根県警察本部刑事部科学捜査研究所人文科 岡﨑 麻依
警察官だった祖父に憧れ、警察組織で働くことを目的としました。大学院の修士課程で心理臨床学を専攻し、ポリグラフ検査に関連する研究をしていましたが、就職活動に当たり、大学で学んだ知識を最大限に生かしたいと考えた結果、科学捜査研究所で研究員として働くことを目指すことにしました。大学院在学中に科学捜査研究所から合格を受けたので、大学院を退学することも考えましたが、他県の科学捜査研究所には働きながら大学等に通学している人もいることを知り、採用後も勤務と学業を両立しながら研究を続け、心理臨床学の修士号を取得しました。
この間、休日を活用して研究活動を進める一方で、職務に関連する大学院の行事には、職務専念義務の免除を受けて参加するなど、今後の警察活動に還元していくことを見据え、組織的なバックアップを得ることができました。
実際に鑑定の現場で働きながら研究活動を続けることで、研究結果の実用性や活用方法について、学生時代であれば思い付くことができなかった視点で考察や検討をすることができ、今後の鑑定業務に有用な成果や知見を得ることができた面もありました。鑑定と研究の両面で、現場の視点を忘れることなく、今後も研さんに励んでいきたいと思います。

(3)産官学の知見を幅広く活用するための取組
日進月歩で発展している科学技術のキャッチアップ、警察業務を通じた経験からのみでは十分に習得することができない知見の習得等のためには、警察内部の力だけではなく、産官学の知見を幅広く取り入れて活用する必要があり、警察では、出向等による人材交流や外部研修等の取組を推進している。
CASE
最先端の技術を有する民間企業等への派遣研修(埼玉県警察)
警察職員に最先端の知識や技能を習得させるべく、サイバー空間における様々なサービスを提供している金融機関や通信事業者等の民間企業等での研修制度を実施している。
具体的には、最先端の技術を有する民間企業等に警察職員を1年間派遣し、当該企業等の一職員として実際の業務に従事させる中で、サイバー事案捜査に有用な最新の技術を習得させようとするものである。この研修を通じて習得した技術を生かし、アプリケーションによる本人確認システムを悪用した私電磁的記録不正作出・同供用及び詐欺未遂事件を検挙するなど、犯罪捜査に大きな成果を上げている。
本研修制度により、派遣先企業との連携を強化することができるほか、得られた知見を職員に還元したり、県民に対する広報・啓発活動に活用したりすることができ、人的基盤の強化と県民の安全・安心の確保にもつながっている。
CASE
司法面接トレーナーの育成に向けた外部研修の活用(岐阜県警察)
事件等の被害者や目撃者となった児童に対する聴取を行う際には、児童の負担を軽減することや、児童の供述の正確性を担保するため、児童の心情や特性に配意して行う必要がある。
岐阜県警察では、より適切な聴取の実施に資するため、大学が主催する聴取技法の指導員養成講座である「司法面接トレーナー研修」を警察官や少年育成支援官(注)に受講させているほか、これを受講した職員を講師とした内部研修会を開催している。この講座では、面接の評価の仕方や模擬面接映像を用いたフィードバックの仕方等について学ぶことが可能であり、受講した職員は、学んだ知見を実際の事件対応や職員の指導等に活用している。
注:岐阜県警察における少年補導職員(少年警察活動規則第2条第13号)の呼称

司法面接トレーナーによる内部研修の様子