第4章 組織犯罪対策

2 暴力団犯罪の取締り

(1)検挙状況

暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(以下「暴力団構成員等」という。)の検挙人員は、図表4-3のとおりであり、近年減少傾向にある。暴力団構成員等の総検挙人員のうち、伝統的資金獲得犯罪の検挙人員が占める割合は3割程度で推移しており、これらが有力な資金源となっているといえる。他方、検挙人員の罪種別割合をみると、図表4-4のとおりであり、平成21年と比較すると、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺の検挙人員が占める割合が増加しており、暴力団が資金獲得活動を変化させている状況もうかがわれる。

 
図表4-3 暴力団構成員等の検挙人員(伝統的資金獲得犯罪)の推移(平成21~30年)
図表4-3 暴力団構成員等の検挙人員(伝統的資金獲得犯罪)の推移(平成21~30年)
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図表4-4 暴力団構成員等の検挙人員の罪種別割合(平成21年及び30年)
図表4-4 暴力団構成員等の検挙人員の罪種別割合(平成21年及び30年)
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(2)暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件(注)

近年の暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件、対立抗争事件等の発生状況は、図表4-5のとおりである。これらの事件の中には、銃器が使用されたものもあり、市民生活に対する大きな脅威となるものであることから、警察においては、重点的な取締りを推進している。

注:暴力団構成員、暴力団準構成員、総会屋、政治活動標ぼうゴロ、社会運動標ぼうゴロ、会社ゴロ、新聞ゴロ等が、その意に沿わない活動を行う企業(株式会社等の会社、信用組合、医療法人、学校法人、宗教法人その他の法人をいう。)その他の事業者に対して威嚇、報復等を行う目的で、当該事業者又はその役員、経営者、従業員その他の構成員若しくはこれらの者の家族を対象として敢行したと認められる事件のうち、次のいずれかに該当するもの
1 殺人、殺人未遂、傷害、傷害致死、逮捕及び監禁、逮捕及び監禁致死傷又は暴行
2 上記1に該当しない次の事件
(1)銃器の使用 (2)実包(薬きょうを含む。)の送付 (3)爆発物の使用(未遂を含む。)
(4)放火(未遂を含む。) (5)火炎瓶の使用(未遂を含む。)
(6)上記(1)から(5)までに掲げるもののほか、車両の突入によるなど人の生命又は身体に重大な危害を加えるおそれがある建造物損壊、器物損壊又は威力業務妨害

 
図表4-5 暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件の発生件数等の推移(平成26~30年)(注1)
図表4-5 暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件の発生件数等の推移(平成26~30年)
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CASE

工藤會傘下組織の幹部の男(46)らは、平成20年9月、殺意をもって、自動車に乗車中の建設会社社長に対して拳銃を発射し、同車の車体の一部を損壊した。平成30年11月、同男らを殺人未遂罪等で検挙した(福岡)。

MEMO 山口組の対立状態の継続と対策

六代目山口組と神戸山口組が対立抗争の状態にあるほか、任侠山口組も両団体と対立状態にあり、平成30年3月には、兵庫県公安委員会が、暴力団対策法の規定に基づき、任侠山口組を指定暴力団として指定した。

六代目山口組と神戸山口組の対立抗争に起因するとみられる不法行為の発生頻度は減少しているものの、平成30年中も、神戸山口組傘下組織の組員らが、六代目山口組傘下組織の組長が居住する建物の外壁等を損壊する事件等が発生しているほか、平成31年4月にも、六代目山口組傘下組織の組員らが、神戸山口組傘下組織の組長を刃物で突き刺すなどする事件が発生した。

警察では、平成28年3月に六代目山口組と神戸山口組が対立抗争の状態にあると判断して以降、警察庁及び関係都道府県警察に両団体に対する集中取締本部を設置して、全国警察を挙げて対立抗争事件の続発防止と各団体の弱体化を目的とした集中取締りを実施するとともに、市民生活の安全確保に向け、警戒活動の徹底を図っている。

また、取締り及び警戒活動に加え、暴力追放運動推進センター(以下「暴追センター」という。)等と緊密に連携し、事務所撤去訴訟をはじめとした暴力団排除活動を支援している。例えば、平成29年9月、任侠山口組の関係者が射殺される事件が発生するなどしたことから、任侠山口組の主たる事務所が所在する兵庫県尼崎市では、暴力団排除の気運が高まり、平成30年6月、適格暴追センター(注)の認定を受けた暴力団追放兵庫県民センターが、地域住民等から委託を受け、神戸地方裁判所に対し同センターの名をもって同事務所の使用禁止の仮処分命令の申立てを行ったところ、同年9月、同命令が決定された。

注:国家公安委員会の認定を受け、指定暴力団等の事務所の付近住民から委託を受けて、自己の名をもって事務所使用差止請求を行うことができる暴追センター

(3)資金獲得犯罪

暴力団は、企業や行政機関を対象とした恐喝・強要、強盗、窃盗等のほか、特殊詐欺、各種公的給付制度を悪用した詐欺等、時代の変化に応じて様々な資金獲得犯罪を行っている。近年では、金地金の密輸事犯等、規制や制度等の間隙を突いた「表に出にくく、利益率の高い」新たな資金獲得犯罪が出現しているほか、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収といった伝統的な資金獲得犯罪も、依然として暴力団の有力な資金源となっている。

また、暴力団は、実質的にその経営に関与している暴力団関係企業を利用し、又は共生者(注1)と結託するなどして、その実態を隠蔽しながら、一般の経済取引を装った貸金業法違反、労働者派遣法(注2)違反等の資金獲得犯罪を敢行している。

警察では、巧妙化・不透明化する暴力団の資金獲得活動に関する情報を収集・分析するとともに、社会経済情勢の変化に応じた暴力団の資金獲得活動の動向にも留意しつつ、暴力団や共生者等に対する取締りを推進している。

注1:暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力等を利用し自らの利益拡大を図る者

注2:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

CASE

六代目山口組傘下組織の幹部の男(56)らは、平成30年2月、区役所職員等を装って高齢者に電話をかけ、還付金を受け取ることができるなどと虚偽の事実を告げ、その旨を誤信した同高齢者にATMを操作させて、同男らの管理する預金口座に合計約150万円を振り込ませ、財産上不法の利益を得た。同年10月、同男ら6人を電子計算機使用詐欺罪で逮捕した(警視庁、京都、和歌山、高知)。

CASE

六代目山口組傘下組織の組長の男(64)らは、平成29年12月、飲食店において、女性従業員に対し、不特定の遊客を売春の相手方として紹介するとともに、平成26年10月から30年5月までの間、売春を行う場所を提供した。平成30年7月までに、同男ら6人を売春防止法違反(周旋等)で逮捕した(大阪)。

MEMO みかじめ料等をめぐる最近の動向

暴力団は、資金獲得のため、縄張内で営業を営む飲食店等に対し、依然としてみかじめ料や用心棒料等の名目で不当に金銭等を要求している。例えば、平成30年1月までに、風俗店経営者らからみかじめ料名目で合計約490万円を脅し取ったとして、住吉会傘下組織の組長ら15人を逮捕した(警視庁)。

都道府県が定める暴力団排除に関する条例においては、暴力団排除特別強化地域等(注)で営業する風俗営業者等に対する暴力団員による用心棒の役務の提供等を直罰化する動きがみられ、令和元年5月現在、10道府県の条例に当該趣旨の規定が設けられている。

警察では、暴力団によるみかじめ料の要求行為等に関する情報を収集・分析するとともに、みかじめ料等名目の恐喝事件や暴力団の排除に関する条例違反等の取締りの徹底に努めている。

注:暴力団の排除を徹底することにより、地域住民及び来訪者にとって一層安全で安心なまちづくりを特に強力に推進する地域又は区域



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