トピックス

トピックスII 我が国におけるマネー・ローンダリング対策

(1)マネー・ローンダリング対策の概要

マネー・ローンダリングとは、一般に犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為である。我が国では、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法において、マネー・ローンダリングが罪として規定されている。警察では、犯罪収益移転防止法の施行を中心に、関係機関・団体等と協力してマネー・ローンダリング対策を推進している。

犯罪収益移転防止法は、金融機関等の一定範囲の事業者に顧客等の本人確認、記録等の作成・保存、疑わしい取引の届出等の措置を義務付けることなどにより犯罪収益の移転防止を図り、これにより国民生活の安全と平穏を確保し、経済活動の健全な発展に寄与することを目的とする法律である。

 
図表II-1 犯罪収益移転防止法の概要
図表II-1 犯罪収益移転防止法の概要

MEMO FATF第4次対日相互審査の結果と行動計画の取りまとめ

FATF(注1)は、マネー・ローンダリング対策、テロ資金供与対策及び拡散金融(注2)対策に関する国際協力を推進するため設置されている政府間会合であり、令和3年(2021年)末現在、我が国を含む37の国・地域及び2の国際機関が参加している。FATFは、各国が法執行、刑事司法及び金融規制の各分野において講ずるべき措置を、「FATF勧告」として示している。また、参加国における勧告の遵守の徹底のため、順次、各国に審査団を派遣して相互審査を実施しており、我が国に対しても過去に4回にわたって審査が実施された。4回目の審査については、令和元年10月から同年11月にかけて、審査団による現地調査が行われたところであり、令和3年6月の全体会合で審査結果報告書の討議・採択が実施された。同報告書においては、日本は「重点フォローアップ国」(注3)とされ、対策を一層向上させるため、金融機関等に対する監督や、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の捜査・訴追等に優先的に取り組むべきであるとされた。

また、同報告書の公表を契機として、政府が一体となって強力に対策を進めるため、令和6年春までの3年間に推進していくべき施策が、令和3年8月に「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」として取りまとめられた。

注1:Financial Action Task Force(金融活動作業部会)の略

注2:大量破壊兵器の拡散に寄与する資金の供与

注3:「通常フォローアップ国」、「重点フォローアップ国」及び「観察対象国」の3つのカテゴリーが存在し、「重点フォローアップ国」の場合、審査が終了してから3年間、法令等の整備状況に係る改善状況をFATFに報告し、FATFから、各項目の評価改善につながるか審査を受けることとなる。

 
FATF全体会合の様子(©FATF事務局)
FATF全体会合の様子(©FATF事務局)

(2)警察の取組

キャッシュレス化や利用者の匿名性が高い暗号資産により資金の決済体系が大きく変容しつつあるなど、マネー・ローンダリング対策を取り巻く環境は複雑化している。こうした情勢に的確に対処するため、警察では、平成31年4月に警察庁が策定した「犯罪収益対策推進要綱」に基づき、犯罪による収益の移転防止、犯罪組織の弱体化及び壊滅、テロ資金供与の防止等を図ることを目的として、

・犯罪による収益の移転防止に関する特定事業者の自主的な取組及び国民の理解の促進

・犯罪による収益に関する情報の分析及び活用

・犯罪収益関連犯罪の取締り及び犯罪による収益の剥奪

・マネー・ローンダリング対策に関する国際的な連携

等を推進している。

CASE

会社役員の男(65)は、平成29年(2017年)8月から同年9月にかけて、アラブ首長国連邦に所在する法人から日本国内の金融機関に開設された同男が管理する法人名義の口座に送金された約1,117万円について、犯罪行為により得られた不正な金銭である可能性を認識しながら、金融機関に対し、正当な取引による送金であるかのように装って同金銭を引き出し、現金800万円をだまし取った。令和3年6月、同男を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)及び詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

MEMO マネー・ローンダリング事犯に係る捜査の強化等

「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」では、「マネロン罪の捜査・訴追の強化」、「捜査・没収の強化」等の施策が盛り込まれた。これを踏まえ、警察庁では、マネー・ローンダリング事犯の捜査・訴追や没収に係る関係機関との連携を強化するため、令和3年10月に法務省及び最高検察庁と共にタスクフォースを設置した。

このタスクフォースにおける検討を踏まえ、警察庁では、令和3年12月、都道府県警察等に対して通達を発出し、より積極的なマネー・ローンダリング事犯の取締りや犯罪収益の剥奪に向けた取組を推進するよう指示した。また、各都道府県警察における取組状況や今後の取組方針等の調査・分析をするとともに、各種会議においてマネー・ローンダリング事犯の捜査の強化等を指示したり、研修等を実施したりしている。



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