特集 緊急事態への備えと対応

第3節 今後の展望

1 大規模災害やテロ等緊急事態への対応に関する今後の展望

(1)大規模災害への対応に関する今後の展望

警察では、常日頃から災害に備えた訓練等を行うとともに、一たび災害が発生すれば、迅速に部隊を展開するなどして、できる限りの対応を行ってきた。また、平成7年(1995年)に発生した阪神・淡路大震災をはじめとする大規模災害における教訓を踏まえ、災害派遣部隊の設置・強化、装備資機材の充実強化、災害訓練施設の整備と実戦的訓練の実施、関係機関との連携強化等により災害対処能力の向上を図ってきた。

しかしながら、極めて多種の自然災害が発生しやすい条件下にある我が国では、近年でも東日本大震災をはじめとする地震、火山噴火、豪雨等による大規模災害が発生し、その都度、災害対策に係る新たな課題に直面しており、さらに、南海トラフ地震及び首都直下地震については、いずれも東日本大震災を超える甚大な被害(注)が想定されている。

今後、警察では、発生が懸念される南海トラフ地震及び首都直下地震はもとより、その他のいかなる大規模災害にも的確に対処できるよう、従前の取組内容を不断に見直し、平素の業務における災害に関する危機管理体制の点検及び構築を持続的に推進するとともに、小型無人機、救助探索用ロボットといった災害警備に資する先端技術を積極的に取り入れ、災害発生時に一人でも多くの国民を守り、少しでも被害を減らすため、一層の災害対処能力の向上を目指していくこととしている。

注:地震対策検討ワーキンググループ(中央防災会議「防災対策推進検討会」に設置)が算出した被害想定

(2)テロへの対応に関する今後の展望

警察では、これまで、我が国に関連するテロ事件や海外におけるテロ事件の発生等を受けて、テロの未然防止及びテロへの対処体制の強化のため、情報収集・分析機能の強化、関係機関と連携した水際対策や重要施設に対する警戒警備、テロが発生した場合を想定した各種部隊の装備資機材の整備等の取組を進めてきた。

他方、各国がテロ対策を講じているにもかかわらず、欧米諸国をはじめとする国々で依然としてテロ事件が発生している。また、インターネットを通じた過激思想の伝播(ぱ)や過激派組織への勧誘は拡大しており、テロリスト等が悪意ある目的でサイバー空間を利用することの防止は国際的な課題となっている。また、IoT(注)等の新たな技術・サービスが登場し、我々に多くの恩恵をもたらす可能性がある一方で、これらを利用した攻撃が行われるなど、今後テロの手法が多様化していくことも懸念される。こうしたテロへの対応は、我が国はもとより、国際社会にとっても、今後も共通の最重要課題であり続けるといえる。

このような中にあって、テロの脅威に対し、警察のみで立ち向かうことには限界があり、国内外の関係機関・団体等、広く協力関係の構築・拡大を図りつつ、テロ対策を着実に進めていく必要がある。

テロは一たび実行に移されれば、途中で阻止することは極めて困難であり、その発生を許せば多くの犠牲を生むことになる。したがって、テロ対策の要諦はその未然防止にあり、そのためには広範な情報収集と的確な分析が不可欠である。警察では、各国治安情報機関との間で密接な連絡体制を構築することに加えて、テロ対策に関する国際会議等に積極的に参加することなどを通じて、テロ対策に関する国際協力を更に推進し、情報収集に向けた連携を強化していくこととしている。また、広範に収集した情報の真偽や価値を的確に分析するため、国内外における情報収集活動で得られた情報を警察庁において一元的に集約・蓄積し、多角的かつ総合的な分析を加えることで、テロの脅威を的確に把握するとともに、テロの未然防止に向けた効果的な活用を図っている。同時に、テロ対策に関する知識等の実戦的な教養に加え、職員に外国語や外国文化を習得させることなどにより、イスラム過激派組織等、我が国の脅威となり得る国際テロ組織等に関する情勢、その活動地域の言語や社会、テロの手法等に精通した人材の育成・登用を推進していくこととしている。

また、対処能力の強化の観点からは、具体的なテロの発生状況、犯行形態、対処方法等について研究・分析し、必要な装備資機材の整備、各種部隊の機能強化、効果的な運用を図っていくこととしている。

さらに、今後はこうした一連のテロ対策に加えて、最先端技術を活用した情報の収集・分析、事案対処についても研究し、また、新たなテロ対策の導入について引き続き検討を進め、効果的かつ効率的にテロ対策を前進させていくことが求められている。

注:Internet of Thingsの略

(3)緊急事態への備えと対応

近年、長期の対応を要する災害が続発している。また、欧米諸国等でテロ事件が発生しており、テロ対策の観点を踏まえた警備を行う必要があるなど、従来より複雑かつ困難な警備を要する状況が生じている。

こうした状況を踏まえ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等における大規模警備に万全を期するとともに、複数同時発生のおそれもある大規模災害等の緊急事態への迅速・的確かつきめ細かな対応を可能とする体制を構築するため、警察法等を改正し、平成31年4月、警備局に警備運用部を新設するとともに、同部に主に警衛、警護及び警備実施に関する事務を所掌する警備第一課及び主に緊急事態への対処に関する事務を所掌する警備第二課の2課を設置した。

今回の体制強化によって、平素における警備実施と緊急事態対処の双方に関する各種施策の効率的な推進や、大規模警備事象と大規模災害等の緊急事態が同時に生じた場合等における迅速・的確かつきめ細かな対応を実現することが可能となる。これにより、国民の生命、身体及び財産の保護並びに公共の安全と秩序の維持という警察の責務の遂行に万全を期することで、引き続き、国民の期待と信頼に応えるよう努めていくこととする。

 
図表特3-1 警察庁警備局内の組織改正(平成31年4月)
図表特3-1 警察庁警備局内の組織改正(平成31年4月)


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