変わらない警察の使命
どれだけ社会が変化しようとも、国民の安全・安心を守るという警察の使命は変わらない。
最前線で警察活動に従事し、過去の警察白書においてその経験を語った4名の警察職員を再び紹介する。
「不正を許すな!」

「不正を許すな。」
これが今も昔も、私が刑事として事件捜査を進める上で、根底にある気持ちです。
私はこれまで、2度にわたり他の役所や民間団体への外部出向の機会をいただきました。そして、出向先では、それぞれの組織でプロとして全力で取り組む人たちとの出会いがありました。組織は違えど、彼らも国民が安心して暮らせる世の中を作るために日夜奮闘していました。そんな彼らと一緒に仕事をする中で私が改めて感じたことは、私たち警察官も治安のプロとして徹底的に不正を正していかなければならないという使命感でした。
近年の犯罪を見ると、一昔前には考えられなかったことも多いと思います。例えば詐欺事件においては、SNS、固定電話転送サービス、バーチャルオフィス、アプリ等が悪用されており、常に変化していく社会の仕組みに対応できなければ、時代にも犯人にも追いつけなくなってしまいます。私たちが犯人を捕まえなければ、被害者の方はもちろん、正しく生きようとする多くの人々が安心して暮らせる生活を実現できません。
私は不正を許さない。そのために、社会の変化を敏感に感じ取りながら、1人でも多くの犯人を検挙していくことこそが刑事の使命であるという気持ちを持って、これからも事件捜査に臨んでいきたいと考えています。

(平成21年当時 警視庁荏原警察署刑事組織犯罪対策課)
警察活動に対する真なる理解を目指して

現在、私は、訟務担当として、警察側の民事訴訟の指定代理人として裁判に出廷するなどの業務に従事しています。
緊張感の中、定刻を迎えると、法廷内正面扉が開き、黒い法服に包まれた裁判官がさっそうと現れ、開廷します。中でも、判決を言い渡す裁判官の言葉には、筆舌に尽くしがたいほどの重みを感じます。
前回寄稿した警察学校の教官当時は、将来を担う警察官の育成に向け従事していましたが、現在は、県民との訴訟対応を任されており、約10年を経て、担当業務は大きく変わりました。
しかしながら、教官と訟務担当とでは、一見、全く異なる業務のように見えますが、実は、この二つには深い共通点があります。それは、警察活動を知らない人に対して、その活動の必要性を真に理解してもらう業務であるという点です。
学生や原告等の相手方にとって警察活動は未知のものであり、先方からの理解を得ることは容易ではありませんが、治安を守り抜くという警察の使命を果たす上で、警察活動の真髄を如何に理解してもらうか、相手方の声に真摯に耳を傾けながら知恵を振り絞る毎日です。
日々高い壁に直面していますが、警察組織の本質となる軸はぶれてはならず、その壁を打開すべく、私は奔走し続けます。

(平成23年当時 島根県警察学校教官)
防犯か検挙か

現在、私は、サイバー犯罪対策課に所属し、部下2名と共に学校、企業、シニアカレッジ等へ赴き、年500回を超えるサイバー犯罪被害防止講演を行っています。これまで捜査担当が長かったため、配置当初は寂しさもありましたが、県警察として新規の任務でもあったので、「あいつなら何とかする」と期待されたと理解し、「期待以上のものを県民に届ける」意気込みで取り組んでいます。
私が行う講演は、サイバーセキュリティから命に関わる事案まで、インターネットに関わる幅広い問題を取り入れており、リアリティがあると好評を得ています。また、講演を通じて多くの県民と接する機会があるため、小学生から「私もインターネットで知り合った人に直接会おうって言われてる」と未然に相談してもらえたり、「お母さんが厳しく言うのは私を守るためとわかりました」、「警察を身近に感じた」、「絶対、本田さんみたいなおまわりさんになる!」などという嬉しい言葉をもらえたりもします。
職人気質のかつての上司からは、「事件では、結局、被害者を救えなかった。その活動がやっぱり大事や。どうか頑張ってくれ」と、期待の言葉をかけてもらいました。「防犯で救った数は、検挙で報いた数よりきっと多い」と信じ、これからも全力で活動を続けていきます。

(平成21年当時 兵庫県警察本部生活安全部生活経済課)
警察活動を支える警察情報通信

現在私は、宮城県情報通信部機動通信課で勤務しています。10年前は青森県情報通信部の係長として第一線の警察活動を支える無線通信施設の維持・管理に従事していたほか、事案が発生した際、現場に出動して通信手段を確保する機動警察通信隊員としても活動していました。それから月日を経て、現在は宮城県情報通信部の課長補佐として業務に従事しています。
今までの業務の中には貴重で忘れられない経験がいくつかありますが、特別なものとしては東日本大震災の対応があります。当時、私は宮城県にある東北管区警察局情報通信部で勤務しており、被災県での災害警備活動に必要な通信手段を確保する業務に当たりました。過去にも災害対応に従事した経験はありましたが、被災現場の光景を目の当たりにして使命感が込み上げてくるこの時の感覚は、今も忘れることができません。
また、その後に異動した警察大学校附属機関での教養業務でも、時代の変化に応じた知識・技術を研究し教えるという特殊性から、責務を強く感じました。人材育成は組織を支える重要な業務の一つであり、どのようにすれば、自分の経験が後進の育成に役立つか、教養を通じて組織に還元できるかを日々考えて業務に当たる必要があります。こうした教養業務では、自分の思いが相手に伝わった時の反応がとても励みになり、やりがいを感じました。
これまで、災害対応や異動等を経て心境の変化もありましたが、どの時代においても強い「使命感」は変わりません。今後も現場で活動する警察官を支える立場として更に力を尽くしたいと思います。

(平成20年当時 東北管区警察局青森県情報通信部機動通信課)