特集 技術革新による社会の変容と警察の新たなる展開

3 国民の利便性向上・負担軽減に向けた取組

(1)警察行政手続のデジタル化

① 運転免許証とマイナンバーカードの一体化等

運転免許証は、国民生活に密接に関係するものとして広く普及しており、これに関する手続については、より一層国民の利便性向上や負担軽減を図っていくことが求められている。

そこで、警察庁では、運転免許証とマイナンバーカードの一体化を実現するために必要な検討を進めており、令和6年度末から運用を開始する予定である。これにより、住所変更手続のワンストップ化、居住地外での迅速な運転免許証の更新手続等が可能となり、運転免許証に関する手続を国民にとってより便利なものとすることができる。

令和3年度は、運転免許証とマイナンバーカードの一体化に係る具体的な手続を含む制度の在り方等について、関係機関と調整を進めた。これを踏まえ、令和4年4月、第208回国会において、運転免許に係る情報のマイナンバーカードへの記録に関する規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が成立した。

また、令和4年2月から、北海道、千葉県、京都府又は山口県に住所を有する優良運転者で、マイナンバーカードを保有する者を対象とした、オンライン更新時講習のモデル事業を開始した。これにより、受講者は、スマートフォンやパソコン等から専用のウェブサイトにアクセスして講習動画を視聴することにより、オンラインで更新時講習を受講することができる。

 
運転免許証とマイナンバーカードの一体化(イメージ)
運転免許証とマイナンバーカードの一体化(イメージ)
 
オンライン講習における講習動画(イメージ)
オンライン講習における講習動画(イメージ)
② 反則金の納付方法の多様化等

交通反則通告制度(注1)における反則金の納付方法については、従来、金融機関の窓口における現金納付に限られていたため、納付者の利便性の向上や金融機関の事務負担の軽減の観点から、早急に納付方法の多様化を進める必要がある。このため、令和3年6月から、秋田県警察及び島根県警察において、インターネットバンキングやATMを利用した振り込みによる納付を試行的に導入しているほか、警察庁において、クレジットカード納付やペイジー納付等を可能とするため、共通基盤(注2)を活用したシステムの構築に向けた検討を進めている。

また、放置違反金制度(注3)における放置違反金の納付方法については、令和4年4月1日現在、14都府県警察においてコンビニ納付等が導入されており、警察庁では、都道府県警察に対して、知事部局と連携して、納付方法の多様化に向けた取組を推進するよう働き掛けている。

さらに、これらの納付方法の多様化と併せて、現在、警視庁及び栃木県警察を除いて手書きで作成している交通反則切符等について、高度警察情報通信基盤システム(PIII)(注4)を活用して作成するための検討も進めている。これにより、交通反則切符等の作成の時間が短縮され、業務の効率化が見込まれる。

注1:道路交通法に違反する行為について罰則を存置しながら、車両等の運転者が行った違反のうち、比較的軽微であって、現認・明白・定型のものを反則行為とし、反則行為をした者(一定の者を除く。)に対しては、行政上の手続として警視総監又は道府県警察本部長が定額の反則金の納付を通告し、その通告を受けた者が反則金を任意に納付したときは、その反則行為に係る事件について公訴を提起されないが、一定期間内に反則金を納付しなかったときは、本来の刑事手続が進行することを内容とする制度

注2:20頁参照

注3:運転者に対して放置駐車違反の責任追及を行うことができないときは、都道府県公安委員会が車両の使用者に放置違反金の納付を命ずることができる制度

注4:Police Integrated Info-communication Infrastructureの略。画像・映像伝送機能、グループ通信機能等を利用できるほか、訪日外国人との円滑な意思疎通を支援するため、多言語翻訳機能を導入している。各機能については205頁(第7章)を参照

③ 遺失物関係手続のオンライン化

令和3年中に提出された遺失届は全国で約357万件と、遺失物に関する手続は国民生活に密接に関係するものであり、早急にオンライン化を進める必要がある。警察庁では、遺失届の提出のほか、特例施設占有者が行う遺失物等に関する届出(注)、施設占有者が拾得した遺失物等の提出時に必要な書類の提出等をオンラインで可能とするシステムの構築を進めており、令和4年度末から一部の府県でシステムの運用を開始し、令和8年度末までに全国へ運用を拡大することとしている。

注:一定の公共機関又は都道府県公安委員会が指定した施設占有者(特例施設占有者)は、拾得物に関する事項を警察に届け出たときは、その物件を自ら保管することができる。

④ 行政手続のオンライン化

警察が所管する手続は多岐にわたっている。利用者中心の行政サービスを実現するため、こうした手続についてオンラインで申請等ができるシステムを構築することが求められている。

警察庁では、まずはオンライン化の要望が多い手続について、電子メールによる簡易な方法で申請等の手続ができるよう、試行的なウェブサイトとして「警察行政手続サイト」を構築した。同サイトについては、令和3年6月に道路使用許可の申請等をはじめとする6手続を対象として運用を開始し、令和4年1月には、駐車許可の申請等の14手続を対象手続に追加した。

また、警察庁では、今後より多くの手続をオンラインで行うことができるシステムを構築するための検討を進めており、添付書類の合理化等の手続自体の見直し、マイナンバーカード等を用いた本人確認、手数料のオンライン納付等についても検討している。

(2)刑事手続における情報通信技術の活用

令和2年7月に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」等において、捜査・公判のIT化方策の検討を開始することとされたことを踏まえ、法務省において、警察や法曹三者、刑事法研究者等から成る「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」が開催された。

同検討会は、令和3年3月から令和4年3月にかけて11回開催され、刑事手続において情報通信技術を活用する方策について議論が行われ、同月、報告書が取りまとめられた。同報告書では、「刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続の機能をより一層強化し、国民の負託に応えるものとする上で極めて重要な意義を有するものであり、必要な法整備が早期に実現することが望まれる」などとされている。

現在、紙の文書を利用して対面で行われている令状請求、送致等の捜査手続において情報通信技術を活用することは、捜査の効率化・迅速化等に資するものであり、警察庁では、その具体的な方策について、都道府県警察と意見交換を行うとともに、関係機関と連携しつつ、情報通信技術の活用に向けた検討を行っている。

 
図表特-16 捜査手続における情報通信技術の活用のイメージ
図表特-16 捜査手続における情報通信技術の活用のイメージ

(3)国民と警察を結ぶツールの高度化

① 110番映像通報システムの導入

110番通報者からの現場映像の送信を可能とするシステムについて、令和4年度中に全国警察で運用を開始する予定である。

これにより、警察官が現場に向かう前に現場の情報収集を行うことが可能となり、事情聴取に伴う110番通報者等の負担軽減を図るとともに、より迅速かつ的確な判断・対応が可能となることが期待されている。

 
図表特-17 110番映像通報システム
図表特-17 110番映像通報システム
② 「ヘリコプター基地局」の実証実験への協力

新潟県警察では、KDDI株式会社等が行っている「ヘリコプター基地局」の実証実験に協力している。同実証実験では、小型化・軽量化した携帯電話基地局を警察用航空機に搭載することにより、携帯電話サービスが利用できない地域において携帯電話による通信を一時的に利用できるようにするとともに、要救助者が所持する携帯電話の位置を推定することを目指しており、実用化された場合には、救助活動への活用が期待されている。

 
「ヘリコプター基地局」を活用した携帯電話の位置推定の様子
「ヘリコプター基地局」を活用した携帯電話の位置推定の様子
 
携帯電話が発信する電波の捕捉状況の表示画面
携帯電話が発信する電波の捕捉状況の表示画面

(4)警察情報管理システムの合理化・高度化

警察では、犯罪捜査活動をはじめとする現場の警察活動の支援、迅速な警察行政への貢献、関係機関との連携の円滑化等を実現して様々な警察活動を支えるため、警察情報管理システムの整備・維持をしている。同システムは、警察庁のシステムと都道府県警察が個別に整備・維持をするシステムを接続したものであり、類似のシステムをそれぞれの都道府県警察で整備・維持をすることでコストが重複してしまうことなどが課題となっている。

この課題を解決するため、警察庁において共通基盤を整備し、これに警察庁及び都道府県警察の従来のシステムの集約・統合をして、警察庁及び都道府県警察が共通で活用できるようにするほか、個々のシステム同士の連携を容易にするなど、警察情報管理システム全体の合理化・高度化に取り組んでいる。これにより、運転免許証とマイナンバーカードの一体化、警察が所管する行政手続のオンライン化等を可能とし、国民の利便性向上や負担軽減を図るとともに、行政手続の処理の効率化や警察情報管理システムの整備・維持に係るコストの削減を図ることとしている。



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