トピックス

トピックスII 科学捜査を支える取組
~科学警察研究所における取組

(1)科学警察研究所における取組

科学警察研究所では、警察活動を最新の科学技術に基づいて支えるため、科学技術を犯罪捜査や犯罪予防に役立てるための研究、その研究成果を活用した鑑定・検査及び都道府県警察の鑑定技術職員に対する技術指導を行うための研修等を行っている。

① 犯罪捜査のための最新の研究等
ア mRNA(注)を指標とした体液の識別検査

犯罪現場には、その事案に応じて、様々な種類の体液資料が遺留され、その種類の識別は、犯人性や犯罪事実を立証する上で重要である。そこで、各種体液に特徴的に発現するmRNAに着目し、それらを指標としたより精緻な識別検査法の開発・検証を行っている。

注:messenger ribonucleic acidの略。体内の臓器や組織を構成するタンパク質の合成に必要な遺伝情報をDNAから写し取って合成される分子

 
mRNAの検出に利用するリアルタイムPCR装置
mRNAの検出に利用するリアルタイムPCR装置(注)

注:PCR(Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応(遺伝子の特定の配列を増幅する技術))の略)による遺伝子の増幅をリアルタイムでモニターし、解析・定量する装置

イ 散布ガソリンに対して有効な燃焼抑制剤の開発に関する研究

ガソリンは、引火性や燃焼性に加え、揮発性が非常に高く、散布されたガソリン液面からは、大量の可燃性ガソリン蒸気が発生することから、着火時に爆発的な火災を引き起こすリスクが極めて高い。ガソリンを使用した事件等の発生時における安全確保のため、従来の泡消火剤にガソリン蒸気の吸収能力を付加した新規の燃焼抑制剤の研究開発に取り組んでいる。

 
図表II-1 散布ガソリンの燃焼抑制実験
図表II-1 散布ガソリンの燃焼抑制実験
ウ 化学兵器用剤の分析

化学物質を使用したテロに対処するため、各種現場検知資機材の新規開発や性能評価のほか、化学兵器用剤が使用されたことを証明するための分析を行っている。最近では、尿に排泄されるサリン等の神経剤の加水分解物について、最新の分析技術を用いた高感度分析法を開発した。これらの分析技能により、令和元年(2019年)、化学兵器禁止機関(OPCW)(注)が実施した技能試験において最高位の評価を得た。

注:Organization for the Prohibition of Chemical Weaponsの略

 
尿中の神経剤分解物の分析に用いる装置(液体クロマトグラフ-質量分析計)
尿中の神経剤分解物の分析に用いる装置(液体クロマトグラフ-質量分析計)
エ ポリグラフ検査に関わる心理学的メカニズムの解明

ポリグラフ検査では、被検査者に対し、犯行手段・方法等の事件に関する特定の質問を行い、そのときに生じる生理反応に着目することで、事件に関する事実についての被検査者の認識の有無を調べることができる。これまでは、主に個々の質問ごとに生じる生理反応に着目してきたが、ポリグラフ検査の更なる信頼性の向上を図るため、複数の質問にわたる、より長い間隔の生理反応にも注目し、新たなデータ解析法の開発や、ポリグラフ検査に関わる心理学的メカニズムの解明に向けた研究開発に取り組んでいる。

オ 被害児童の特性に配意した聴取技法に関する研究

犯罪等により被害を受けた児童に対する聴取では、児童の特性に配意しつつ、事件等に関する正確な記憶をより多く引き出すことが求められる。幼稚園の年長相当及び小学2年生の児童を対象とした調査では、面接の初めに児童の自発的な語りを求める質問(誘いかけ質問)を行うことにより、当該面接において児童から得られる正確な情報量が増大することが明らかになった。

また、初対面で緊張しやすいといった児童の特性と児童の誘導されやすさ(被誘導性)との関係を検討し、児童の特性に応じた聴取の在り方についても研究を行っている。

 
児童に対する調査状況
児童に対する調査状況
カ EDR(注1)等の記録情報を活用した鑑定

EDRの記録情報を活用した交通事故鑑定を行っている。例えば、車両が60キロメートル毎時で走行し、EDRが0.5秒ごとのデータを記録するものであれば、記録間隔に約8.3メートル移動することとなるが、旋回性能等の自動車工学に基づく研究の知見を用いて補完しつつ、走行軌跡等の鑑定を行っている。また、ペダルの踏み間違いもEDRの記録から鑑定している。

そのほか、車載式故障診断装置(注2)を用いて、事故と車両故障との因果関係の検証も行っている。

注1:Event Data Recorderの略。エアバッグの作動等の特別な出来事(イベント)が発生した際に、車速、ペダル操作、衝撃の大きさ等に関するデータを記録する装置。メーカー、車種等により記録情報が異なり、交通事故鑑定における活用方法も多岐にわたる。

注2:エンジン等の内部に搭載された故障診断機能

 
旋回からスリップする状況を再現する実験
旋回からスリップする状況を再現する実験
② 法科学研修所における研修

科学警察研究所に置かれている法科学研修所では、主に都道府県警察の科学捜査研究所及び鑑識部門で勤務する職員を対象として、鑑定・検査及び鑑識活動に必要となる専門的な知識・技能等に関する研修を行っている。また、国内外の大学、研究機関等に研修生をおおむね3か月から6か月の期間にわたって派遣し、専門性を高めるための研究に従事させることによって、新たな鑑定手法の開発等に役立てている。



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