トピックス

トピックスVI 平成の回顧と展望

約30年に及ぶ平成の時代が幕を閉じ、新時代「令和」が始まった機を捉え、平成の約30年をおおむね10年ごとに分け、それぞれの期間に警察が直面した主な事象や法改正等の契機となった情勢等を選定の上、それらが発生した時期に沿って整理し、振り返ることとした。さらに、それらを踏まえ、新しい時代を見据えた展望についても記載することとする。

(1)前期:平成元年(1989年)~10年(1998年)

① 大喪の礼・即位の礼・大嘗祭警備

昭和天皇の崩御に伴い、平成元年2月には大喪の礼が執り行われ、平成2年には約1年間にわたり即位の礼・大嘗祭に伴う諸儀式が挙行された。これに対し、極左暴力集団は多数の「テロ、ゲリラ」事件を敢行したほか、右翼についても、左翼諸勢力による天皇批判活動をめぐって暴力事件等を引き起こすなど、左翼・右翼諸勢力はそれぞれの立場から活動を行った。

こうした情勢を受け、警察では、大喪の礼の当日においては当時過去最大規模となる約3万2,000人の警察官を、即位礼正殿の儀の当日においてはそれを上回る約3万7,000人の警察官をそれぞれ動員するなど、総力を挙げて警備を実施した。

 
即位の礼に伴う警備状況
即位の礼に伴う警備状況
② 暴力団情勢

平成初期の暴力団情勢は、山口組、稲川会及び住吉会の3団体による寡占化及び広域化が進んでおり、3団体の勢力範囲が全国の多くの都道府県において複雑に入り組んでいた。特に、北海道及び東北において3団体の進出が顕著であり、その結果、地元暴力団との摩擦や3団体相互の主導権争いが激化していた。また、暴力団は、海外進出等の国際的な活動を活発化させており、海外から入手した拳銃等による武装化の傾向を強めるなど、その活動の国際化も問題となっていた。さらに、その資金獲得活動も多様化しており、覚醒剤の密売、賭博、みかじめ料の徴収等の伝統的な資金獲得活動を行う一方で、民事介入暴力(注1)、企業対象暴力等の新しい形態の資金獲得活動を行うほか、合法的事業分野へ進出するなどの変化がみられており、従来のような伝統的資金獲得活動に対する取締りのみでは暴力団の資金源を遮断することが困難となっていた。

このように、民事介入暴力をはじめとする暴力団の不当な資金獲得活動、対立抗争事件等への効果的な対策が強く求められた社会情勢を背景に、暴力団対策法(注2)が制定された。これにより、従来の刑罰法令による暴力団等の取締りのほかに、対立抗争時の事務所使用制限命令や、暴力的要求行為(注3)に対する中止命令等の行政的措置を行うことが可能となった。

注1:暴力団又はその周辺にある者が、企業の倒産整理、交通事故の示談、債権取立て、地上げ等の民事取引を仮装しつつ、一般市民の日常生活や経済取引に介入し、暴力団の威力を利用して不当な利益を得るもの

注2:暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

注3:指定暴力団の暴力団員が指定暴力団の威力を示して行う不当な金品等の要求行為

MEMO その後の暴力団対策法の改正について

暴力団対策法は、暴力団情勢の変化等を踏まえて、これまでに、平成5年、9年、16年、20年及び24年の5回にわたって改正された。中でも、平成20年改正、平成24年改正等で行われた暴力的要求行為として規制する行為の追加は、暴力団の威力を示した資金獲得活動の防止に一定の効果を上げ、また、平成16年改正及び平成20年改正において整備された指定暴力団の代表者等の損害賠償責任に関する規定は、指定暴力団の組長等に対する損害賠償責任の追及を容易にした。さらに、平成24年改正で導入された特定抗争指定暴力団等の指定及び特定危険指定暴力団等の指定の制度は、対立抗争事件及び事業者襲撃等事件(注)の抑止に寄与した。

注:161頁参照

 
暴力団事務所に対して使用制限命令を発する状況
暴力団事務所に対して使用制限命令を発する状況
③ 第二次交通戦争

平成4年の交通事故による死者数(注1)は、戦後2度目のピークとなる1万1,452人を記録し、こうした情勢の悪化は「第二次交通戦争」と称された(注2)

このような状況が生じた背景としては、自動車保有台数及び運転免許保有者数が年々着実に増加を続ける一方で、交通事故を抑止するために必要な交通違反取締りを行う交通警察官の増員や、交通安全施設等の整備を推進するための十分な予算措置を行うことができなくなったこと、また、第二次ベビーブーム世代の者が運転免許取得年齢に達し、運転技能が十分ではない若者(注3)の運転免許保有者数が増加したことが挙げられる。

こうした情勢の悪化に対し、警察においては各種講習の内容の見直し等の運転者教育の充実、飲酒運転の罰則引上げを含む悪質・危険運転者対策の強化等の各種対策を実施し、その結果、平成5年以降交通事故による死者数は減少傾向に転じ、平成8年には、昭和62年以来再び1万人を下回った。

注1:交通事故発生から24時間以内の死者数。以下同じ。

注2:昭和45年(1970年)、交通事故による死者数が過去最高の1万6,765人を記録するなど、交通事故をめぐる情勢の悪化は「交通戦争」と称された。その後、交通安全施設等の整備をはじめとする交通安全対策の充実が図られたことにより、交通事故による死者数は一度減少に転じたものの、昭和50年代後半から再び増加傾向となった。

注3:16歳以上24歳以下の者

 
図表VI-1 死者数の推移(昭和23年~平成30年)
図表VI-1 死者数の推移(昭和23年~平成30年)
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④ オウム真理教によるテロ事件(注)

平成初期に新しい宗教団体として拡大を続けていたオウム真理教は、平成6年6月27日、長野県松本市の住宅街において化学兵器に用いられる毒ガス・サリンを噴霧し、その結果、付近住民8人が死亡し、143人が負傷する事件(松本サリン事件)を引き起こした。また、平成7年3月20日午前8時頃、帝都高速度交通営団(当時)丸ノ内線、日比谷線及び千代田線の車内においてサリン入りのナイロン袋を置き去り、複数の車両及び駅の構内にサリンを発散させ、乗客、駅職員等13人が死亡し、5,800人以上が負傷する事件(地下鉄サリン事件)を引き起こした。

オウム真理教は、これらのほかにも弁護士一家殺害事件、公証役場事務長逮捕監禁致死事件等の数々の事件を敢行しており、こうした一連の凶悪事件に対し、警察としては、関係施設の一斉捜索を実施するとともに、教団代表を含む多数の信者を検挙した。また、法制上の措置として、サリン等による人身被害の防止に関する法律の制定(平成7年)、広域組織犯罪等に対処するための警察法改正(平成8年)、無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律の制定(平成11年)が行われた。

注:27、28頁参照

 
オウム真理教施設の家宅捜索に向かう捜査員(時事)
オウム真理教施設の家宅捜索に向かう捜査員(時事)
⑤ 阪神・淡路大震災(注)

平成7年1月17日午前5時46分、淡路島を震源とする阪神・淡路大震災が発生し、死者6,434人等の大きな被害をもたらした。

警察では、全国警察から機動隊等の応援を得て、被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索、緊急交通路・復旧物資輸送路の確保、パトロール等の被災地における犯罪防止対策等の災害警備活動を実施した。

なお、阪神・淡路大震災における諸活動を通じて得た教訓をいかし、災害時の被害情報の収集・伝達体制の整備、広域的な即応能力や高度の救出救助能力等を有する広域緊急援助隊の設置等を行った。

注:12頁参照

 
過酷な環境下での捜索活動
過酷な環境下での捜索活動
⑥ 在ペルー日本国大使公邸占拠事件(注)

平成8年(1996年)12月17日午後8時30分頃(日本時間同月18日午前10時30分頃)、在ペルー日本国大使公邸において、ペルー政府関係者、各国の大使その他の外交官、ペルー在住の邦人等多数を招待して開催された天皇誕生日祝賀レセプションに「トゥパク・アマル革命運動(MRTA)」を名のる左翼テロ組織が爆発物等を使用して侵入し、大使公邸を占拠する事件が発生した。犯人グループはその後4か月余りにわたって立てこもったが、平成9年(1997年)4月22日、ペルー政府は軍の特殊部隊約140人を大使公邸に突入させた。その結果、人質72人のうち、ペルー最高裁判事1人が死亡したが、邦人24人を含む残りの71人は救出された。一方、銃撃戦の末、ペルー軍の特殊部隊の隊員2人が死亡したほか、犯人グループ14人は全員死亡した。

当該事件は、海外において邦人が被害に遭った初めての大規模なテロ事件であり、国際社会における我が国のプレゼンスが顕著になるのに伴い、我が国の関連施設等の権益や在外邦人に対するテロの脅威が高まっていることを象徴するものでもあった。

注:29頁参照

 
人質解放を求めて在ペルー日本国大使公邸付近をデモ行進する2万人の市民(時事)
人質解放を求めて在ペルー日本国大使公邸付近をデモ行進する2万人の市民(時事)

(2)中期:平成11年(1999年)~20年(2008年)

① 警察改革

平成11年9月以降の警察の一連の不祥事案を受け、平成12年3月、一日も早い信頼回復に向けて、各界の有識者から成る「警察刷新会議」が発足した。同会議は同年7月に「警察刷新に関する緊急提言」を取りまとめ、同年8月には「警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化」、「「国民のための警察」の確立」、「新たな時代の要請にこたえる警察の構築」及び「警察活動を支える人的基盤の強化」を主な内容とする「警察改革要綱」が制定された。さらに、同年11月には国家公安委員会及び都道府県公安委員会の管理機能に関する規定や、警察署協議会の制度に関する規定の整備等を内容とする警察法の一部を改正する法律が成立した。

また、平成11年10月に発生した埼玉県桶川市における殺人事件を踏まえて、告訴・告発への対応の適正化と迅速的確な捜査の推進を図ることとしたほか、平成12年5月、ストーカー規制法(注)が制定された。

注:ストーカー行為等の規制等に関する法律

② 悪質・危険な運転者対策

警察では、飲酒運転等、死亡事故につながりやすい悪質・危険な運転行為に対して、取締りを強化するとともに、罰則の引上げ、行政処分の強化等の対策を講じてきた。しかしながら、平成11年11月には、東名高速道路で飲酒運転のトラックに追突された乗用車が炎上して幼児2人が死亡する交通事故が発生するなど、悪質・危険な運転行為による交通事故は後を絶たず、厳罰化を求める声が高まっていた。そうした情勢を受け、平成14年には道路交通法等の一部改正が行われ、飲酒運転、過労運転、無免許運転等に対する罰則や違反行為に付する行政処分点数の引上げ等が行われた。また、平成13年の刑法の一部改正では、危険運転致死傷罪が新設され、飲酒の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を運転し、人を死傷させた者等に対して、より厳しい罰則が適用されることとなった。

その後、平成18年8月には、福岡県で飲酒運転の乗用車に追突された乗用車が橋の下の海中に転落して幼児3人が死亡する交通事故が発生したことなどを契機として、国民の飲酒運転の根絶に向けた機運が一層高まったことから、平成19年には道路交通法の一部改正が行われ、飲酒運転を助長する行為(注)を直罰化するとともに、飲酒運転に対する罰則の更なる引上げ等が行われた。また、同年の刑法の一部改正では、それまで業務上過失致死傷罪等が適用されていた自動車運転による死傷事故について、交通事故事件の実態に即した適正な科刑を実現するため、自動車運転過失致死傷罪が新設された。

注:車両等提供、酒類提供及び要求・依頼しての同乗

 
飲酒検問の状況
飲酒検問の状況
③ 明石市で発生した雑踏事故

平成13年7月、兵庫県明石市において明石市民夏まつり花火大会が開催された際、最寄りの駅から会場への通路となった歩道橋南端付近において、会場に向かう観衆と帰宅しようとする観衆が極度に集中したことで、多数の人が折り重なって転倒する雑踏事故が発生し、死者11人、負傷者229人の被害が発生した。

当該事故を受け、警察では、雑踏事故対策に当たり遵守すべき基本的な事項の徹底を図るとともに、警察本部に雑踏警備実施指導官、警察署に雑踏警備実施主任者を置くなど、雑踏事故防止のための体制の確立に努めている。

④ 米国における同時多発テロ事件(注)

平成13年(2001年)に発生した米国における同時多発テロ事件(以下「同時多発テロ事件」という。)は、旅客機4機を同時にハイジャックし、乗客・乗員と共に標的に突入させるという前例のない手口により、テロ事件としては過去最悪の3,000人を超える犠牲者(行方不明者を含む。)を出し、世界に衝撃を与えた。冷戦終結後、宗教思想に基づく対立や民族独立運動を背景とした対立が表面化しており、同時多発テロ事件はそうした対立を象徴付けるものとなった。

同時多発テロ事件を契機として、イスラム諸国を含む多くの国がAQをはじめとするイスラム過激派によるテロへの対策の必要性を改めて認識し、このようなテロを二度と起こさせないため、テロの根絶に向けた対策が世界的規模で進められることとなった。我が国の警察においても、テロの脅威に係る情報収集・分析等の強化、重要施設等の警戒警備の徹底、官民一体となったテロ対策の推進等の様々な取組を実施してきた。また、平成16年には警察庁警備局に外事情報部を設置するとともに、同部に国際テロリズム対策課を設置するなど体制を強化し、従前の取組の更なる強化を図った。

注:30頁参照

 
米国における同時多発テロ事件(AFP=時事)
米国における同時多発テロ事件(AFP=時事)
⑤ 犯罪情勢の悪化

刑法犯認知件数は、平成8年から14年にかけて7年連続で増加し、平成14年には戦後最多の285万3,739件を記録した。特に、この間、街頭犯罪及び侵入犯罪は大きく増加しており、治安の悪化に対する国民の不安感の増大は著しく、治安対策はいわば国民的な課題となった。

平成14年11月、警察庁では、国民が身近に不安を感じる街頭犯罪及び侵入犯罪の増加に歯止めを掛け、その発生を抑止することを目的とした街頭犯罪・侵入犯罪抑止総合対策の推進を図ることとし、各都道府県警察において、それぞれの地域の犯罪実態に応じ、街頭活動の強化や非行集団に対する取締りの強化等を進めるとともに、関係省庁、地方公共団体、企業、地域住民等との連携を強化して、犯罪類型に応じた防犯対策等を強力に推進した。さらに、警察庁では、平成15年8月、街頭犯罪及び侵入犯罪対策の推進等を内容とする「緊急治安対策プログラム」を策定した。

また、政府としても、平成15年9月、首相を長とし、全閣僚を構成員とする犯罪対策閣僚会議を設置し、同年12月には「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」、「犯罪の生じにくい社会環境の整備」等を基本的な視点として、「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」、「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」、「治安回復のための基盤整備」等を重点課題とした「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定した。

その後、街頭犯罪及び侵入犯罪は大幅に減少し、平成15年以降現在に至るまで、刑法犯認知件数は一貫して減少傾向にあるなど、犯罪情勢に一定の改善がみられた。

 
第2回犯罪対策閣僚会議(提供:内閣広報室)
第2回犯罪対策閣僚会議(提供:内閣広報室)
⑥ 銃器を使用した凶悪事件・街頭における無差別殺傷事件

平成19年12月、長崎県佐世保市のスポーツクラブにおいて男が散弾銃を乱射する事件が発生し、2人が死亡、6人が負傷した。警察では当該事件を受けて、各都道府県警察において、許可を受けた猟銃等及びその所持者の全てを対象とした「17万人/30万丁・総点検」を実施するとともに、警察庁において、銃砲行政全般の見直しを行う「銃砲行政の総点検」を実施した。

また、平成20年6月、東京都千代田区においてダガーナイフ使用による無差別殺傷事件が発生したことを受け、銃砲規制に加えて、刃物規制の在り方も問題となり、同年12月、銃砲規制の厳格化と刃物規制の強化を内容とする銃刀法の一部を改正する法律が可決・成立し、平成21年1月に刃渡り5.5センチメートル以上の剣の所持禁止に係る規定が、同年6月に銃砲規制の厳格化に関する規定の一部が、同年12月に銃砲刀剣類の所持許可の要件の厳格化に関する規定等が、それぞれ施行された。

 
図表VI-2 銃刀法の一部を改正する法律の概要
図表VI-2 銃刀法の一部を改正する法律の概要

(3)後期:平成21年(2009年)~31年(2019年)

① 東日本大震災(注1)

平成23年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とする国内観測史上最大規模の地震となる東日本大震災が発生し、最大で震度7を観測するなど、各地を激しい揺れが襲った。また、この地震により生じた高い津波が東北地方の太平洋沿岸をはじめとする広い地域に押し寄せ、大きな被害をもたらした。

東日本大震災における全国の死者は1万5,897人、行方不明者は2,532(注2)人に上っており、特に被害の大きかった岩手県、宮城県及び福島県の東北3県では、電気、ガス、水道等の生活インフラが大きな打撃を受けたほか、福島県では原子力発電所における事故の影響を受けて、多くの被災者が避難生活を強いられることとなった。

警察では、岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察に対し、それぞれの県公安委員会からの援助の要求により、全国から広域緊急援助隊員等延べ約142万人、一日当たり最大約4,800人を派遣し、自衛隊、地方自治体、消防等と連携を図りながら、被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索、緊急交通路の確保、被災地における犯罪の発生を抑止するための諸活動等の災害警備活動に当たった。

注1:14、15頁参照

注2:死者及び行方不明者数は、令和元年(2019年)6月10日現在のもの

 
岩手県沿岸部の集落を襲う津波
岩手県沿岸部の集落を襲う津波
② ストーカー対策

平成23年10月より、千葉県警察、長崎県警察及び三重県警察において、男女間における暴力を伴うトラブルに関して被害女性の父親等から相談を受けていたところ、同年12月、当該トラブルの相手方の男が長崎県西海市に所在する女性の実家に押し掛け、その家族を殺害するという事件が発生した。

同事件を踏まえ、警察庁では、都道府県警察に対し、重大事件への発展の予防のための積極的な事件化等の対応の徹底、警察署長による積極的な指揮等の組織による的確な対応の徹底、関係都道府県警察の連携・情報共有の体制の強化等を指示し、都道府県警察における同種事案に対する迅速・的確かつ組織的な対応を推進することとした。また、本件等を踏まえてストーカー行為等の規制に関する制度自体が見直され、平成25年6月、電子メールの連続送信行為等を規制の対象へ追加することに加え、警告を行うことのできる都道府県警察本部長や禁止命令を行うことのできる都道府県公安委員会の範囲を拡大することなどを内容とするストーカー規制法の一部を改正する法律が成立した。

③ 暴力団対策

警察では、暴力団犯罪の取締り等を推進しており、暴力団構成員及び準構成員の人数は、平成17年以降14年連続で減少している。

一方で、一部の暴力団については、依然として凶暴性・悪質性が高く、特に福岡県北九州市に事務所を置く工藤會は、凶器等を用いた事業者襲撃等事件を多数敢行し、市民生活の大きな脅威となっていた。警察では、全国警察からの機動隊及び捜査員の派遣等による集中的な取締りの徹底及び警戒活動の強化を図るとともに、平成24年12月、福岡県及び山口県の各公安委員会が、工藤會を特定危険指定暴力団等に指定するなど、暴力団対策法の規定も効果的に活用しながら、工藤會対策を推進してきた。

その後、平成26年9月以降、工藤會総裁、同会長等の幹部を逮捕するなど、取締りの徹底、暴力団対策法の活用等を通じて工藤會の危険な活動の抑止を図った。

また、最大勢力の六代目山口組については、平成27年8月以降、直系組長が離脱して神戸山口組及び任侠山口組をそれぞれ結成し、六代目山口組と神戸山口組の対立抗争に起因するとみられる不法行為等が発生している。警察では、対立抗争事件の続発防止と各団体の弱体化を目的とした集中取締りを実施するとともに、市民生活の安全確保に向け、警戒活動の徹底を図っている。

 
工藤會事務所に対する捜索時の状況
工藤會事務所に対する捜索時の状況
④ 外国における各種国際テロ事件(注)

平成23年(2011年)5月、米国の作戦により、AQの結成者であるオサマ・ビンラディンは死亡したが、その後も、AQ及びその関連組織は、中東、アフリカ、南西アジア等において引き続き活動している。また、AQの関連組織であったISILは、平成26年(2014年)にAQ中枢と決別した後、同年6月にイラク北部の都市モスルを制圧するなど、次々とその支配地域を拡大した。特に近年は、平成27年(2015年)に130人が犠牲となったフランス・パリにおける同時多発テロ事件をはじめ、ISIL等による扇動等に影響を受けて過激化した者や外国人戦闘員によるテロが世界各地で発生しているなど、国際テロ情勢は依然として厳しい状況にある。また、邦人が海外においてテロの被害に遭う事件も発生しており、例えば、平成25年(2013年)1月に発生した在アルジェリア邦人に対するテロ事件では邦人10人を含む40人が死亡、平成27年(2015年)3月に発生したチュニジアにおけるテロ事件では邦人3人を含む22人が死亡、平成28年(2016年)7月に発生したバングラデシュ・ダッカにおける襲撃テロ事件では邦人7人を含む20人の人質が死亡、平成31年(2019年)4月に発生したスリランカにおける連続爆弾テロ事件では邦人1人を含む258人が死亡した。

注:30、31、32、33頁参照

 
フランス・パリにおける同時多発テロ事件(EPA=時事)
フランス・パリにおける同時多発テロ事件(EPA=時事)
⑤ サイバー空間の脅威

スマートフォン等の普及やインターネットを利用したサービスの拡大等に象徴されるように、平成後期においてサイバー空間の利用が拡大し、今やSNS等の個人が使用するサービスから、金融や公共輸送等をはじめとする重要インフラや政府機関等を支える重要なシステムに至るまで、サイバー空間は国民の日常生活の一部として定着するようになった。こうした中、不正アクセス禁止法(注)違反をはじめとするサイバー犯罪が多発しているほか、サイバーテロ、サイバーインテリジェンス等のサイバー攻撃が世界的規模で発生するなど、サイバー空間における脅威は深刻化している。警察では、こうした脅威に対処するため、人的基盤の強化、捜査及び情報技術解析のための資機材の整備、民間事業者等の知見の活用、外国捜査機関等との連携等の取組を推進してきた。

注:不正アクセス行為の禁止等に関する法律

⑥ 各種高齢者関連施策

平成30年10月1日現在、我が国の総人口は約1億2,644万人となっているが、そのうち65歳以上人口は約3,558万人であり、総人口に占める割合(高齢化率)は約28.1%となっている(注1)など、高齢化の進展は著しく、警察においても各部門において、こうした社会の現状に対応していくことが求められている。

例えば、近年認知件数が高水準で推移している特殊詐欺については、その被害者の大半が高齢者である(注2)ことから、警察としても、積極的な取締りを行うとともに、高齢者被害の防止に向けた効果的な広報啓発の方法を検討するなど、新たな取組を推進してきた(注3)

また、高齢者人口の増加等を背景として交通事故死者数の減少幅が縮小する傾向にあったことなどを踏まえ、平成21年には、運転免許証の更新期間が満了する日における年齢が75歳以上の者に対する認知機能検査が、平成22年には、高齢運転者等専用駐車区間制度がそれぞれ導入された。また、平成29年には、一定の違反行為をした75歳以上の運転者に対する臨時認知機能検査と、その結果が直近の認知機能検査の結果と比較して悪化した者等に対する臨時高齢者講習が導入された。そのほか、警察においては、申請による運転免許の取消し及び運転経歴証明書制度の周知を図るなどの取組を推進している。

注1:人口は、総務省統計資料「人口推計(平成30年10月1日現在人口(補間補正を行っていないもの))」による。

注2:平成30年の特殊詐欺の被害全体に占める65歳以上の高齢者の割合は、78.1%である。

注3:52頁(トピックスII 特殊詐欺の現状と高齢者被害防止のための新たな取組)参照

(4)今後の展望

最近の犯罪情勢は、刑法犯認知件数については平成14年をピークに減少を続けているものの、ストーカー・DV、児童虐待、サイバー犯罪等、刑法犯認知件数等のみでは測ることのできない新たな情勢が生じているほか、特殊詐欺の認知件数は高水準で推移しているなど、依然として予断を許さない状況にある。

特殊詐欺やサイバー犯罪のように、加害者が被害者と対面することなく敢行される非対面型犯罪には、対策に応じて絶えず犯行手口が変化するものも多く、科学技術の発達により大量反復的な犯行が可能となり、被害が拡大する危険性も高くなっている。また、人身安全関連事案(注)のように主として個人の私的な関係性や私的領域の中で生じる事案に対しては、その性質上犯行が潜在化しやすい傾向にあることを踏まえて対策に当たる必要がある。

警察は、このような新たな犯罪傾向や社会情勢も踏まえ、高度な技術を使用した犯罪への対処能力の向上を図るなどして、発生した事案に対して的確な捜査を推進することはもとより、犯行手口や被害実態に関する情報を関係機関、事業者等と共有し、緊密な連携を図ることにより、犯罪ツール対策等に取り組んでいく必要があるほか、国民に対する迅速な注意喚起、早期の相談対応等によって、犯罪に至る前段階での被害の防止を図るなど、きめ細やかな対策を進めていく必要がある。

暴力団対策については、暴力団構成員等の総数は減少しつつあるものの、山口組の分裂等、依然としてその動向を警戒すべき状況が続いているほか、近年では、準暴力団と共謀して特殊詐欺事案等を敢行して資金獲得を行うなど、暴力団の組織や活動に変化がみられている。今後も、こうした変化を含めた暴力団の実態を的確に把握し、効果的な対策を講じていくことが求められている。

交通事故による死者数については、平成4年をピークに減少傾向にあるが、一方で、高齢運転者による事故が相次ぐなど、社会の高齢化がもたらす道路交通への影響は大きいことがうかがえる。今後、更なる高齢化の進展に伴い、そうした社会情勢を見据えた対策を的確に行っていくことが必要となる。

加えて、自動運転の実用化に向けた動きも近年急速に進んでいるところであり、このような新たな技術に対応した法令等の整備についても、これからの課題である。

また、欧米諸国等で依然としてテロ事件が発生していることに加え、サイバー空間においては、世界的規模で政府機関や企業等を標的とするサイバー攻撃が発生するなど、我が国に対するテロ等の脅威が継続している中、今後、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等の大規模なイベントの開催も予定されている。今後も、各国の治安情報機関等との密接な連絡体制を構築するなど、テロ等違法行為の未然防止に向けた取組を推進していく必要がある。

平成は2度の大震災をはじめとする様々な災害に見舞われた時代でもあった。今後は、これら過去の災害の教訓を踏まえつつ、発生が懸念される南海トラフ地震及び首都直下地震を含む大規模災害に対して的確に対処できるよう、高度な装備資機材や先端技術の導入も進めながら、災害対処能力を一層向上させていくことが求められている。

近年、我が国の社会は、人口減少や急速な高齢化、国際化、サイバー空間の利用拡大、科学技術の発達等による大きな変化に直面している。警察は、このような社会の変化に適応し、新たに生じてくる、又は変容する治安上の課題に適切に対応するための警察運営の在り方を不断に追求していく必要がある。

注:88頁参照



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