5 ITSの推進と自動運転の実現に向けた取組
(1)ITS(注1)の推進
① UTMS(注2)の開発・整備によるITSの推進
警察では、最先端の情報通信技術等を用いて交通管理の最適化を図るため、光ビーコン等の機能を活用したUTMSの開発・整備を行うことによりITSを推進し、安全・円滑かつ快適で環境負荷の低い交通社会の実現を目指している。
注1:Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)の略
注2:Universal Traffic Management Systems(新交通管理システム)の略

② ITSに関する国際協力の推進
警察では、令和4年(2022年)9月に米国・ロサンゼルスで開催された第28回ITS世界会議及び同年10月に京都で開催されたSIP-adus Workshop2022(注)において、UTMSの先進的な技術を紹介するとともに、参加国とITSに関して情報交換を行うなどして協力関係を深めた。
また、警察庁では、令和5年1月、米国運輸省道路交通安全局との会議を米国で開催し、両国が推進するITSに関する施策等について情報交換を行った。
注:SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program(戦略的イノベーション創造プログラム)の略)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の成果発表や国際連携を推進するための会議

第28回ITS世界会議
(2)自動運転の実現に向けた取組
自動運転の技術は、交通事故の削減や渋滞の緩和等に有効なものと考えられ、警察としても、我が国の道路交通環境に応じた自動運転が早期に実用化されるよう、その進展を支援すべく必要な取組を進めている。
① 法制度の整備
道路交通法の一部改正により、運転者がいない状態での無人自動運転のうち、限定地域における遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを念頭に置いた許可制度が創設され、令和5年4月1日から施行された。
この改正により、自動運行装置(注1)のうち同装置の使用条件を満たさなくなった場合に直ちに自動的に安全な方法で自動車を停止させることができるものを適切に使用して自動車を運行することが「特定自動運行」と定義され、「運転」の定義から除外されたことで、運転者の存在を前提としないSAEレベル4(注2)に相当する自動運転のうち一定の許可基準を満たすものの実施が可能となった。
特定自動運行を行おうとする者は、特定自動運行を行おうとする場所を管轄する都道府県公安委員会に、経路や交通事故発生時の対応方法等を記載した特定自動運行計画等を提出し、許可を受けなければならないこととされたほか、許可を受けた者(特定自動運行実施者)は、車内又は遠隔監視を行うための車外の決められた場所に特定自動運行主任者を配置した上で、特定自動運行計画に従って特定自動運行を行う義務を負うとともに、当該特定自動運行主任者は、交通事故があった場合に必要な措置を講じなければならないことなどとされた。
注1:プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件(使用条件)で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有するもの。
注2:「自動運転に係る制度整備大綱」等で採用されている、SAE(Society of Automotive Engineers)InternationalのJ3016における運転自動化レベルのうち、システムが全ての動的運転タスク(操舵(だ)、加減速、運転環境の監視、反応の実行等、車両を操作する際にリアルタイムで行う必要がある機能)及びシステムの作動継続が困難な場合への応答をシステムが機能するよう設計されている特有の条件内で実施し、システムの作動継続が困難な場合、運転者が介入要求等に応答することが期待されないもの。

CASE
令和5年5月11日、福井県公安委員会は、福井県永平寺町における無人自動運転移動サービスについて、全国で初めて特定自動運行の許可をした。
② 公道実証実験の環境整備
現在、自動運転の早期社会実装を目指して、全国で様々な事業者等による公道実証実験が行われている。警察庁では、安全の確保を前提としつつ、円滑な公道実証実験を支援する観点から、ガイドラインや道路使用許可基準を策定し、公表している(注)。
注:警察庁ウェブサイト「自動運転の公道実証実験について」(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/roadtesting/index.html)
③ 国際的な議論への参画
我が国が締約しているジュネーブ条約(注1)では、車両には運転者がいなければならないことなどが規定されている一方で、システムが完全に運転操作を実施する自動運転もあり得ることなどから、近年、自動運転に関する国際条約の改正や解釈の整理等に関し、国際連合経済社会理事会の下の欧州経済委員会内陸輸送委員会に置かれたWP.1(注2)において議論が行われており、警察庁としても、こうした議論に参画している。また、令和3年(2021年)からは、交通における自動運転車両の使用に係る新たな法的文書の作成のための専門家グループ(LIAV-GE)(注3)にも参加している。
注1:昭和24年(1949年)にスイス・ジュネーブにおいて作成された道路交通に関する条約の通称
注2:Global Forum for Road Traffic Safety(道路交通安全グローバルフォーラム)の通称
注3:Group of Experts on drafting a new legal instrument on the use of automated vehicles in trafficの略
④ 自動運転システムの実用化に向けた研究開発等
平成30年度から令和4年度にかけて実施されたSIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、産官学連携の下、自動運転システムの実用化に向けた実証実験が実施されてきた。自動運転システムの実用化に当たっては、信号の灯火の色を認識する車載カメラを補完するために信号情報を用いることによって、信号認識の確実性を向上させることが有意義とされていることなどを踏まえ、警察では、信号情報の提供技術に関する研究開発や、交通規制情報のデータ精度向上等に関する調査研究を実施した。
また、研究開発等の成果等を踏まえ、自動運転システムへの情報提供等の在り方に関する検討会を開催し、自動運転システムにおける信号情報及び交通規制情報の活用方法や提供方法、これらの情報提供に係る費用負担の在り方等について専門家と共に検討した。

⑤ 自動運転に係る正しい知識の普及啓発と過信、誤用等に対する注意喚起
SAEレベル3(注)の自動運転では、自動運行装置の使用条件を満たさなくなる場合には、運転者が同装置から運転操作を確実に引き継ぎ適切に対処する必要がある。
また、自動運行装置に該当しない運転支援機能を用いて自動車を運転する場合においては、運転者は、絶えず前方や周囲の状況を確認し、安全運転を行う義務がある。
警察では、これらの機能を備えている自動車の性能や限界、運転上の留意事項等について、ウェブサイト等を通じた広報啓発に努めている。
注:SAE InternationalのJ3016における運転自動化レベルのうち、システムが全ての動的運転タスクをシステムが機能するよう設計されている特有の条件内で実施するが、システムの作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に対して、運転者の適切な応答が期待されるもの。