トピックス

トピックスIV 自動運転の実現に向けた警察の取組

(1)自動運転をめぐる最近の動向

近年、国内外の自動車メーカーやIT企業等によって、自動運転の実現に向けた技術開発が急速に進められている。我が国において、自動運転の実現は、成長戦略の一環と位置付けられ、その実現に向けた取組が進められており、平成30年(2018年)4月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議において「自動運転車の実現のための道路交通関連の法制度の見直しに関して、政府全体の方向性を取りまとめ、今後の見直しに向けた方向性を示す」ものとして「自動運転に係る制度整備大綱」がまとめられ、保安基準(注1)の策定等の車両側の安全性確保に関する検討の方向性のほか、交通ルールの在り方や交通事故発生時等の責任関係に関する検討の方向性が示された。また、同年6月に策定された「官民ITS構想・ロードマップ2018」では、令和2年(2020年)までに、高速道路での自動運転可能な自動車の市場化や、過疎地等(注2)での無人自動運転移動サービスの提供を実現することを目指すこととされた。政府は、「自動運転に係る制度整備大綱」に基づく制度整備を進めるなどして、自動運転の早期実現を目指している。

注1:道路運送車両の保安基準

注2:地方における移動手段の確保という政策的な観点からは、まずは過疎地における無人自動運転移動サービスの実現が求められるが、商業的な観点からは、都市部・都市郊外部における無人自動運転移動サービスの提供を行うことも想定される。

(2)自動運転の実現に向けた警察の取組

自動運転の技術は、我が国の交通事故の削減や渋滞の緩和等を図る上で不可欠なものになると考えられることから、警察としても、交通の安全を第一としつつその進展を支援すべく積極的に取組を進めている。

① 自動運転システムの実用化に向けた研究開発

平成30年から開始されたSIP(注1)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、自動運転システムの実用化に向け、令和元年後半から、ITS無線路側機(注2)による信号情報の提供や高速道路への合流支援等に必要な基盤技術について、東京臨海部の公道で国内外の自動車メーカー等による実証実験を実施することとされている。

警察庁においても、ITS無線路側機による信号情報の提供の高度化を目指し、自動車メーカー等と自動運転の実現に必要な信号情報の提供方法等について検討を行い、これら信号情報を提供できるITS無線路側機を東京臨海部に整備するなど、実証実験に向けた準備を進めている。今後、当該実証実験を通じて、信号情報の提供等に必要な基盤技術の検証がなされる見込みである。

また、警察庁では、民間事業者からの要望を踏まえ、ITS無線路側機からの直接の通信以外の手法による信号情報の提供に係る調査研究として、国内外における事例調査や各種課題についての技術的な検討を行っている。

注1:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program(戦略的イノベーション創造プログラム)の略

注2:信号制御機や車両感知器等と接続し、設置されている交差点における信号灯火、横断歩行者等の有無といった周辺の交通状況等を、700MHz帯の周波数を利用して広範囲に提供する路上設置型の無線通信装置

 
図表IV-1 ITS無線路側機による信号情報の提供
図表IV-1 ITS無線路側機による信号情報の提供
② 国際的な議論への参画

我が国が締約しているジュネーブ条約(注1)では、第8条第1項において「一単位として運行されている車両又は連結車両には、それぞれ運転者がいなければならない」と規定されている一方で、システムが完全に運転操作を実施する自動運転もあり得ることなどから、近年、自動運転と国際条約との関係の整理等に関し、国際連合経済社会理事会の下の欧州経済委員会内陸輸送委員会に置かれたWP.1(注2)において議論が行われている。

警察庁としても、これら議論に参画しており、平成30年(2018年)9月の第77回WP.1会合では、ジュネーブ条約及びウィーン条約(注3)の締約国に対し、「高度・完全自動運転車両は安全を優先し、交通ルールを守り、運行設計領域内でのみ作動するなどの条件を満たすべきである」旨等を勧告する非拘束決議が採択された。

注1:昭和24年(1949年)にスイス・ジュネーブにおいて作成された道路交通に関する条約の通称

注2:Global Forum for Road Traffic Safety(道路交通安全グローバルフォーラム)の通称

注3:昭和43年(1968年)にオーストリア・ウィーンにおいて作成された道路交通に関する条約の通称

③ 法制度面の検討

国内外の自動車メーカー等において、令和2年頃までにSAEレベル3(注1)の自動運転システムを備えた自動車を実用化する目標を掲げて技術開発が進められていることなどに鑑み、警察庁では、平成30年5月から「技術開発の方向性に即した自動運転の実現に向けた調査検討委員会」を開催し、自動運転の実用化を見据えた道路交通法の在り方についての検討を行い、同年12月、同委員会において、自動運転システムを使用する運転者の義務の在り方に関する検討結果等を内容とする報告書が取りまとめられた。これを踏まえ、令和元年5月、第198回国会において、自動運行装置(注2)を使用する運転者の義務や作動状態記録装置(注3)による記録等に関する規定の整備を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が成立した。

今回の改正の対象としているSAEレベル3の自動運転では、国土交通大臣が付する自動運行装置の使用条件を満たさなくなる場合等には、運転者が自動運行装置から運転操作を確実に引き継ぐことが求められる。運転者はこれに適切に対処することができる必要があり、警察では、関係機関・団体等と連携して、自動運行装置を使用した運転上の留意事項等について、啓発に努めていくこととしている。

今後、警察では、自動運転の実現に向け、政府全体のロードマップ、技術開発の動向、国際的議論の状況等を踏まえつつ、道路交通法に関連する課題の検討を更に進めるなど、交通の安全と円滑の確保の観点から必要な取組を引き続き推進することとしている。

注1:「自動運転に係る制度整備大綱」等で採用されている、SAE(Society of Automotive Engineers)InternationalのJ3016における運転自動化レベルのうち、システムが全ての動的運転タスク(操舵、加減速、運転環境の監視、反応の実行等、車両を操作する際にリアルタイムで行う必要がある機能)を、システムが機能するよう設計されている特有の条件内で実施するが、システムの作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に対して、運転者の適切な応答が期待されるもの

注2:プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件(使用条件)で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能(以下「代替機能」という。)を有するもの

注3:自動運行装置の代替機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置

 
図表IV-2 運転者の義務(自動運行装置を使用する場合と使用しない場合の比較)
図表IV-2 運転者の義務(自動運行装置を使用する場合と使用しない場合の比較)


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