トピックス

トピックスIII 国際犯罪組織による不正資金獲得及びマネー・ローンダリングの実態と警察の取組

(1)国際犯罪組織による不正資金獲得及びマネー・ローンダリングの動向

警察は、これまで、国際組織犯罪に的確に対応するため、国内外の関係機関と連携した水際対策や情報交換等を推進し、一定の成果を収めてきた。

他方、国際犯罪組織は、警察による取締りを逃れつつ、より巧妙かつ効率的に経済的利益を得るため、経済・金融のグローバル化の進展や情報通信技術の普及・進展等、社会経済情勢の変化に応じてその犯罪形態等を変容させ続けている。

我が国においても、だまし取った商品の受渡しに二次元コードで解錠できるコインロッカーを使用したり、無料公衆無線LANを介してインターネットに接続し、SNSを利用して国外から犯行の指示を受信したりする手口がみられるなど、国際犯罪組織が我が国の充実したサービスや利便性の高い情報通信技術等を悪用して、不正資金獲得及びマネー・ローンダリングの手口を多様化させている実態がうかがわれる。

(2)近年の国際犯罪組織による不正資金獲得及びマネー・ローンダリングの代表的な手口と警察の取組

警察では、我が国を取り巻く社会経済情勢の変化や国際犯罪組織による不正資金獲得等の手口の多様化を踏まえながら、外国捜査機関等との情報共有や国際捜査共助の枠組みの活用を進めるとともに、国内の関係機関とも密接に連携して国際犯罪組織の情報を収集・分析し、日々変容する国際犯罪組織の実態解明及び取締りを推進している。

近年の国際犯罪組織による不正資金獲得及びマネー・ローンダリングの代表的な手口と、それに対する警察の取組については、次のとおりである。

① 偽造クレジットカードを使用した詐欺

我が国では、偽造防止効果の高いICチップの付いたクレジットカードへの移行が完全には進んでいないほか、そうしたICカードに対応した端末の店舗への導入も進んでおらず、クレジットカードの磁気ストライプ部分に記録されている電磁的情報を読み取ることで取引を行う店舗がいまだに多い。そのため、短期滞在の在留資格により来日した外国人が、偽造クレジットカードを使用して高級ブランド品等を不正に購入し、犯行後は本国に逃げ帰る形態(ヒット・アンド・アウェイ型)の詐欺を敢行している例がみられる。

警察では、偽造クレジットカードを使用した犯罪に関する情報共有やクレジットカードの100%IC化を含むセキュリティ対策の推進に係る協力要請等を行い、関係団体との連携の強化を図っているほか、国内外の関係機関と連携して、偽造クレジットカードを使用した犯罪の取締りを推進するなど、偽造クレジットカードの供給網の壊滅を図っている。

CASE

平成30年(2018年)6月、偽造クレジットカードを密輸入しようとしたマレーシア人の男(21)を不正電磁的記録カード輸入罪等で検挙した。また、同年1月から同年10月にかけて、福岡市内の百貨店等において、偽造クレジットカードを使用してリュックサックを購入したマレーシア人の男(50)ら9人を不正作出支払用カード電磁的記録供用罪等で逮捕した(福岡)。

 
マレーシア人らによる偽造クレジットカード輸入・詐欺等事件
マレーシア人らによる偽造クレジットカード輸入・詐欺等事件
② 覚醒剤の密輸入

我が国では、覚醒剤事犯の検挙人員が依然として高い水準で推移しており、その検挙人員に占める再犯者の割合も他の薬物事犯と比べて高い。また、これまでの検挙事例からは、国内に流入した覚醒剤が、仕入価格の数倍の値段で末端乱用者に密売されている状況がうかがわれる。

こうした覚醒剤に対する根強い需要や利益率の高さを背景に、国内外の薬物犯罪組織による国際的なネットワークが構築されているものとみられ、来日外国人による覚醒剤の密輸入が依然として数多くみられる。

警察では、国内外の関係機関との連携を強化し、海外の薬物犯罪組織と暴力団等との結節点の解明を進めるとともに、水際対策と上位者への突き上げ捜査の徹底により、覚醒剤の供給網の壊滅を図っている。

CASE

日本人の男(73)らは、平成30年2月から同年5月にかけて、木製家具に覚醒剤を隠匿し、中国から海上コンテナで密輸入した。同年12月までに、日本人4人及び中国(香港等)人4人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入等)等で逮捕し、覚醒剤約100.5キログラムを押収した(福岡、警視庁、神奈川、大阪、岡山、佐賀、熊本、鹿児島)。

 
押収された覚醒剤
押収された覚醒剤
③ 外国における犯罪収益に係るマネー・ローンダリング

近年、国際犯罪組織が、他国で敢行した詐欺事件等による詐取金の入金先口座として日本国内の銀行口座を利用し、我が国にいる共犯者が正当な取引による送金であるかのように装って当該詐取金を引き出すなどの手口による国際的なマネー・ローンダリングが敢行されている。

警察では、疑わしい取引に関する情報の分析及び当該分析の結果を活用した取締りを推進しているほか、金融機関等を対象とした研修会において、疑わしい取引に関する情報が活用された事例を紹介することで理解と協力の促進を図ったりするなど、国内外の関係機関と連携した国際的なマネー・ローンダリング対策を推進している。

CASE

ナイジェリア人の男(45)らは、平成27年9月から同年10月にかけて、日本国内の金融機関に開設した日本人が管理する法人名義の口座に送金された、米国において敢行された詐欺事件における詐取金を、正当な取引による送金であるかのように装って引き出し、現金合計約3,700万円をだまし取った。平成30年10月までに同男及び日本人2人を組織的犯罪処罰法(注)違反(犯罪収益等隠匿)及び詐欺罪で逮捕した(鹿児島、沖縄)。

注:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

 
ナイジェリア人らによる国際的なマネー・ローンダリング事件
ナイジェリア人らによる国際的なマネー・ローンダリング事件


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