トピックス

トピックスIV いわゆる「あおり運転」(妨害運転)に対する警察の取組

(1)悪質・危険な運転行為の現状

平成29年(2017年)6月、神奈川県内の東名高速道路上に停止中の普通乗用自動車が大型貨物自動車に追突され、普通乗用自動車の運転者等6人が死傷する事故が発生し、その後の警察の捜査により、普通乗用自動車が停止する直前に、建設作業員の男(25)が普通乗用自動車の通行を妨害する目的で自車を運転していたことが明らかとなった。同年10月、神奈川県警察は、自動車を運転し、被害者が乗車する普通乗用自動車を追い越した後、進路を塞ぐように車線変更及び減速を繰り返すなどして本線車道上に停止させ、大型貨物自動車を追突させたとして、過失運転致死傷罪等で同男を逮捕した(同月、より罰則の重い危険運転致死傷罪等で起訴)。この事故の発生以降も、同様の悪質・危険な運転行為の発生が相次いで報告されており、いわゆる「あおり運転」として重大な社会問題となっている。

 
「あおり運転」の事例
「あおり運転」の事例

CASE

警備員の男(40)は、平成30年7月、自らが運転する普通乗用自動車の前方に進入した大型自動二輪車に対し、同車を執ように追跡した上、同車に著しく接近して自車を追突させ、同車を運転していた被害者を死亡させた。同月、同男を殺人罪等で逮捕した(大阪)。

CASE

会社役員の男(43)は、令和元年(2019年)8月、常磐自動車道上で、幅寄せや割込み等を繰り返して被害者が運転する普通乗用自動車の進路を妨害した上、同車の前方に自車を停止させて同普通乗用自動車を同自動車道上で停止させた。同年9月、同男を強要罪で逮捕した(茨城)。

(2)警察の取組

① 厳正な取締り等の推進

「あおり運転」は、意図的に危険を生じさせる極めて悪質な行為である。

警察庁では、平成30年1月、その抑止を図るため、都道府県警察に対して通達を発出し、あらゆる刑罰法令を適用した厳正な捜査の徹底、迅速かつ積極的な行政処分の実施等の諸対策を推進するよう指示した。

こうした取組の結果、平成30年以降は、平成29年に比べて車間距離不保持の取締り件数や危険性帯有による行政処分(注)件数が大幅に増加している。

注:「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあると認められる」者に対して行う運転免許の停止処分

 
図表IV-1 「いわゆる「あおり運転」等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処について」(通達)の概要
図表IV-1 「いわゆる「あおり運転」等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処について」(通達)の概要
 
図表IV-2 車間距離不保持の取締り件数等の推移(平成29~令和元年)
図表IV-2 車間距離不保持の取締り件数等の推移(平成29~令和元年)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表IV-3 「あおり運転」への刑法等適用件数の推移(平成29~令和元年)
図表IV-3 「あおり運転」への刑法等適用件数の推移(平成29~令和元年)
Excel形式のファイルはこちら
② 道路交通法の改正

警察では、「あおり運転」に対して、あらゆる刑罰法令を適用するなどして厳正に対処してきたが、「あおり運転」は後を絶たず、依然として重大な社会問題となっていた。また、これまでの道路交通法には、「あおり運転」そのものを取り締まるための規定がなく、法定刑や行政処分が十分なものにはなっていないのではないかとの指摘もみられた。

このような状況を踏まえ、警察庁において、「あおり運転」を効果的に抑止するための規定の在り方について検討を進めた結果、令和2年6月、第201回国会において、妨害運転(「あおり運転」)に対する罰則の創設等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が成立し、同月30日から施行された。また、本改正と併せて、道路交通法施行令の一部が改正され、妨害運転に関する基礎点数等が整備された。

これらの改正により、他の車両等の通行を妨害する目的で、急ブレーキ禁止違反や車間距離不保持等の一定の違反をした者について、最大で5年の懲役に処するとともに、運転免許の取消処分を課し、悪質・危険な運転者をより効果的に道路交通の場から排除することが可能となった。警察では、新設された罰則等も活用しながら、引き続き、妨害運転に対する厳正な取締りを推進することとしている。また、妨害運転の抑止を図るため、改正規定の内容や「思いやり・譲り合い」の気持ちを持った運転の必要性、ドライブレコーダーの有用性等について、運転免許の取得・更新時の教習・講習や、ウェブサイト、SNS、リーフレット等を活用しながら、教育や広報啓発に努めていくこととしている。

 
図表IV-4 妨害運転に対する罰則等の概要
図表IV-4 妨害運転に対する罰則等の概要


前の項目に戻る     次の項目に進む