特集 緊急事態への備えと対応

2 警察におけるテロ対策

テロはその発生を許せば多くの犠牲を生む。そのため、テロ対策の要諦(てい)はその未然防止にある。一方、万が一テロが発生した場合には、被害を最小限に食い止め、犯人を早期に制圧・検挙することが必要である。警察では、未然防止及び事態対処の両側面からテロ対策を推進している。

(1)警戒警備体制の強化

① 重要施設の警戒

首相官邸、原子力関連施設等の重要施設に対する不法事案の発生は、我が国の治安や国民生活に著しい影響を及ぼしかねないことから、警察では、重要施設に対するテロ等の発生を未然に防止するため、首相官邸等の政府関連施設、原子力関連施設、鉄道等の公共交通機関、米国関係施設、駐日外国公館等について、機動隊を配置するなど、警戒警備を強化している。

 
重要施設の警戒
重要施設の警戒
② 原子力関連施設におけるテロ対策
ア テロ関連情報の収集・分析等

警察では、原子力関連施設に対するテロを未然に防止するため、各国治安情報機関等との緊密な情報交換、関係省庁等との連携による水際対策、不審人物や組織に関する情報の収集・分析等を実施している。

イ 原子力関連施設における警戒警備

原子力関連施設に対する銃器を使用したテロ事案、爆発物使用事案、NBCテロ(注)事案等への対処を行うため、自動小銃、サブマシンガン、ライフル銃、耐爆・耐弾仕様の車両、爆発物処理用具、防護服等を装備した原発特別警備部隊が、24時間体制で原子力関連施設の警戒警備に当たっている。

注:N(Nuclear:核)B(Biological:生物)C(Chemical:化学)物質を使用したテロの総称

 
原子力関連施設の警戒
原子力関連施設の警戒
ウ 関係機関等との連携

平成23年、政府は、原子力発電所等に対するテロを現実の脅威として再認識し、その未然防止対策を強化することを決定しており、その中で、警察庁、海上保安庁、防衛省等の関係省庁による継続的な連携強化が示された。これを受けて関係都道府県警察では、海上保安庁との合同訓練を定期的に実施しているほか、一般の警察力だけでは対応することができないと認められる事案が発生した場合を想定し、平成24年以降、原子力発電所の敷地を利用した自衛隊との共同実動訓練を実施している。

エ 警察庁職員による立入検査

原子力事業者との間では、警察庁職員が事業所等に定期的に立入検査を行うとともに、治安当局の立場から自主警戒に関する指導を行うことなどにより、事業者による防護措置が実効あるものとなるよう努めている。

③ 機動隊の活動

都道府県警察には、集団警備力によって有事即応体制を保持する常設部隊として機動隊が設置されているほか、管区機動隊、第二機動隊等が設置されている。

また、各種警察事案に対応できるよう専門部隊が設置されており、その能力をいかし、テロ対処等に万全を期している。

 
図表特2-7 機動隊の概要
図表特2-7 機動隊の概要
④ テロ対処部隊
ア 特殊部隊(SAT(注)

特殊部隊(SAT)は、北海道、警視庁、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡及び沖縄の8都道府県警察に設置されている。全国で約300人の体制で、自動小銃、サブマシンガン、ライフル銃、特殊閃(せん)光弾、ヘリコプター等が配備されており、ハイジャック、重要施設占拠事案等の重大テロ事件、銃器等の武器を使用した事件等に出動し、被害者や関係者の安全を確保しつつ、被疑者を制圧・検挙することを任務としている。

注:Special Assault Teamの略

 
SATの訓練
SATの訓練
イ 銃器対策部隊

銃器対策部隊は、各都道府県警察の機動隊等に設置されている。全国で約2,100人の体制で、サブマシンガン、ライフル銃、防弾衣、防弾帽、防弾盾等が配備されており、銃器等を使用した事案への対処を主たる任務とし、重大事案が発生した場合に、SATが到着するまでの第一次的な対処に当たるとともに、SATの到着後は、その支援に当たることとなる。

 
銃器対策部隊の訓練
銃器対策部隊の訓練
ウ NBCテロ対応専門部隊等

NBCテロ対応専門部隊は、北海道、宮城、警視庁、千葉、神奈川、愛知、大阪、広島及び福岡の9都道府県警察の機動隊等に設置されており、全国で約200人の体制で、NBCテロ対策車、化学防護服、生物・化学剤検知器、放射線測定器等の高度な装備資機材が配備されている。また、その他の府県警察の機動隊等には、全国で約400人の体制で、NBCテロ対策部隊が設置されている。これらの部隊は、NBCテロが発生した場合に迅速に出動して、関係機関と連携を図りながら、原因物質の検知・除去、被害者の救出救助、避難誘導等に当たることを任務としている。

 
NBCテロ対策部隊の訓練
NBCテロ対策部隊の訓練
エ 爆発物対応専門部隊等

爆発物対応専門部隊又は爆発物対策部隊は、各都道府県警察の機動隊等に設置されている。全国で約1,000人の体制で、X線透視装置、爆発物収納筒、防護服、防爆盾、遠隔操作式爆発物処理用具等が配備されており、爆発物使用事案が発生した場合に、迅速かつ的確に爆発物の現場処理に当たり、爆発による被害の発生を防止するとともに、証拠を保全することを任務としている。

 
爆発物対応専門部隊の訓練
爆発物対応専門部隊の訓練
⑤ スカイ・マーシャルの運用

航空機のハイジャックを未然に防止し、またハイジャックが発生した際に航空機内での犯人の制圧・検挙を可能とするため、警察では、国土交通省や航空会社等と緊密に連携して、警察官が航空機に警乗するスカイ・マーシャルを運用している。

⑥ 職員の現地派遣

警察では、邦人や我が国の関連施設等の権益に関係する重大テロが国外で発生した場合には、情報収集や現地治安機関に対する捜査支援等のため、職員を現地に派遣することとしている。平成28年(2016年)7月のバングラデシュ・ダッカにおける襲撃テロ事件の発生に際しても、外事特殊事案対策官(注)等を現地に派遣し、関係国の治安情報機関との情報交換等を行った。

注:平成25年(2013年)1月に発生した在アルジェリア邦人に対するテロ事件を受け、国外における邦人や我が国の関連施設等の権益に関係するテロ事件等の重大突発事案に対処するために設置された。

⑦ 警衛・警護警備
ア 警衛警備

警察では、皇室と国民との親和に配意した警衛警備を実施し、御身辺の安全確保と歓送迎者の雑踏等による事故防止を図っている。

平成30年中の国内での主な行幸啓は図表特2-8、行啓は図表特2-9のとおりである。海外へは、同年9月に皇太子殿下(現天皇陛下)がフランスを御訪問になるなど、皇族方が合計13回御訪問になった。

 
第38回全国豊かな海づくり大会に伴う警衛警備(10月、高知)
第38回全国豊かな海づくり大会に伴う警衛警備(10月、高知)
 
図表特2-8 主な行幸啓(平成30年)
図表特2-8 主な行幸啓(平成30年)
 
図表特2-9 主な行啓(平成30年)
図表特2-9 主な行啓(平成30年)
イ 警護警備

警察では、テロ等違法事案の発生が懸念される厳しい警護情勢の下、的確な警護警備に向けた取組を推進し、要人の身辺の安全を確保している。

平成30年中の首相の海外訪問は図表特2-10、主な外国要人の来日は図表特2-11のとおりである。

 
クアン・ベトナム国家主席夫妻来日に伴う警護警備(5月、群馬)
クアン・ベトナム国家主席夫妻来日に伴う警護警備(5月、群馬)
 
図表特2-10 首相の主な海外訪問(平成30年)
図表特2-10 首相の主な海外訪問(平成30年)
 
図表特2-11 主な外国要人の来日(平成30年)
図表特2-11 主な外国要人の来日(平成30年)
⑧ 雑踏警備

祭礼等の行事に際して多数の人が集まることにより事故が発生するおそれがある場合には、雑踏事故の未然防止を図るため、警察ではあらかじめ行事の主催者や施設の管理者に対して必要な安全対策をとるよう要請しているほか、警察部隊の投入が必要と判断される場合には、所要の体制を確立し雑踏警備を行っている。

 
図表特2-12 雑踏警備の流れ
図表特2-12 雑踏警備の流れ
 
ハロウィーンに際し多数の人が集まった渋谷駅周辺における雑踏警備の状況(10月、東京)
ハロウィーンに際し多数の人が集まった渋谷駅周辺における雑踏警備の状況(10月、東京)
⑨ 各種イベント等における警戒警備

欧米諸国において、サッカースタジアム、劇場、地下鉄等の不特定多数の者が集まる施設等を標的としたテロが発生しており、こうしたテロに対する警戒の重要性が改めて明らかとなっている。警察では、不特定多数の者が集まる各種イベントや施設等において、制服を着用した警察官による巡回の実施やパトカーの活用等による「見せる警戒」を実施するとともに、大型商業施設において施設管理者と連携し、テロの未然防止に向けた合同訓練を実施するなど、各種管理者対策を推進し、テロへの警戒を強化している。

 
イベント会場における警戒警備(6月、愛知)
イベント会場における警戒警備(6月、愛知)

MEMO 新型出動服

警備出動に従事する警察官等が着用することとされている出動服は、昭和31年にその制式が定められて以降、デザインの大幅な変更はなされていなかったが、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、平成30年4月から新型出動服の運用が開始され、各都道府県警察へ順次導入している。具体的には、立て折り兼用式の襟にして首を保護できるようにしたり、強度及びストレッチ性に優れた生地を導入したりするなど、従来の出動服よりも機能性を高めたほか、「POLICE」の文字を上衣後面に表記して、訪日外国人等にも警察官であることを認知しやすいデザインに変更するとともに、従来の出動服よりもスリムタイプにして、濃紺に金のアクセントカラーを配色するなど、精強な機動隊をイメージさせるものとした。

 
新型出動服
新型出動服

(2)情報収集・分析の強化

テロを未然に防止するためには、幅広い情報を収集して的確に分析することが不可欠である。警察では、警察庁警備局外事情報部を中心に各国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、テロ関連情報の収集・分析を強化するとともに、その総合的な分析結果を、重要施設の警戒警備等の諸対策に活用している。

国際テロ対策を推進するためには、我が国一国のみの努力では限界があり、世界各国との連携・協力が必要不可欠であることから、警察庁では、諸対策に関する国際会議等に積極的に参加している。

平成30年(2018年)4月には、カナダ・トロントにおいてG7安全担当大臣会合が開催され、国家公安委員会委員長が出席して国際テロ対策に関する議論に参加したほか、平成31年(2019年)4月には、フランス・パリにおいてG7内務大臣会合が開催され、警察庁次長が出席して国際テロ対策に関する議論に参加した。

また、平成30年7月には、東南アジア諸国から治安情報機関幹部を招へいして東京で地域テロ対策協議を開催し、協力関係を強化した。

(3)関係機関・団体等との連携の推進

① 水際対策の推進

周囲を海に囲まれた我が国で、テロリスト等の入国を防ぐためには、国際空港・港湾において、出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが重要である。政府は、平成16年、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置して、関係機関が行う水際対策の強化の調整を図っている。また、国際空港・港湾には、空港・港湾危機管理(担当)官(注1)が置かれ、関係機関や民間事業者と合同で、具体的な事案を想定した訓練を実施しているほか、施設警備の改善を図る取組等を行っている。さらに、テロリスト等の入国を防ぐため、出入国在留管理庁や税関等の関係機関と連携し、事前旅客情報システム(APIS)(注2)、外国人個人識別情報認証システム(BICS)(注3)、乗客予約記録(PNR)(注4)等を活用した水際対策を推進している。

注1:空港危機管理(担当)官及び一部の港湾危機管理担当官に都道府県警察の警察官を充てている。

注2:Advance Passenger Information Systemの略。航空機で来日する旅客及び乗員に関する情報と関係省庁が保有する要注意人物等に係る情報を入国前に照合するシステム

注3:Biometrics Immigration Identification & Clearance Systemの略。来日する外国人に入国審査の際に提供させた個人識別情報と関係省庁が保有する要注意人物等に係る情報を照合するシステム

注4:Passenger Name Recordの略。航空券を利用して入国する旅客の予約情報であり、出入国在留管理庁及び税関において分析、活用等が行われている。

② 自衛隊等との共同訓練の推進

警察では、平素から防衛省・自衛隊と緊密な情報交換を行うほか、武装工作員等による不法行為が発生したという想定の下、陸上自衛隊との共同訓練を実施しており、平成30年中は、実動訓練35回を実施した。また、内閣官房や都道府県が主催する国民保護法(注)に基づく関係機関との共同訓練に参加し、テロ等に対する対処能力の向上や関係機関との連携強化を図った。

注:武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律

 
港湾におけるテロ対策合同訓練
港湾におけるテロ対策合同訓練
③ 官民一体となったテロ対策の推進

テロを未然に防止するためには、警察による取組のみでは十分ではなく、関係機関、民間事業者、地域住民等と緊密に連携してテロ対策を推進することが望まれる。このため、警察では、テロ対策に関する様々な官民連携の枠組みに参画している。

ア テロ対策パートナーシップ

東京都では、平成20年、「テロ対策東京パートナーシップ推進会議」を発足させた。同会議には、警視庁、東京都等の関係機関に加え、電力、ガス、情報通信、鉄道等の重要インフラに関わる事業者や、大規模集客施設を営む事業者等が加入し、不特定多数の者が集まる大規模集客施設や公共交通機関等が諸外国においてテロの標的とされる中、「テロを許さない社会づくり」というスローガンの下、テロに対する危機意識の共有や大規模テロ発生時における協働対処体制の整備等が行われている。

警察では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下この節において「2020年東京大会」という。)をはじめとする大規模スポーツイベント等の開催を見据え、全国的な広がりを見せているこうした官民連携の枠組み等を活用して、テロに関する情報共有や研修会、関係機関、民間事業者等と連携した訓練等を実施し、テロ対処能力を強化している。

現在、同様の会議等は、全国の都道府県警察本部に設置されている。

 
図表特2-13 官民一体となったテロ対策の概要
図表特2-13 官民一体となったテロ対策の概要
イ 爆発物の原料となり得る化学物質の販売事業者等に対する管理者対策等の推進

テロリストが武器を入手できないようにするための取組も官民の連携により推進されている。

爆発物の原料となり得る化学物質については、薬局、ホームセンター等の店舗における購入やインターネットを利用した購入が可能な状況にあり、近年、我が国においても、市販の化学物質から爆発物を製造する事案が発生している。このため、警察では、過去に国内外の事案で爆発物の原料に使用されたことがある化学物質11品目(注1)を指定し、これらの化学物質を販売する事業者に対し、関係省庁と協力して、販売時の本人確認を徹底するよう指示したり、不審な購入者への対処要領を教示したりしているほか、不審な購入者の来店等を想定したロールプレイング型訓練を実施している。さらには、これらの化学物質を取り扱う学校等に対しても、保管管理の徹底や盗難又は紛失時の警察への速報を要請したりするなど、関係省庁、民間事業者、学校等と連携し、爆弾テロ等違法行為の未然防止のための各種取組を推進している。

また、警察では、銃砲刀剣類や火薬類を取り扱う個人や事業者に対し、銃刀法(注2)や火薬類取締法に基づく規制や指導を行っている。

さらに、旅館、インターネットカフェ、レンタカー、賃貸マンション等の事業を営む者のほか、住宅宿泊事業者等に対しても、顧客に対する本人確認の徹底等の働き掛けを行い、テロリストによる悪用の防止を図っている。

注1:硫酸、塩酸、過酸化水素、硝酸、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、尿素、硝酸アンモニウム、アセトン、ヘキサミン及び硝酸カリウムの11品目

注2:銃砲刀剣類所持等取締法

 
警察と薬局従業員とのロールプレイング型訓練
警察と薬局従業員とのロールプレイング型訓練

(4)サイバーテロ対策

警察では、サイバー攻撃による被害を防止するため、各都道府県警察と重要インフラ事業者等によって構成されるサイバーテロ対策協議会を全ての都道府県に設置している。また、この協議会の枠組み等を通じ、個別訪問によるサイバー攻撃の脅威や情報セキュリティに関する情報提供、民間有識者による講演、参加事業者間の意見交換や情報共有等を行っている。さらに、サイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練やサイバー攻撃対策に関するセミナーを実施し、サイバー攻撃のデモンストレーションや事案対処シミュレーション等を行うことにより、緊急対処能力の向上に努めている。

このほか警察では、平素から、事業者等に対し、事案発生時における警察への通報を要請している。また、我が国の事業者等を対象としたサイバー攻撃が呼び掛けられていることなどを認知した場合は、対象とされた事業者等に対して速やかに注意喚起を行い、被害の未然防止を図っている。

 
サイバーテロ対策協議会
サイバーテロ対策協議会

CASE

大阪府警察及び近畿管区警察局は、平成30年10月、サイバーテロ対策協議会を開催した。同協議会においては、G20大阪サミットを見据えたサイバー攻撃対策の一環として、大規模イベントで発生が予想されるサイバー空間の脅威に関し、民間の有識者が講演を行ったほか、攻撃者の立場からサイバー攻撃の手法を理解し、その対処について認識を深めるための演習を実施することで、受講者の対処能力の向上を図った。

 
協議会における演習
協議会における演習

CASE

警察庁及び警視庁は、平成30年10月、茨城県警察、埼玉県警察、千葉県警察及び神奈川県警察と連携し、2020年東京大会の開催期間中におけるサイバー攻撃の発生を想定した、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、競技会場の管理者、重要インフラ事業者等との共同対処訓練を実施した。同訓練では、同大会の開会式直前や競技中に、大会関係施設の設備や電力、鉄道等の重要インフラの基幹システム等に対するサイバー攻撃が発生した場合を想定するなど、同大会に向けた対処能力の向上を図った。

 
サイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練
サイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練

(5)テロ資金対策

大規模なテロの敢行やテロ組織の維持・運営には、そのための資金が必要であることから、テロを未然に防止するためには、テロリストがテロを実行するために資金その他の財産の提供を受け、又は財産を使用することを防ぐための取組が重要である。我が国では、テロ資金提供処罰法(注1)に基づき、テロリストに対するテロ資金の提供等を規制している。また、犯罪収益移転防止法(注2)に基づき、顧客等の本人特定事項等の取引時確認、疑わしい取引の届出等を特定事業者(注3)に対し求めている。さらに、外為法(注4)及び国際テロリスト財産凍結法(注5)に基づき、令和元年5月末現在、404個人106団体の国際テロリストを財産の凍結等の措置をとるべき者として公告している。

注1:公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律

注2:犯罪による収益の移転防止に関する法律

注3:犯罪収益移転防止法第2条第2項で規定されている事業者

注4:外国為替及び外国貿易法

注5:国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法

 
図表特2-14 国際テロリスト財産凍結法の概要
図表特2-14 国際テロリスト財産凍結法の概要

(6)小型無人機対策

平成27年4月、首相官邸の屋上に男が小型無人機を落下させた事案を踏まえ、平成28年、国会議事堂、首相官邸等の国の重要な施設等に対する上空からの危険を未然に防止するため、小型無人機等飛行禁止法(注1)が制定され、同年4月7日から施行された(注2)

また、近年、小型無人機の急速な普及や機能向上が進む中、外国において小型無人機を用いたテロ事案等が発生するなど、その脅威が高まっている現状を踏まえ、令和元年5月、第198回国会において、防衛関係施設並びにラグビーワールドカップ2019及び2020年東京大会に係る大会関係施設及び関係者の輸送に際して使用される空港について、その周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の制限等を内容とする小型無人機等飛行禁止法等の一部を改正する法律(注3)が成立し、同年6月に施行された。

警察では、小型無人機等飛行禁止法等を適切に運用するとともに、小型無人機を使用したテロ等を未然に防止するため、重要施設等の周辺において警戒を実施することにより不審者の発見に努めたり、操縦者が利用するおそれのあるビルの屋上や敷地等の管理者に対して、出入口の施錠の徹底を働き掛けたりするなどの対策を進めている。また、上空に対する警戒を行い、飛行している小型無人機の早期発見に努めるほか、違法に飛行している小型無人機を発見した場合には、資機材を有効に活用するなどして、その危害を防止することとしている。

警察としては、今後、小型無人機対策に必要な資機材の整備を行うとともに、それを効果的に活用するための各種訓練を実施するなどして、小型無人機への対処能力の向上に取り組むこととしている。

注1:国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律

注2:その敷地等の上空において小型無人機等の飛行が禁止される国の行政機関及び原子力事業所に係る規定、気球等の機器を用いた人の飛行の禁止に係る規定等一部の規定については、平成28年5月23日に施行された。

注3:国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律等の一部を改正する法律。同法により、小型無人機等飛行禁止法の題名が「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」に改められた。

(7)大規模行事における警備諸対策の推進

① 天皇陛下の御即位に伴う儀式等

天皇の退位等に関する皇室典範特例法に基づき、平成31年4月30日に天皇陛下(現上皇陛下)が御退位され、令和元年5月1日に皇太子殿下(現天皇陛下)が御即位された。

政府は、天皇陛下(現上皇陛下)の御退位及び皇太子殿下(現天皇陛下)の御即位が、国民の祝福の中でつつがなく行われるよう、関連する国の儀式等の準備を総合的かつ計画的に進めるため、平成30年4月、「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針」を閣議決定した。同方針を踏まえ、政府は、同年10月、関連する国の儀式等の円滑な実施が図られるよう、各式典の大綱等を決定するため、内閣総理大臣を長とする「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典委員会」を内閣に設置するとともに、各府省の連絡を円滑に行うため、内閣官房長官を長とする「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典実施連絡本部」を内閣府に設置した。

同月、警察庁では、これらの儀式等に係る警察措置の万全を期するため、警察庁次長を長とする「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典警備対策推進室」を、警視庁等では、警衛警護警備対策委員会等をそれぞれ設置して体制を確立した。

退位の礼として、平成31年4月30日に「退位礼正殿の儀」が、即位の礼として、令和元年5月1日に「剣璽等承継の儀」及び「即位後朝見の儀」がそれぞれ挙行された。警視庁においては、所要の体制を構築してこれらの儀式等の警備に当たった。

今後、即位の礼として、同年10月に「即位礼正殿の儀」、「祝賀御列の儀」及び「饗宴の儀」が挙行される予定であり、これらの儀式等の警備にも万全を期していくこととしている。

 
儀式等に伴う警衛警備
儀式等に伴う警衛警備
② G20大阪サミット等

第14回金融・世界経済に関する首脳会合(以下「G20大阪サミット」という。)は、令和元年6月28日及び同月29日、大阪市において開催された。また、サミットの関係閣僚会合として、同年5月11日及び同月12日に新潟市で開催された農業大臣会合を皮切りに、4つの会合が全国各地で開催された。G20大阪サミットは、大都市・大阪で開催されたことに加え、27の国及び10国際機関から多数の要人が参加したことから、イスラム過激派によるテロ、右翼による過激な妨害行為、反グローバリズムを掲げる勢力や極左暴力集団による抗議活動等も想定される中、多岐にわたる諸対策を講じる必要があった。

警察では、国民の理解と協力を得て、国内外要人の身辺の安全をはじめとするG20大阪サミット及び関係閣僚会合(以下「G20大阪サミット等」という。)の開催の安全及びその円滑な進行を確保するとともに、テロ等違法行為の未然防止を図るために、全国警察が一体となって総合的な警備諸対策を強力に推進した。

事前の措置として、警察庁では、平成30年4月、警察庁次長を長とする「G20大阪サミット等警備対策推進室」を設置したほか、都道府県警察においては、大阪、愛知及び福岡の3府県警察がサミット対策課を、その他全ての都道府県警察が警備対策室等をそれぞれ設置した。

また、我が国に対するテロの脅威が継続している現状を踏まえ、銃器対策部隊等のテロ対処部隊の事態対処能力の更なる向上を図るため、実戦的訓練を推進したほか、各国首脳等を直近で守る警護員についても、実戦的訓練を繰り返し実施することで、個々の警護員の実力向上を図った。

その後、実際のG20大阪サミットでは、大阪府警察、兵庫県警察及び京都府警察において、全国警察からの特別派遣部隊約1万8千人を含む最大時約3万2千人体制を構築したほか、既に開催された関係閣僚会合でも、各県警察において所要の警備体制を構築し、G20大阪サミット等警備を完遂した。また、G20大阪サミット等の開催地以外においても、重要施設等における警戒警備を徹底し、テロ等違法行為の発生を防止するとともに、一般治安の確保にも万全を期すなど、開催国としての治安責任を全うした。

今後、残りの関係閣僚会合として、令和元年9月、愛媛県松山市において労働雇用大臣会合が、同年10月、岡山県岡山市において保健大臣会合が、同月、北海道倶知安(くつちやん)町において観光大臣会合が、同年11月、愛知県名古屋市において外務大臣会合が、それぞれ開催される予定であり、これらの会合の警備にも万全を期していくこととしている。

 
G20大阪サミット等警備対策推進室会議
G20大阪サミット等警備対策推進室会議
 
財務大臣・中央銀行総裁会議警備状況
財務大臣・中央銀行総裁会議警備状況
③ 2020年東京大会

警察では、2020年東京大会に向けて警察組織一体となった対策を推進している。

2020年東京大会では、競技会場が特定の地区に集約されず、都内及び都外に分散配置されることから、会場ごとに高いセキュリティレベルを確保するため、警戒力の効果的かつ効率的な投入等について検討を進めていく必要がある。また、2020年東京大会前に全都道府県を巡る聖火リレーについては、これまでの大会において妨害事案が発生していることから、全国警察においてその対策について検討を進めていく必要がある。

具体的には、2020年東京大会の開催期間中の安全安心を確保するため、政府が取りまとめた「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に向けたセキュリティ基本戦略」に基づき、大規模集客施設や公共交通機関等におけるテロ対策、最寄りの駅から競技会場の入口までの観客の移動経路(ラストマイル)上の主要な交差点等における車両突入対策、競技会場における小型無人機対策等、競技会場の内外における様々な課題に対し、関係省庁と連携して取り組んでいる。また、施設管理者や地域住民等を含む社会全体でのテロ対策が重要であることから、関係機関、民間事業者等と連携した訓練の充実等、官民一体となったテロ対策を深化させている。さらに、平成29年に警察庁に設置されたセキュリティ情報センターでは、2020年東京大会の安全に関する情報集約、リスク分析等を行うとともに、必要な情報を関係機関等に提供しているほか、国際会議を開催し、外国治安情報機関等との情報交換を行うなど、国際連携の更なる強化に努めている。加えて、2020年東京大会の前年である令和元年に開催されるラグビーワールドカップ2019も大規模かつ国際的なスポーツイベントであることから、2020年東京大会に向けた一体的な取組として必要な警備諸対策を推進している。

このほか、平成30年(2018年)2月に開催された平昌冬季オリンピック競技大会の開会式においては、大会システムへのサイバー攻撃により、公式ウェブサイトがダウンするなどの障害が発生しており、警察では、関係機関と連携して、サイバー攻撃及び攻撃者に関する情報収集・分析等を推進するとともに、2020年東京大会におけるサイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練を実施している。

 
官民連携したテロ対処訓練
官民連携したテロ対処訓練
 
車両突入テロ対策
車両突入テロ対策


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