特集1 東日本大震災から10年を迎えて

特集1 東日本大震災から10年を迎えて

1 東日本大震災の被害状況及び主な警察活動

(1)概要及び被害状況

平成23年(2011年)3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とするモーメントマグニチュード9.0の「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(以下「東日本大震災」という。)が発生し、宮城県栗原市では震度7を、宮城県、福島県、茨城県及び栃木県の4県では震度6強をそれぞれ観測するなど、国内観測史上最大規模の地震となった。この地震に伴って発生した高い津波は、東北地方の太平洋沿岸部をはじめとする各地を襲うとともに、福島第一原子力発電所における事故等を引き起こした。東日本大震災による被害は、死者1万5,900人、行方不明者2,525人(令和3年(2021年)6月10日時点)等に上っている。特に被害の大きかった岩手県、宮城県及び福島県の東北3県をはじめ、全国における避難者数は、発災直後約47万人に上り、多くの被災者が避難所生活を強いられたほか、福島県では、原子力発電所における事故の影響を受け、福島第一及び第二原子力発電所の周辺住民等に対し避難指示等が発令された。なお、令和2年3月までに、帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示が解除された。

警察では、これまでに、広域緊急援助隊をはじめ、全国から延べ約142万人、1日当たり最大約4,800人の職員を派遣するとともに、震災から10年が経過した現在も、仮設住宅での防犯活動、行方不明者の捜索活動、帰還困難区域等における警戒・警ら活動等を継続して行っている。

 
行方不明者の捜索活動(平成23年、岩手)
行方不明者の捜索活動(平成23年、岩手)
 
行方不明者の捜索活動(令和2年、宮城)
行方不明者の捜索活動(令和2年、宮城)
(2)主な警察活動
① 避難誘導、救出救助及び捜索

被災地の各県警察では、地震発生直後から、海岸等に警察官を派遣して津波情報に関する広報を行い、津波による被害が発生する危険性の高い地域の住民等を高台へ避難させるなど、迅速な避難誘導を実施した。

また、全国から派遣された広域緊急援助隊や機動隊が、被災地の県警察と一体となって被災者の救出救助や行方不明者の捜索を実施した。これらの活動に当たっては、災害救助犬やエンジンカッター等の装備資機材を活用するとともに、津波により地上から接近できない現場が多かったことから、警察用航空機(ヘリコプター)に機動隊員が同乗し、被災者を吊り上げて救出した。この結果、警察は約3,750人を救出救助した。

 
福島第一原子力発電所周辺における捜索活動
福島第一原子力発電所周辺における捜索活動
② 原子力災害への対応

福島第一原子力発電所における事故等により、福島第一及び第二原子力発電所の周辺住民等に対する避難指示や警戒区域等の設定が行われたことから、警察では、住民の避難誘導や自力避難が困難な病院、療養機関等の入院患者等の避難所や病院への搬送を実施したほか、放射線量のモニタリング、原子炉建屋への放水活動等を行った。

警戒区域や計画的避難区域が設定された後も、警察では、引き続き検問や警戒・警ら活動、捜索活動等を行うとともに、警戒区域内への一時立入りに際して、住民を乗せたバスの警察車両による先導等の支援活動を実施した。

 
警察車両による搬送の実施
警察車両による搬送の実施
③ 検視、身元確認等

犠牲者の遺体は、警察において検視等を行い、身元を確認した上で遺族に引き渡した。特に多くの遺体が収容された岩手県、宮城県及び福島県には、全国の都道府県警察から1日当たり最大497人の広域緊急援助隊(刑事部隊)が派遣され、医師や歯科医師の協力を得て、遺体の検視、身元確認等を行った。

 
検視等の実施状況
検視等の実施状況
④ 交通対策

警察では、地震発生日の翌日には、人命救助や緊急物資輸送に必要な車両等の通行を確保するため、災害対策基本法に基づき、東北自動車道等の一部区間等を緊急交通路に指定した。その後、高速道路の補修状況等に応じて、交通規制の実施区間を順次縮小するなどし、平成23年3月24日には、主要高速道路の交通規制を全面解除した。緊急交通路の指定に伴い、警察では、通行に必要な緊急通行車両確認標章(注1)の適切な交付を図り、交通規制の全面解除までに、合計16万3,208枚の標章を交付した。

また、東京電力株式会社の管内において実施された計画停電による信号機の滅灯(注2)対策として、信号機の滅灯が約2万200か所に及んだ同年3月17日には、最大約3,100か所で約7,300人の警察官が交通整理に従事した。

注1:災害対策基本法施行令第33条第2項に規定する、車両が災害応急対策に使用されるものであることを都道府県知事又は都道府県公安委員会が確認したことを示す標章

注2:信号が表示されない状態

 
滅灯した信号機に係る交通対策
滅灯した信号機に係る交通対策
⑤ 被災地における安全・安心の確保

被災地における違法行為の発生を抑止するとともに、地域の安全・安心を確保するため、40都道府県警察では、「地域警察特別派遣部隊」を編成して、地域警察官とパトカー(1日当たり最大449人、210台)を岩手県、宮城県及び福島県に派遣し、警戒・警ら活動を推進した。また、犯罪発生時における初動捜査等を的確に行い、被災地における犯罪の取締機能を回復・維持するため、11都道府県警察では、「特別機動捜査派遣部隊」を編成して、警察官と捜査用車両(1日当たり最大92人、23台)を派遣した。

さらに、避難所での生活が長期間にわたることから生じる様々な問題を解消し、被災者の安全・安心を確保するため、警察官等が避難所や仮設住宅を訪問して、被災者からの相談に対応するなどの被災者支援活動を行った。こうした活動を実施するに当たり、皇宮警察及び44都道府県警察から警察官等(1日当たり最大115人)を岩手県、宮城県及び福島県に派遣した。

 
避難所で相談対応に当たる警察官
避難所で相談対応に当たる警察官


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