8 研究機関の活動
(1)警察政策研究センター
警察大学校に置かれている警察政策研究センターは、様々な治安上の課題に対する調査研究を進め、政策提言を行うとともに、警察と国内外の研究者等との交流の拠点として活動している。
① フォーラムの開催
警察政策研究センターでは、関係機関・団体と連携し、国内外の研究者・実務家を交えて社会安全等に関するフォーラムを開催している。

フォーラムの開催

CASE
令和4年12月、公益財団法人日工組社会安全研究財団との共催により、「警察におけるAI技術の活用に関する現状と課題」をテーマとするフォーラムを開催した。約3年ぶりの対面での開催となった同フォーラムでは、専門家及び警察庁の職員による講演・パネルディスカッションが行われ、活発な意見交換がなされた。また、同フォーラムの様子は特設サイトにおいてリアルタイムで配信された。
② 大学関係者との共同研究の推進
警察政策研究センターでは、大学関係者と共同して研究活動を行っている。例えば、慶應義塾大学大学院法学研究科との間では、テロ等の各種治安事象への対策を講じるに当たって国民の自由と安全をいかにバランス良く保障していくかについて、憲法学的見地からの共同研究を行っている。
③ 大学・大学院における講義の実施
警察政策研究センターでは、警察政策に関する研究の発展及び普及のため、京都大学法科大学院・公共政策大学院、中央大学法学部・総合政策学部、東京大学公共政策大学院・法学部、東京都立大学法学部、一橋大学国際・公共政策大学院、法政大学法学部及び早稲田大学法科大学院に職員を講師として派遣し、警察行政や社会安全政策論に関する講義を実施している。

大学・大学院での講義
④ 警察に関する国際的な学術交流
警察政策研究センターでは、海外で開催される国際的な学術会議に参画し、日本警察に関する情報発信を行っている。また、韓国警察庁警察大学治安政策研究所、フランス高等治安・司法研究所及びドイツ・フライブルク大学安全・社会センターとの間で協定を締結し、警察に関する国際的な学術交流を実施している。
⑤ 海外調査研究員の派遣
警察政策研究センターでは、海外調査研究員を海外の大学・大学院や行政機関等に1年間派遣し、警察に係る外国の法制度等について調査研究を行っている。令和3年から令和4年にかけて、6人を米国等に派遣し、自動運転の法制度・環境整備をはじめとする最新の海外の取組について調査研究を行った。
(2)警察情報通信研究センター
警察大学校に置かれている警察情報通信研究センターでは、警察に関する情報通信に関する研究を行っており、その成果は、犯罪捜査の効率化や警察における情報通信システムの整備に活用されている。
例えば、犯罪捜査等の効率化のため、防犯カメラ等に記録された低照度・低画質な画像の鮮明化技術等の画像処理に関する研究を行っている。

画像処理に関する研究
(3)科学警察研究所
科学警察研究所は、警察活動を最新の科学技術に基づいて支えるため、警察庁に附置されている研究機関である。その業務は、科学技術を犯罪捜査や犯罪予防に役立てるための研究、その研究成果を活用した鑑定・検査及び都道府県警察の鑑定技術職員に対する技術指導を行うための研修という三つの柱から構成されている。
① 犯罪捜査等のための研究
科学警察研究所では、犯罪捜査をはじめとする警察活動への実用化の観点から科学技術の研究を行うとともに、鑑定等に利用する技術、資機材等についての検証等を行っている。科学警察研究所の研究によって確立・実証をされた知識や技術は、犯罪捜査における鑑定・検査に活用されており、DNA型鑑定、違法薬物の分析、画像解析、ポリグラフ検査、プロファイリング等を通じて、事件の解明、被疑者の検挙等に貢献している。
研究例 土砂検査法の高度化に関する研究
土砂中の粒子は、犯人や犯行車両等に付着する微細証拠物となり、その識別により犯人推定が可能となる。しかし、粒子分類には専門知識と熟練した技術が必要であり、大量の粒子を一つ一つ分類するためには多大な労力と時間を要するのが現状である。そこで、このような問題を解決し、土砂検査法の高度化を推進するため、ディープラーニング(深層学習)技術を用いて粒子の自動抽出、自動識別及び自動計数を可能とするシステムの開発を行っている。

土砂中の粒子の自動抽出・自動識別例
研究例 大麻DNA検査法の開発に関する研究
大麻の鑑定は「形態検査」と「成分検査」の併用で行われているが、近年、形態が多様化している大麻加工製品への対策として、DNA情報を利用した大麻証明法や異同識別法の開発に取り組んでいる。民間企業との共同研究の結果、DNAの抽出から大麻判定まで3時間以内に完了させることができるキットが実用化された。さらに、大麻判定に資するため現場で行う予試験への活用を目指し、大麻DNAを迅速に検出するための全く新しい方法の研究開発を進めている。

実用化された大麻草DNA検出キット
研究例 音声の韻律を利用した地域性推定に関する研究
音声言語を利用して、犯人の出身地や居住地などの地域性を推定するための手法の開発に取り組んでいる。音声の韻律には、話者が後天的に習得した地域方言の特徴が反映されやすい。さらに、アクセントや発話速度のように、低音質の資料であっても比較的分析が行いやすい特徴や、母音発音時の声帯振動のように、話者が意図的に制御しにくい特徴など、種類も多岐にわたる。これらの韻律特徴を地域性推定に利用することができるよう、大規模音声データベースの分析と方言地図の作成を進めている。

母音の無声化に関する方言地図
② 鑑定・検査
科学警察研究所では、ミトコンドリアDNA検査(注)、薬物プロファイリングによる異同識別等の高度な専門的知識や技術が必要とされる鑑定及び火災の再現実験等の特殊な設備や技術が必要とされる鑑定を実施している。また、偽造通貨及び銃器の弾丸・薬きょう類については、全て科学警察研究所が資料の鑑定を行っている。
注:細胞核ではなく、細胞内のミトコンドリアに存在するDNAの塩基配列を分析する検査。同配列は、男女を問わず母親の配列と同一となるため、母子や兄弟姉妹間の比較に有効とされる。
③ 法科学研修所における研修
科学警察研究所に置かれている法科学研修所では、主に都道府県警察の科学捜査研究所及び鑑識部門で勤務する職員を対象として、鑑定・検査及び鑑識活動に必要となる専門的知識に関する研修を行っている。また、国内外の大学、研究機関等に研修生をおおむね3か月から6か月までの期間にわたって派遣し、専門性を高めるための研究に従事させることによって、新たな鑑定手法の開発等に役立てている。