特集2 サイバー空間の安全の確保

第3節 今後の取組

近年、新型コロナウイルス感染症に関連するサイバー犯罪の発生や「Emotet」(注)のような感染力の強い特徴的な不正プログラムの出現など、日々新たな手口のサイバー犯罪が登場しているほか、国内防衛関連企業等から機密情報が流出した可能性のあるサイバー攻撃事案が発生するなど、サイバー空間における脅威は極めて深刻な情勢となっている。

その一方で、サイバー空間は国民の日常生活の一部として重要な社会経済活動が営まれる公共空間へと変貌を遂げており、サイバー空間の安全安心の確保は、国民にとって安全安心なデジタル社会の実現のためにこれまで以上に重要かつ必要不可欠なものとなると考えられる。

警察では、これまでもサイバー犯罪・サイバー攻撃の取締り、不正プログラムの解析をはじめとした情報解析技術の活用、外国捜査機関等との連携等、サイバー空間の脅威への対策を講じてきたところである。今後、デジタル社会が進展し、サイバー空間の役割が拡大していく中、国民の安全安心な暮らしを守る責務を担う警察は、サイバー空間の安全安心の確保に向けた取組においても、これまで以上に中心的な役割を果たすことが求められている。

注:17頁参照

MEMO 令和2年度サイバーセキュリティ政策会議の開催

警察庁においては、「サイバーセキュリティ政策会議」が令和2年(2020年)10月から令和3年3月にかけて5回開催された。同会議では、「生活様式の変化等に伴うサイバー空間の新たな脅威に対処するための官民連携の更なる推進」をテーマとして、新型コロナウイルス感染症の感染拡大やデジタル化の進展等により大きく変化するサイバー空間の脅威について、幅広い分野の有識者とともに幅広い議論が行われ、同月、報告書が取りまとめられた。

報告書では、スマートフォン決済サービスの不正振替のように、令和2年中に深刻な被害を生じさせた新たな脅威がサイバー空間で顕在化している点や、以前から確認されているフィッシングや不正プログラムによる攻撃の犯行手口等の悪質化、国家の関与が疑われるサイバー攻撃の被害の深刻化等が生じている点等、サイバー空間の脅威が極めて深刻な情勢にあることが共有されるとともに、今後、サイバー空間は、全国民が参画し、重要な社会経済活動が営まれる、これまで以上に重要かつ公共性の高い場へと変貌を遂げていくとの認識が示された。

また、サイバー空間の新たな脅威に対処していくための新たな基本理念として、「公共空間としての安全性確保」が提示され、サイバー空間においても、実空間と同水準の安全性の実現、すなわち、誰もが安心して参画できるサイバー空間の実現を目指していくべきであるとの提言がなされ、そのための課題と今後の取組として、以下3点の方向性が示された。

ア 犯行主体の特定を通じた犯罪対策・安全保障

今後のサイバー空間において実空間と同水準の安全性を実現するため、法治国家として、犯罪についてその行為者に帰責するという健全な社会認識を醸成していく必要がある。そのためには、警察における犯人の事後追跡可能性の向上や犯行主体やその手口、目的を特定する活動(アトリビューション)の強化・活用を図るため、犯罪インフラを提供する悪質事業者の摘発強化等の取組が必要である。

イ 健全なサイバー空間の実現に向けた各主体による取組

健全なサイバー空間の実現に向けた各主体におけるサイバー・ハイジーン(注1)の実践を促すため、事業者や個人における具体的な取組の促進、公的機関としての警察による情報発信の強化等の取組が必要である。

ウ 安全性確保に向けた取組の実効性を担保する基盤・観点

安全なサイバー空間の基盤となるスマートフォン等における本人確認等の信頼性を確保するため、SMS機能付きデータSIMを契約する際の本人確認を徹底することのほか、ソーシャルエンジニアリング(注2)に対応するための技術的措置として、フィッシングサイトに誘導するSMSを遮断するための仕組みを構築することが必要であり、これらについて、必要な対策等が講じられるよう関係事業者に対して働き掛けを行うことが重要である。

注1:ソフトウェアに適切にパッチが適応されているかを確認する、定期的にデータのバックアップを取得するといった、基本的な行動に平時から取り組むこと

注2:人間の心理的な隙や行動のミスにつけ込み、情報通信技術を使用せずに、ID・パスワード等を窃取する方法

 
サイバーセキュリティ政策会議報告書(概要)

警察庁では、これまで述べてきたように、サイバー空間の脅威が極めて深刻な情勢にあること、包括的なサイバーセキュリティ対策の必要性等についてサイバーセキュリティ政策会議から提言を受けたことなどを踏まえ、サイバー犯罪・サイバー攻撃への対処能力の向上を図るため、警察の組織体制の在り方等について必要な検討を行っている。今後、令和4年度を目途とした警察組織の見直しも視野に入れた上で、令和3年度末までに一定の方向性を示すこととしている。



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