2 デジタル社会の安全・安心の確保
我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現を図るため、政府を挙げて、デジタル社会(注)の形成に向けた施策が迅速かつ重点的に推進されるとともに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機とした「新しい生活様式」の定着により、テレワークをはじめとする多様な働き方が定着するなど、デジタル技術の活用が加速している。
他方、政治、経済、軍事及び技術をめぐる国家間の競争の顕在化を含む国際社会の変化、情報通信技術の進歩や、複雑な社会経済活動の相互依存関係の深化が進むなど、サイバー空間を取り巻く不確実性は絶えず、変容し、増大している。
こうした中で、サイバー空間は、地域や老若男女を問わず、全国民が参画し、重要な社会経済活動が営まれる公共空間へと変貌を遂げ、金融、航空、鉄道、医療等といった国民生活や社会経済活動を支える基盤となる機能から、警察や防衛といった治安や安全保障に関わる国家機能に至るまで、あらゆる場面で実空間とサイバー空間が融合した社会の到来が現実となりつつある。こうした社会においてサイバー事案が発生すれば、生産活動の一時停止、サービス障害、情報の窃取等が生じ、社会経済活動、ひいては国家安全保障に大きな影響が及び得る。
したがって、デジタル化の進展と併せてサイバーセキュリティ確保に向けた取組を同時に推進することが、我が国の極めて重要な課題となっており、そのために警察が中心的な役割を果たすことが求められている。地理的な制約を受けないこと、高度な技術が用いられることなどの特性を持つサイバー事案に的確に対処するためには、警察が保有するリソースを最大限に有効活用することが不可欠であるほか、国内外の多様な主体と手を携え、社会全体でサイバーセキュリティを向上させるための取組を推進する必要がある。
警察では、第1節で述べたとおり、サイバー事案への対処能力の強化を図るため、令和4年4月、警察庁にサイバー警察局を新設するとともに、関東管区警察局にサイバー特別捜査隊を新設した。今後は、サイバー警察局が国内外の多様な主体と協力し、サイバー政策の推進における中心的な役割を担うほか、サイバー特別捜査隊が外国捜査機関等との国際共同捜査に積極的に参画するなど、重大サイバー事案への対処を担うこととなる。他方で、同隊の新設により、都道府県警察の責務は何ら減ずるものではない。国民の安全・安心を確保するため、サイバー事案に関する実態把握から被害防止対策の浸透に至るまで、地域社会との連携の重要性は一層高まっていることから、都道府県警察は、警察本部・警察署・交番等全ての組織を挙げて地域社会との連携を一層強化し、被害相談の受付・捜査・対策等を推進する役割を担うこととなる。
重要な社会経済活動が営まれる公共空間へと変貌を遂げているサイバー空間、さらにはSociety 5.0の実現によりサイバー空間と高度に融合することとなる実空間の安全を確保し、国民が安全・安心に生活できるデジタル社会の実現に貢献するため、警察には、その総力を挙げてサイバー空間における脅威に対処することが求められている。
注:高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界規模で入手し、共有し、又は発信するとともに、情報通信技術を用いた情報の活用により、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会
