2 暴力団犯罪の取締りと暴力団対策法の運用
(1)検挙状況
暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(以下「暴力団構成員等」という。)の検挙人員は、図表4-3のとおりである。令和4年中は9,903人と、前年と比べ1,832人(15.6%)減少した。また、平成4年以降の検挙人員の罪種別割合をみると、図表4-4のとおりであり、恐喝、賭博及びノミ行為等(注)の割合が減少しているのに対し、詐欺の検挙人員が占める割合が増加傾向にあり、暴力団が資金獲得活動を変化させている状況がうかがわれる。
注:公営競技をめぐって施行者以外の第三者が行う勝馬投票等類似行為等の競馬法、自転車競技法、小型自動車競走法及びモーターボート競走法違反


(2)資金獲得犯罪
暴力団は、覚醒剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝・強要のほか、強盗、窃盗、各種公的給付制度を悪用した詐欺等、時代の変化に応じて様々な資金獲得犯罪を行っている。特に、近年、暴力団構成員等が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与し、暴力団が特殊詐欺を有力な資金源の一つとしている実態がうかがわれる。
また、暴力団は、実質的にその経営に関与している暴力団関係企業を利用し、又は共生者(注)と結託するなどして、その実態を隠蔽しながら、一般の経済取引を装った違法な貸金業や労働者供給事業等の資金獲得犯罪を行っている。
警察では、巧妙化・不透明化をする暴力団の資金獲得活動に関する情報の収集・分析をするとともに、社会経済情勢の変化に応じた暴力団の資金獲得活動の動向にも留意しつつ、暴力団や共生者等に対する取締りを推進している。
注:暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力等を利用し自らの利益拡大を図る者
(3)特殊詐欺
令和4年中の特殊詐欺の検挙人員2,458人のうち、暴力団構成員等の人数は434人であり、その割合(17.7%)は、刑法犯・特別法犯総検挙人員に占める暴力団構成員等の割合(4.4%)と比較して、依然として高い割合となっている。また、主な役割別検挙人員に占める暴力団構成員等の割合をみると、現場実行犯である「受け子」では11.2%、「出し子」では14.6%となっている一方、中枢被疑者では41.5%、「受け子」等の指示役(注1)では34.3%、リクルーター(注2)では54.9%と、犯行グループ内で主導的な立場にある者の割合が高い水準で推移しており、暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる。さらに、近年は、匿名・流動型犯罪グループが特殊詐欺事件に関与している事例も確認されている。
警察では、特殊詐欺事件の背後にいるとみられる暴力団や匿名・流動型犯罪グループを弱体化し、特殊詐欺の抑止を図るため、各部門が連携した多角的な取締りを推進するとともに、積極的な情報収集等により、こうしたグループの活動実態や特殊詐欺事件への関与状況等の解明を推進している。
注1:「受け子」等に対して、犯行の準備・実行・後始末等の様々な指示を行う役割の者
注2:「受け子」等を担う要員を犯行グループに勧誘する役割の者



CASE
平成30年1月、孫を装って高齢者に電話をかけ、「至急現金を必要としている。代わりに行く者に現金を渡してもらいたい」などと虚偽の事実を告げて現金をだまし取るなどした特殊詐欺事件で、住吉会傘下組織の構成員の男(26)が犯行グループの指示役として関与している実態を解明し、令和4年4月までに、同男ら15人を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。
(4)対立抗争事件等の発生
暴力団は、組織の継承等をめぐって銃器を用いた対立抗争事件を引き起こしたり、自らの意に沿わない事業者を対象とする報復・見せしめ目的の襲撃等事件を起こしたりするなど、自己の目的を遂げるためには手段を選ばない凶悪性がみられる。
近年の対立抗争事件、暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件等の発生状況は、図表4-8のとおりである。これらの事件の中には、銃器が使用されたものもあり、市民生活に対する大きな脅威となるものであることから、警察では、重点的な取締りを推進している。

CASE
六代目山口組傘下組織の構成員の男(50)は、令和4年6月、神戸市内の神戸山口組組長の自宅の門扉に向けて拳銃を発射し、同門扉等を損壊した。同月、同男を建造物損壊罪で逮捕した(兵庫)。
(5)暴力団対策法の運用
指定暴力団員がその所属する暴力団の威力を示して暴力的要求行為(注)を行った場合等において、都道府県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、中止命令等を発出することができる。中止命令等の発出件数の推移は、図表4-9のとおりである。
注:指定暴力団の暴力団員が威力を示して行う不当な金品等の要求行為

MEMO 山口組分裂後の対立抗争と暴力団対策法の活用
六代目山口組と神戸山口組の間では、平成31年4月以降、拳銃を使用した殺人事件等が相次いで発生するなど、対立抗争が激化し、地域社会に大きな不安を与えた。こうした状況を受け、令和2年1月以降、兵庫県等の公安委員会が、暴力団対策法に基づき、特に警戒を要する区域(以下「警戒区域」という。)を定めた上で、両団体を「特定抗争指定暴力団等」に指定しており、その後も、対立抗争等の情勢に応じて警戒区域を追加するなどの措置を講じることにより、対立抗争に伴う市民への危害の防止に努めている。令和5年5月末現在、9府県14市町を警戒区域と定めている。
また、神戸山口組から離脱した池田組と六代目山口組の間でも、令和4年5月以降、サバイバルナイフを使用した殺人未遂事件が発生するなど、対立抗争が激化する状況が認められたことから、令和4年12月、岡山県等の公安委員会が、暴力団対策法に基づき、警戒区域を定めた上で、両団体を特定抗争指定暴力団等に指定した。令和5年5月末現在、4県4市を警戒区域と定めている。

暴力団事務所に対する標章貼付の状況