トピックス

トピックスI 2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に伴う警察活動

2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「2020年東京大会」という。)は、新型コロナウイルス感染症の国際的な広がりを受けて延期され、令和3年(2021年)7月23日から同年9月5日にかけて開催された。

警察では、平成26年(2014年)1月、警察庁に2020年オリンピック・パラリンピック東京大会準備室(注1)を設置するなど必要な体制を確保し、大会組織委員会(注2)や関係機関と連携しながら、全国警察が一体となった総合的な警備諸対策を推進した。大会期間中には、競技会場を管轄する9都道県警察で合計約5万9,900人の体制で警戒等に当たり、大会の安全かつ円滑な運営を確保し、開催国としての治安責任を全うした。

注1:平成29年7月、同準備室は廃止され、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会対策推進室」が新たに設置された。

注2:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

 
東京オリンピック競技大会の開幕式(アフロ社)
東京オリンピック競技大会の開幕式(アフロ社)

(1)2020年東京大会をめぐる情勢

世界各地でテロが相次いで発生するとともに、海外で邦人や我が国の権益がテロの被害に遭う事案が発生するなど、我が国に対する国際テロの脅威が継続していることや、近年においても国際的に注目を集める大規模スポーツイベントを狙ったテロ事件が発生していることなどを踏まえると、2020年東京大会がテロの標的となる可能性が否定できない状況にあった。

また、近年、サイバー空間における脅威は、極めて深刻な情勢が続いており、平成30年(2018年)2月に開催された平昌冬季オリンピック競技大会においては、大会システムへのサイバー攻撃が発生したほか、2020年東京大会に関連して、その名称を使用したマルウェアの作成やSNS上での大会関係機関を標的としたサイバー攻撃の呼び掛けが確認されていたことなどから、大会運営の妨害等を狙ったサイバー攻撃の発生が懸念された。

さらに、全国各地において、2020年東京大会の中止等を求めて、反グローバリズムを掲げる勢力が中心となった抗議行動や、極左暴力集団、右翼等による抗議行動が行われており、これに伴う違法行為の発生も懸念された。

(2)警察の総力を挙げた取組

① テロ対策

警察では、政府が取りまとめた「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に向けたセキュリティ基本戦略」に基づき、外国治安情報機関等との緊密な情報交換や総合的なテロ関連情報の収集・分析を推進するとともに、関係機関と連携して、大規模集客施設や公共交通機関等におけるテロ対策、競技会場の周辺における車両突入対策や小型無人機対策、水際対策等に取り組んだ。

また、施設管理者や地域住民等を含む社会全体でのテロ対策が重要であることから、関係機関、民間事業者等と連携したテロ対処訓練を実施するなど、官民一体となったテロ対策を推進した。

その結果、大会の運営に影響を及ぼすようなテロ等違法行為の発生を抑止した。

 
競技会場における警戒状況
競技会場における警戒状況
② サイバー攻撃対策

警察では、関係機関・団体等と連携して、2020年東京大会をめぐるサイバー攻撃及び攻撃者に関する情報収集・分析等を推進した。また、大会の開催決定直後から競技会場を管理する事業者、電力、通信、水道、鉄道、放送等の重要サービス事業者等に対する大会システムのセキュリティ対策状況の確認及び助言を実施するとともに、大会組織委員会、競技会場を管理する事業者等とサイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練を実施するなど、官民が連携したサイバー攻撃対策を推進した。大会期間中には、関係機関・団体等との緊密な連携の下、24時間対応可能な即応体制を整え、事案発生時の対応に万全を期した。

その結果、大会の運営に影響を及ぼすようなサイバー攻撃の発生はなかった。

MEMO 会場周辺空域の安全確保(空域統制所の設置)

大会期間中は、多数の航空機が会場周辺の空域を飛行することから、同空域における効率的かつ安全な飛行を確保するとともに、不審機の監視等により経空テロを防止するため、関係機関(注1)や民間事業者の参加を得て、警察庁に空域統制所を設置した。

空域統制所では、JAXAが開発した「災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)(注2)」システムを活用し、会場周辺の空域を飛行する航空機について、運航計画の調整、動態管理等を一元的に実施した。

注1:総務省、国土交通省及び防衛省

注2:16頁参照(特集)

 
空域統制所での調整状況
空域統制所での調整状況
③ 交通対策

警察では、大会関係者等の安全かつ円滑な輸送と都市活動の安定を両立させる観点から、関係機関・団体等と連携しながら、各種交通対策に取り組んだ。

具体的には、大会期間中の交通総量抑制に取り組んだほか、関係者輸送ルート(注)の円滑化を図るため、高速道路における本線料金所での開放レーン数の制限、入口閉鎖及び車線規制並びに一般道路における大会関係車両等の専用又は優先通行帯の設定及び会場周辺の車両通行禁止規制等を実施した。

注:選手村又は宿泊施設と空港、競技会場、練習会場等を結ぶ経路の総称

 
開放レーン数の制限の状況(令和3年7月、首都高速道路八潮料金所)
開放レーン数の制限の状況(令和3年7月、首都高速道路八潮料金所)
 
優先通行帯標識の設置状況
優先通行帯標識の設置状況

(3)大規模行事に伴う警備諸対策に関する今後の展望

令和5年には主要国首脳会議(G7サミット)が、令和7年には2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が、それぞれ我が国で開催される予定である。警察では、2020年東京大会における経験を生かしつつ、引き続き、大規模行事における治安確保に万全を期すこととしている。



前の項目に戻る     次の項目に進む