特集1 東日本大震災から10年を迎えて

2 大規模災害発生時の対処能力の向上

警察では、東日本大震災及びその後に発生した災害への対応を踏まえ、全国から被災地に向けて迅速に応援部隊を派遣するための即応能力の強化、発災後早期に被害状況を把握するための情報収集能力の強化、災害発生時の警察業務の継続等のための警察活動の基盤確保等に取り組み、大規模災害発生時の対処能力の向上を図ってきた。

(1)即応能力の強化

東日本大震災では、全国警察から過去最大規模の部隊派遣を行い、救出救助活動のほか、検視・身元確認、各種交通対策、避難所等での相談対応、被災地の警戒・警ら活動等、長期間かつ多岐にわたる警察活動を実施した。大規模災害対応では、全国の警察力をいかに迅速かつ的確に被災地に展開するかが重要であることから、部隊派遣のための体制整備や事前計画の策定を進めているほか、装備資機材の整備や訓練の充実、民間事業者との災害時協力協定の締結等により、災害発生時の即応能力の強化に取り組んでいる。

① 被災地への迅速な部隊派遣を行うための体制整備

東日本大震災では、津波や原子力災害等に対応するため、全国警察から長期間にわたり大規模な部隊派遣を行うこととなった。この経験を踏まえ、平成24年5月、大規模災害発生時に全国から直ちに被災地へ派遣する即応部隊の体制を最大1万人体制まで拡充するとともに、災害の種類や規模を問わず、幅広く対応できる体制を構築するため、災害対応が長期化する場合に派遣する一般部隊を新たに設置し、両部隊から成る警察災害派遣隊を新設した。

また、平成29年3月には、極めて高度な救出救助能力を必要とする災害現場において活動する部隊である特別救助班(P-REX)(注1)を4府県警察(注2)の広域緊急援助隊にも新たに設置し、現在16都道府県警察約240人体制で運用している。

こうした取組を通じ、災害発生時に救出救助部隊等を広域的に運用するための体制の強化を進めている。

注1:Police Team of Rescue Expertsの略。平成16年の新潟県中越地震を踏まえ12都道府県警察(北海道警察、宮城県警察、警視庁、埼玉県警察、神奈川県警察、静岡県警察、愛知県警察、大阪府警察、兵庫県警察、広島県警察、香川県警察及び福岡県警察)に約200人体制で設置された。

注2:千葉県警察、新潟県警察、京都府警察及び沖縄県警察

 
図表特1-1 警察災害派遣隊の構成
図表特1-1 警察災害派遣隊の構成

MEMO 「県民のためのスペシャリストを目指して」
(前 宮城県警察本部警備部機動隊 橋本学巡査部長)

平成23年3月11日午後2時46分、当時大学生であった私は福島県にいました。激しい揺れに身体の自由を奪われながらも室内から脱出すると、周囲には大津波警報を知らせるサイレンが鳴り響いていました。心の底から恐怖を感じたことを覚えています。津波により全てを破壊され、以前の姿が思い出せないほど変わり果てた景色の中で、私の目を引いたのは、雪の降る中、水色と黄色の制服(広域緊急援助隊)を泥だらけにしながら地面にはいつくばって捜索する警察官の姿でした。私は、それが、自身も被災者である宮城県警察の警察官であると知り、その姿に憧れを抱き、警察官を志すことにしました。震災当時の感動を胸に日々の訓練に励み、現在は宮城県警察の特別救助班の一員として、各種災害で救出救助活動に従事しています。部隊の練度不足等により救える命が失われることや、要救助者に不安を与えることがないよう「救助部隊の都合を押し付けない」を目標に、災害時に一人でも多くの命を救うことができるように訓練を続け、災害救助のスペシャリストを目指します。

 
前 宮城県警察本部警備部機動隊 橋本学巡査部長
② 大規模災害等に備えた各種計画の策定

東日本大震災時の福島第一原子力発電所における事故を受け、平成24年9月に政府の防災基本計画の修正等が行われ、原子力災害対策を重点的に実施すべき区域が拡大されたことなどを踏まえ、平成25年1月、警察庁においても国家公安委員会・警察庁防災業務計画の修正を行い、原子力災害警備計画を策定すべき都道府県警察を拡大するなどした。これを受け、原子力災害対策重点区域(注)を管轄する道府県警察本部及び警察署では、事故発生時の避難経路や避難施設、交通規制箇所等を定めた原子力災害警備計画を策定するとともに、自治体や原子力事業者等と原子力防災訓練を実施するなど緊密に連携している。

このほか、警察庁では、令和3年2月、首都直下地震発生時における警察災害派遣隊の即応部隊の派遣計画を策定し、警察庁や首都圏の1都3県警察との連絡が途絶した場合には、応援派遣を行う各道府県警察があらかじめ定められた進出拠点に自律的に部隊を出動させることなどを定めた。

また、東日本大震災時の緊急交通路の指定や確認標章の交付等の対応を踏まえ、今後の大規模災害発生時において人命救助や緊急物資輸送に必要な車両の通行をより迅速に確保することができるよう、平成24年、都道府県公安委員会が行うべき緊急通行車両の確認事務等の要領について定めた。さらに、首都直下地震や南海トラフ地震発生時において、災害応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、あらかじめ緊急交通路指定予定路線等を定めた交通規制計画を策定するとともに、関係機関・団体と連携して、同計画に基づく交通規制訓練を実施している。

注:PAZ(Precautionary Action Zoneの略。原子力施設からおおむね半径5kmの予防的防護措置を準備する区域)及びUPZ(Urgent Protective action Planning Zoneの略。原子力施設からおおむね半径30kmの緊急防護措置を準備する区域)

 
緊急交通路の確保訓練の状況
緊急交通路の確保訓練の状況

MEMO 風水害における交通対策タイムライン

近年、風水害が激甚化・頻発化していることを踏まえ、警察庁では、大規模な信号機の滅灯事案への対策等の風水害に備えた各種交通対策を取りまとめ、これらの対策を時系列で構成した「風水害における交通対策タイムライン」を策定し、警察庁と都道府県警察が各時点で何をすべきかの共通認識を持って事態対処に当たることにより、交通対策を迅速かつ確実に実施することとしている。

③ 救出救助能力向上のための装備資機材の整備・訓練の充実

警察では、倒壊家屋や水没エリア等、災害時における様々な環境下での部隊活動を想定し、災害警備活動の訓練に特化した訓練施設を整備するなど、救出救助能力向上のための取組を進めている。

また、近年、豪雨等による土砂災害等が頻発していることから、警察庁では、サーフェスドライスーツ(注1)、水難救助セット等の警察官の安全確保に資する装備資機材や、ベルトコンベアーや小型バックホウ(注2)等の効果的な救出救助のための装備資機材を整備するなどの土砂災害及び水害対策を講じている。

注1:水面又は雨天・荒天時における活動の際に、体温の保持、外傷の防止等、隊員の身体を保護するために着用する資機材

注2:アーム先端のバケットで土砂を手前にすくい取る土木建設機械の一種

 
装備資機材を活用した訓練
装備資機材を活用した訓練

MEMO 防災・減災、国土強靱(じん)化のための3か年緊急対策・5か年加速化対策

警察庁では、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(注1)(以下「3か年緊急対策」という。)及び「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(注2)(以下「5か年加速化対策」という。)を踏まえ、各種装備資機材の充実・強化及び警察施設等の耐災害性の向上に取り組んでいる。

注1:平成30年12月14日閣議決定。平成 30 年7月豪雨、平成 30 年北海道胆振東部地震等の様々な自然災害を受け、平成30年度から令和2年度までの3か年で実施された。

注2:令和2年12月11日閣議決定。「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」等の分野について、取組の更なる加速化・深化を図るため、令和3年度から令和7年度までの5か年で実施することとされた。

1 装備資機材の充実・強化

○ 救出救助活動や被災者の安全確保等のために必要な装備資機材について、3か年緊急対策として、救命ボート、バックホウ等を更新整備した。さらに、5か年加速化対策では、警察官が高所で作業するためのフルボディハーネス等を更新整備することを目標としている。

○ 災害時に活動する警察用車両や警察用航空機等について、3か年緊急対策として、車両約3,800台、警察用航空機4機等を更新整備している。さらに、5か年加速化対策では、車両約1万9,000台の更新整備等を目標としている。

 
救命ボートによる救出救助
救命ボートによる救出救助

2 警察施設等の耐災害性の向上

○ 災害発生時に警察活動の中核拠点となる都道府県警察本部や警察署について、3か年緊急対策等として警察署の耐震補強をするなどして、耐震化率(注)96.5%を達成した。さらに、5か年加速化対策では、耐震化率を98.0%に高めるとともに、水害時の警察署の機能維持に必要な発動発電機を整備することを目標としている。

○ 避難誘導や救出救助のために必要不可欠な警察情報通信のための各種設備等について、3か年緊急対策として、47都道府県警察の警察無線通信システムの整備等を実施した。さらに、5か年加速化対策では、老朽化した無線中継所11か所等の更新整備・改修を実施することを目標としている。

○ 避難路や緊急交通路の確保に必要な信号機等の交通安全施設について、3か年緊急対策として、大規模停電に備えた信号機電源付加装置を約1,000台更新・整備した。さらに、5か年加速化対策では、老朽化した信号機約4万5,000基の更新整備及び信号機電源付加装置約2,000台の整備を目標としている。

注:各都道府県が定める耐震基準を満たすものの割合

 
警察用車両による被災地の警戒活動
警察用車両による被災地の警戒活動
 
デジタル映像モバイル伝送システムを用いた被災状況の撮影・伝送
デジタル映像モバイル伝送システムを用いた被災状況の撮影・伝送

MEMO 各種検知資機材の配備

東日本大震災時の福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、様々な環境下での部隊活動を想定し、原子力災害警備のための個人被ばく線量計や空間線量測定用サーベイメータを増強配備したほか、平成26年の御嶽山噴火災害を受けて、火山性ガスを検知するための資機材を配備した。

MEMO 災害警備訓練の充実

警察庁では、大規模な地震や豪雨等による土砂災害等、我が国における災害の特性を踏まえ、より災害現場に即した環境下で体系的・段階的な救出救助訓練を実施するための災害警備訓練施設を整備しており、平成28年には近畿管区警察局災害警備訓練施設、平成30年には警視庁・東日本災害警備訓練施設の運用がそれぞれ開始された。

これら施設において、広域緊急援助隊等は、建物の様々な倒壊状況を再現できる可変式訓練ユニットや、浸水域対応訓練ゾーン等を用いた実戦的訓練を実施している。

また、近年の大規模な豪雨やこれに伴う土砂災害等の発生を受け、各警察署においても、捜索・救助のための訓練の強化に取り組んでいる。

 
警視庁・東日本災害警備訓練施設における広域緊急援助隊の訓練
警視庁・東日本災害警備訓練施設における広域緊急援助隊の訓練
④ 警察活動を迅速に行うための関係機関や民間事業者との連携

警察では、東日本大震災の対応において得られた教訓を踏まえ、平成23年以降、各都道府県警察において、大規模な被害が生じた場合に建物の損壊等により検視・遺体安置場所の確保に支障が生じることがないよう、自治体と連携し、市町村ごとに複数の施設を災害時の検視・遺体安置所として指定することとしており、令和3年4月1日現在、全国で4,915か所を指定している。

また、公益社団法人日本医師会、公益社団法人日本歯科医師会及び特定非営利活動法人日本法医学会との間で、大規模災害等における協力に関する協定をそれぞれ締結し、医師、歯科医師及び法医学専門家を被災地へ速やかに派遣できるよう協力体制を確保するとともに、自治体や各都道府県の医師会、歯科医師会等と被害想定を踏まえた合同訓練等を実施するなどして相互の連携強化に努めている。

そのほか、各都道府県警察において、民間事業者との間で、災害発生時の道路上の障害物の除去作業、海路での部隊員や装備資機材の輸送、発電機や大型投光器の貸与等についての協力協定を締結しているほか、災害発生時の行方不明者の捜索に際して、民間事業者が保有する無人航空機(ドローン)を活用する枠組みの構築を進めるなど、平時と異なる環境にある被災地において、警察活動をできる限り円滑に行うため、関係機関や民間事業者の支援を得るための取組を進めている。

 
歯科医師との合同訓練状況(遺体は模擬)
歯科医師との合同訓練状況(遺体は模擬)

MEMO 遺体の身元特定に向けた取組

東日本大震災の際に収容された遺体は、津波に飲み込まれたために居住地等から相当離れた場所で発見されたり、所持品等が失われたりしているケースや、家族全員が罹(り)災し、家族による遺体確認が困難とみられるケースも多く、身元確認が難航した。平成23年4月に宮城県の海上において発見された身元不明遺体は、警察による9年余りの調査を経て、令和2年11月に身元が判明し、遺族のもとに返されるなど、遺体の身元確認作業は今も続いている。

MEMO 民間事業者との協定の締結

富山県警察では、大規模災害発生時に大型重機等やオペレーターの貸与協力を得られるよう、廃材等を集積・リサイクルする事業者と協定を締結し、同協定に基づいて大型重機を活用した実戦的な訓練も実施している。

 
重機を使用した訓練
重機を使用した訓練
(2)情報収集能力の強化

東日本大震災では、発災直後から全国の警察用航空機を被災地に派遣し、浸水や瓦礫(がれき)により陸路での移動が困難な地域等において、上空から被災状況を把握するとともに、映像を首相官邸等にリアルタイムで伝送するなどし、関係機関と情報共有を行った。

大規模災害対応では、発災直後の被害規模の把握が重要であることから、そのために必要不可欠な警察用航空機の活動能力を強化しているほか、人の立入りが困難な被災箇所の状況を確認するための装備資機材の整備、ICTの活用や民間事業者との連携等による情報収集能力の強化に取り組んでいる。

① 警察用航空機による被害規模の早期把握

警察用航空機は、近年発生している大規模災害等に際し、全国から被災地に派遣され、被災状況の把握に重要な役割を果たしている。警察では、警察用航空機による情報収集能力の向上を図るため、夜間飛行訓練を強化しているほか、夜間の飛行において操縦士の視覚を補助する夜間微光暗視システムを順次導入している。また、令和3年度からは、悪天候等で有視界飛行ができない環境下での活動(計器飛行)に関する能力向上のための新たな訓練を導入予定である。

さらに、夜間や悪天候下における被災状況の撮影能力の向上を図るため、後席乗務員が撮影する可搬型超高感度カメラや、霧やもやの影響を受けることなく撮影可能な短波赤外線カメラを順次導入している。

 
可搬型超高感度カメラの訓練(青森)
可搬型超高感度カメラの訓練(青森)
② 情報収集のための装備資機材の整備

警察では、浸水や瓦礫により人が立ち入ることができない被災箇所の状況を把握するため、小型水中捜索システム、伸縮式画像探索装置(注1)、小型ビデオスコープ等の整備を進めている。また、無人航空機(ドローン)を用いて上空から被災状況等を撮影し、警察本部等にリアルタイムで伝送する無人航空機型映像撮影伝送システム等(注2)や、スマートフォン型のデータ端末等を用い、災害現場で活動する警察官が撮影した映像等を警察本部等にリアルタイムで伝送することができる高度警察情報通信基盤システム(PIII)(注3)を導入するなど、災害現場からの情報を迅速に収集・集約するためのシステムの活用を進めている。

注1:瓦礫の隙間から差し込み、倒壊した建物内の閉鎖空間に閉じ込められるなどした要救助者の状況及び位置を、映像により確認するための資機材

注2:令和2年7月豪雨における無人航空機型映像撮影伝送システム等の運用状況については55頁(トピックスIII)を参照

注3:Police Integrated Info-communication Infrastructureの略。画像・映像伝送機能、グループ通信機能等を利用できるほか、訪日外国人との円滑な意思疎通を支援するため、多言語翻訳機能を導入している。各機能については218頁(第6章)を参照

 
伸縮式画像探索装置を活用した訓練
伸縮式画像探索装置を活用した訓練
③ 国民や民間事業者から提供される情報の活用

令和4年度内に、110番通報者からの現場映像の送信を可能とするシステムの運用を全国警察で開始する予定であるなど、災害発生時に国民や民間事業者から提供される情報を救出救助活動等に効果的に活用するための取組(注)を進めている。

注:令和2年度から運用を開始した災害情報投稿サイトについては208頁(第5章)を参照

 
図表特1-2 110番映像通報システム
図表特1-2 110番映像通報システム

MEMO プローブ情報(注)の活用

警察庁では、東日本大震災の対応において得られた教訓を踏まえ、平成27年からプローブ情報を活用したプローブ情報処理システム(令和3年3月に広域交通管制システムに統合)の運用を開始した。同システムは、大規模災害発生時に、警察が常時収集しているプローブ情報に加え、民間事業者からもプローブ情報の提供を受けて通行実績情報を生成することができ、同情報を基に、どの道路が通行可能であるかどうかを把握することが可能になるものである。これにより、迅速・的確な交通対策を実施し、災害応急対策関係車両の円滑な通行を確保するとともに、避難路や迂回路に関する情報を国民にいち早く提供することが可能となっている。

令和2年7月豪雨では、同システムを活用して道路状況を把握し、被災現場への警察官の派遣や信号表示の調整等を実施することで、交通渋滞の解消を図った。

注:カーナビゲーションに蓄積された走行履歴情報

(3)災害発生時の警察活動の基盤確保等

東日本大震災では、警察施設の損壊やライフラインの途絶等により発災直後の警察活動に支障が生じたことを踏まえ、施設の耐災害性の向上や、民間事業者との連携等による警察活動の基盤確保に取り組んでいる。

また、東日本大震災では、避難誘導中に津波に飲み込まれるなどして30人の警察官が殉職したことを踏まえ、災害発生時の避難誘導に際して留意すべき事項をあらかじめ具体的に定めるなど、災害対応時の安全確保の徹底に取り組んでいる。

① 警察活動基盤の耐災害性の向上

警察では、災害発生時の活動拠点となる警察施設について耐震化をはじめとする耐災害性の向上を進めているほか、非常用電源車の整備や耐震強度不足の無線中継所及び老朽化した非常用電源設備の更新整備・改修等を行い、その高機能化及び堅牢化を推進している。

また、東日本大震災では、交通安全施設の柱の損壊、機器の水没等の被害が発生したことに加え、東京電力株式会社の管内においては、計画停電が実施されたことにより、多数の信号機が滅灯した。こうした教訓を踏まえ、災害発生時の信号機の滅灯による道路交通の混乱を防止するため、各都道府県の主要幹線道路や災害応急対策の拠点に連絡する道路等への信号機電源付加装置や可搬式発動発電機の整備を推進している。

 
非常用電源車から無線中継所への電源供給訓練
非常用電源車から無線中継所への電源供給訓練

MEMO 警察施設の浸水対策

近年の風水害でも、九州を中心に複数の交番・駐在所等の警察施設が浸水等の被害に遭っており、警察施設の浸水対策の必要性が浮き彫りとなった。

こうした中、庁舎の所在地を含む管轄地域のほぼ全てが海抜ゼロメートル地帯である愛知県蟹江警察署の新庁舎(令和元年10月完成)は、浸水対策として、1階の床面を同署周辺の道路より1.6メートル高くした上で、1階の倉庫付近から救出救助用ボートの出入りが可能な構造とするなど、災害時における災害対応の拠点としての機能の維持を図っている。また、執務スペースを2階以上に配置したほか、庁舎内駐車場の出入口に止水機能付きシャッターを設置し、被災後も迅速に通常業務を再開できるようにするなど、耐災害性を向上させるための工夫をしている。

 
図表特1-3 愛知県蟹江警察署の浸水対策
図表特1-3 愛知県蟹江警察署の浸水対策
② 災害発生時の殉職事案を踏まえた対策

警察庁では、平成24年3月、国家公安委員会・警察庁防災業務計画を修正し、各都道府県警察において、警察職員の安全を確保しつつ避難誘導を行うための活動要領に関する規定を新設した。これを受け、津波被害の可能性がある都道府県警察本部及び警察署においては、警察官が避難誘導のために配置につく場所や津波到達時までに警察官自身が避難すべき場所をあらかじめ定めるとともに、避難のために必要な移動時間を考慮し、津波到達予想時刻を踏まえて避難場所への移動を開始すべきタイミング等を示したマニュアルを整備するなどの取組を推進した。また、避難誘導に従事する警察官の安全確保のため、沿岸地域の警察署や交番等への救命胴衣、ゴムボート等の装備資機材の配備を進めたほか、これらを活用した災害警備訓練を実施している。

CASE

南海トラフ地震による津波被害が懸念される三重県警察の沿岸部警察署では、「津波避難誘導計画」を策定しており、津波到達が予想される場合には、警察官を主要交差点に配置して避難誘導を行うことや、津波到達の10分前までに警察官自身も避難を完了することを定めている。

MEMO 福島県双葉警察署の復興

福島第一原子力発電所が管内に所在する福島県双葉警察署は、同発電所の事故により、警察署機能の移転を余儀なくされたことから、約50キロ離れた福島警察署川俣分庁舎の道場に警察署機能を移し、被災地の警戒・警ら等各種警察活動を行った。

その後、平成24年10月、福島第一原子力発電所から20キロ圏内に位置する「道の駅ならは」に警察署機能を移し、「双葉警察署臨時庁舎」として警察活動を行い、平成29年3月30日には、富岡町の避難指示解除に先駆けて同町内の双葉警察署庁舎に警察署機能を戻した。

 
「道の駅ならは」における双葉警察署臨時庁舎開所式
「道の駅ならは」における双葉警察署臨時庁舎開所式
 
双葉警察署本署機能移転式
双葉警察署本署機能移転式

また、同署では、住民の避難誘導中に3人の署員が殉職した。避難誘導中に津波に飲み込まれた警察車両は、同署北側の公園に震災遺産として保全されていたが、現在は富岡町が建設するアーカイブ施設へ移転するための準備作業が行われている。

 
被災した警察車両
被災した警察車両


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