トピックス

トピックスI 組織的に敢行される特殊詐欺に対する警察の取組

(1)特殊詐欺の特徴

特殊詐欺(注1)の犯行グループは、中枢被疑者の下、「受け子」及び「出し子」と呼ばれる現場実行犯のほかに、被害金等の回収・運搬役、「受け子」等の指示役(注2)、リクルーター(注3)、犯行ツールの調達役(注4)等が役割を分担し、組織的に特殊詐欺を敢行している。また、各役割にある者は、お互いの素性を明かさず連絡の痕跡を残さないようにするなど、徹底した秘匿工作を行っている。

注1:被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝及びキャッシュカード詐欺盗を含む。)の総称

注2:「受け子」等に対して、犯行の準備・実行・後始末等の様々な指示を行う役割の者をいう。

注3:「受け子」等を担う要員を犯行グループに勧誘する役割の者をいう。

注4:特殊詐欺の犯行に使用する電話、口座等の犯行ツールを調達する役割の者をいう。犯行拠点を用意する者も含む。

(2)暴力団等の関与実態と効果的な取締り等の推進

令和2年(2020年)中の特殊詐欺の検挙人員2,621人のうち、暴力団構成員等(注1)の人数は402人であり、近年は減少しているものの、その割合(15.3%)は、刑法犯・特別法犯総検挙人員に占める暴力団構成員等の割合(5.4%)と比較して、依然として高い割合となっている。また、主な役割別検挙人員に占める暴力団構成員等の割合をみると、現場実行犯である「受け子」では8.6%、「出し子」では11.6%となっている一方、中枢被疑者では45.0%、「受け子」等の指示役では46.0%、リクルーターでは34.2%と、犯行グループ内で主導的な立場にある者での割合が高い水準で推移しており、暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがえる。さらに、近年は準暴力団等(注2)が特殊詐欺事件に関与している事例も確認されている。

警察では、特殊詐欺事件の背後にいるとみられる暴力団や準暴力団等の犯罪者グループ等を弱体化し、特殊詐欺の抑止を図るため、各部門が連携した多角的な取締りを推進するとともに、積極的な情報収集等により、こうした犯罪者グループ等の活動実態や特殊詐欺事件への関与状況等の解明を推進している。

注1:140頁参照(第3章)

注2:145頁参照(第3章)

 
図表I-1 刑法犯・特別法犯の総検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙状況の推移(平成28年(2016年)~令和2年)
図表I-1 刑法犯・特別法犯の総検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙状況の推移(平成28年(2016年)~令和2年)
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図表I-2 特殊詐欺の検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙状況の推移(平成28年~令和2年)
図表I-2 特殊詐欺の検挙人員に占める暴力団構成員等の検挙状況の推移(平成28年~令和2年)
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図表I-3 主な役割別検挙人員に占める暴力団構成員等の割合の推移(平成28年~令和2年)
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CASE

平成31年4月、金融庁職員を装って高齢者の自宅を訪れた「受け子」の男(22)が、高齢者のキャッシュカードを別のカードにすり替えて窃取するなどした特殊詐欺事件で、稲川会傘下組織の構成員の男(29)が犯行グループの指示役として関与している実態を解明し、令和2年6月までに、同男ら4人を窃盗罪等で逮捕した(神奈川、島根)。

CASE

平成31年1月、親族の同僚を装って高齢者の自宅を訪れた「受け子」の男(20)が、高齢者から現金をだまし取るなどした特殊詐欺事件で、六代目山口組傘下組織の構成員の男(26)及び住吉会傘下組織の構成員の男(26)が犯行グループの指示役として関与している実態を解明し、令和2年7月までに、同男ら8人を詐欺罪で逮捕した(警視庁)。

MEMO 警察庁における特殊詐欺対策に関する事務の組織犯罪対策部門への移管と取組の強化

近年、特殊詐欺事件に暴力団や準暴力団等が深く関与している実態がみられることから、警察庁では、特殊詐欺事件捜査と事件に関与する犯罪者グループ等への対策を一元的に行うため、令和3年4月から、特殊詐欺対策に関する事務を、詐欺等を担当する知能犯捜査部門から暴力団対策等を担当する組織犯罪対策部門に移管した。警察では、職務質問等による「受け子」等の検挙、犯行拠点の摘発、悪質な犯行ツール提供事業者に対する取締り等を引き続き推進するとともに(注)、犯行グループ及びその背後にいるとみられる暴力団、準暴力団等の犯罪者グループ等の組織実態等に関する情報の収集・集約・分析を徹底し、取締りを強化することにより、特殊詐欺の根絶に向けた取組を一層強力に推進している。

注:91頁参照(第2章)

(3)指定暴力団の代表者等に対する損害賠償請求訴訟の支援

暴力団対策法では、指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(注)により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定している。特殊詐欺事件については、被害者に対して指定暴力団の威力を利用していなくても、犯行グループ内で指定暴力団の威力を利用して共犯者を集めたり、その脱退を妨げたりした場合にも、当該代表者等の責任を認める裁判例が示されている。

警察では、特殊詐欺事件の被害者の被害回復に資するため、指定暴力団の代表者等に対する損害賠償請求訴訟に関して、積極的な支援を行っている。

注:指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為

 
図表I-4 特殊詐欺事件に係る指定暴力団の代表者等に対する損害賠償請求の例
図表I-4 特殊詐欺事件に係る指定暴力団の代表者等に対する損害賠償請求の例

CASE

平成25年5月から平成26年6月までの間に発生した、住吉会傘下組織の構成員らによる特殊詐欺事件の被害者ら約40人が、住吉会の代表者らに対して損害賠償を求めた民事訴訟について、令和3年2月、東京地方裁判所は、同代表者らに対し、合計約4億6,000万円の支払を命じた。警察では、同訴訟に関し、弁護士会と連携し支援を実施した(警視庁)。



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