トピックス

トピックスIII 科学的知見を活用した犯罪死見逃し防止のための取組

(1)警察における死体取扱業務

警察においては、死体を発見し、又は死体を発見した旨の届出を受けた場合、警察署の刑事課員や警察における死体取扱業務の専門家である検視官(注1)が当該死体の発見現場に臨場するなどして、死体の状況や現場に残された資料等について調査した上で、関係者からの聴取内容等も踏まえ、犯罪性の有無を的確に判断している。

また、死因・身元調査法に規定された薬毒物検査や死亡時画像診断といった検査、解剖等の措置を的確に実施し、科学的知見を活用するなどして、犯罪死の見逃しの絶無を期すための取組を推進している。

警察では、令和3年(2021年)6月に閣議決定された「死因究明等推進計画」(注2)も踏まえ、これらの取組をより一層推進することとしている。

注1:原則として、刑事部門における10年以上の捜査経験又は捜査幹部として4年以上の強行犯捜査等の経験を有する警視の階級にある警察官で、警察大学校における法医専門研究科を修了した者から任用される死体取扱業務の専門家

注2:死因究明等推進基本法の規定に基づき、死因究明等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために定められた計画

 
図表III-1 警察における死体取扱いの流れ
図表III-1 警察における死体取扱いの流れ

(2)警察における犯罪死見逃し防止のための主な取組

① 検視体制の強化

平成20年(2008年)以降、警察が取り扱った死体数(注)はおおむね毎年17万体前後で推移しており、令和3年中は17万3,220体であった。警察では、平成21年度から平成25年度にかけて行った地方警察官の増員により、検視官及びその補助者の体制を強化し、検視官等を現場に臨場させている。

注:交通関係及び東日本大震災による死者を除く。

 
図表III-2 死体取扱数、検視官臨場率、検視官数及び検視官補助者数の推移(平成20年~令和3年)
図表III-2 死体取扱数、検視官臨場率、検視官数及び検視官補助者数の推移(平成20年~令和3年)
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② 映像伝送装置等の活用

検視官が現場に臨場することができない場合であっても、検視官が死体や現場の状況等をリアルタイムに確認することができるよう、現場の映像等の送信が可能な映像伝送装置の整備・活用を行っている。また、8道県警察において、高度警察情報通信基盤システム(PIII)(注)の画像・映像伝送機能を活用して検視官の現場臨場の要否を判断するなどの取組を試行している。

注:205頁参照(第7章)

③ 薬毒物検査の積極的な実施

警察では、現場や死体の状況に応じて、体液又は尿中の薬毒物の有無について早期に科学的判断を得ることができる、簡易薬毒物検査キットを用いた検査の徹底に努めている。また、必要に応じて、本格的な薬毒物検査を実施することができるよう、分析機器を高感度のものに更新するなど、科学捜査研究所の能力強化を図っている。

 
科学捜査研究所における検査の状況
科学捜査研究所における検査の状況
④ 死亡時画像診断の積極的な実施

CT等を用いた死亡時画像診断は、脳出血、大動脈解離等の出血性病変や骨折等の存在を一定程度明らかにすることができることから、死因の解明に有益であるほか、死因が解明されない場合であっても、解剖の要否の判断や解剖による死因の特定の精度向上に資する。そのため、警察では、死亡時画像診断を積極的に実施するよう努めている。

 
死亡時画像診断の状況(筑波メディカルセンター病院)
死亡時画像診断の状況(筑波メディカルセンター病院)
⑤ 必要な解剖の確実な実施

解剖は、犯罪の立証や犯罪性の有無の判断等において有効な手段である。そのため、警察では、それぞれの事案ごとに、死体や現場の状況、関係者の供述、検査の結果、立会医師の意見等を勘案し、刑事訴訟法に基づく司法解剖や死因・身元調査法に基づく解剖の要否を判断し、必要な解剖を確実に実施するよう努めている。

 
多数死体取扱訓練の状況(死体は模擬)
多数死体取扱訓練の状況(死体は模擬)
⑥ 法医学者等による教育訓練の実施等

適正な死体取扱業務を推進して犯罪死の見逃しを防止するため、検視官をはじめとする死体取扱業務に携わる警察官に対する教育訓練の充実を図っており、法医学者、歯科法医学者等による講義や実習等を通じて、法医学の専門知識を習得させている。

 
法医学者による講義の状況
法医学者による講義の状況

CASE

令和3年8月、救急隊から「119番通報した通報者の自宅敷地内において、通報者の同居人の男性が死亡している」旨の通報を受け、現場に臨場した警察署捜査員が、男性の死体の傷の状況等を不審に思い、即座に映像伝送装置を使用して検視官に死体の画像を送信した。検視官が画像を確認したところ、他者により危害が加えられた可能性が高いと判断したため、鑑識活動の要点を具体的に指示するとともに、自らも早急に現場に臨場した。司法解剖等の結果、犯罪性が明らかとなり、同月、通報者の男性を傷害致死罪で逮捕した(福岡)。



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