第7章 警察活動の支え

7 研究機関の活動

(1)警察政策研究センター

警察大学校に置かれている警察政策研究センターは、様々な治安上の課題に関する調査研究を進め、政策提言を行うとともに、警察と国内外の研究者等との交流の拠点として活動している。

① フォーラムの開催

関係機関・団体等と連携し、国内外の研究者・実務家を交えて社会安全等に関するフォーラムを開催している。

 
図表7-21 フォーラムの開催状況(平成29年度)
図表7-21 フォーラムの開催状況(平成29年度)
 
フォーラムの開催
フォーラムの開催
② 大学関係者との共同研究の推進

大学関係者と共同して研究活動を行っている。これまでに、例えば、慶應義塾大学大学院法学研究科との間で、テロ等の各種治安事象への対策を講ずるに当たり、憲法学的見地から、国民の自由と安全をいかにバランスよく保障していくかについて共同研究を行っている。

CASE

平成29年度は、早稲田大学社会安全政策研究所との間で、「非行・不良行為等の発見段階における立ち直り支援の現状と課題-警察を起点とした機関連携を中心に-」及び「重大非行事案防止のための多機関連携による非行少年等とその家庭への支援に関する研究」について共同研究を行うとともに、30年1月、同研究所との共催により、都内において公開研究会を開催し、少年を犯罪から守るための関係機関・団体の連携の在り方について活発に意見交換を行った。

③ 大学・大学院における講義の実施

警察政策に関する研究の発展及び普及のため、東京大学公共政策大学院、京都大学法科大学院・公共政策大学院、一橋大学国際・公共政策大学院、早稲田大学法科大学院、中央大学法学部・総合政策学部・法科大学院、首都大学東京都市教養学部、法政大学法学部等に職員を講師として派遣している。

 
大学・大学院での講義(法政大)
大学・大学院での講義(法政大)
④ 警察に関する国際的な学術交流

海外で開催される国際的な学術会議に参加し、日本警察に関する情報発信を行っている。また、韓国警察庁警察大学治安政策研究所、フランス高等治安・司法研究所、フランス・トゥールーズ第一社会科学大学警察学研究センター及びドイツ・フライブルク大学安全・社会センターとの間で協定を締結し、警察に関する国際的な学術交流を実施している。

CASE

29年6月、スウェーデン・ストックホルムで開催された第12回ストックホルム犯罪学シンポジウムに参加し、我が国における国際テロ情勢と対策の推進状況について発表を行った。

 
国際的な学術会議での発表(スウェーデン)
国際的な学術会議での発表(スウェーデン)

CASE

29年9月、公益財団法人日工組社会安全研究財団との共催により、都内において「我が国のサイバー犯罪対策の現状とこれから」をテーマとするフォーラムを開催した。ボットネット(注)対策の専門家であるドイツの研究員及びアメリカの弁護士、我が国の大学教授等がパネリストとして参加し、活発に意見交換を行った。

注:攻撃者の命令に基づき動作する不正プログラム(ボット)に感染したコンピュータ及びこれらのコンピュータに攻撃者の命令を送信する命令サーバから成るネットワーク

(2)警察情報通信研究センター

警察大学校に置かれている警察情報通信研究センターでは、警察活動に関わる情報通信技術について研究しており、その成果は、犯罪捜査の効率化や警察における情報通信システムの整備に活用されている。

例えば、テロ等の発生を未然に防止するため、飛行する小型無人機を早期に発見するための検知手法に関する研究を行っているほか、犯罪捜査等の効率化のため、防犯カメラ等に記録された低照度・低画質な画像の鮮明化技術、多数の画像から人物や車両等を識別し画像を効率的に解析する技術、画像から人物等を特定する識別技術等の画像処理に関する技術の研究を行っている。

 
小型無人機の検知手法に関する研究
小型無人機の検知手法に関する研究

(3)科学警察研究所

科学警察研究所は、警察活動を最新の科学技術に基づいて支えるため、警察庁に附置されている研究機関であり、その業務は、科学技術を犯罪捜査や犯罪予防に役立てるための研究、その研究成果を活用した鑑定・検査及び都道府県警察の鑑定技術職員に対する技術指導を行うための研修という3つの柱から構成されている。

科学警察研究所の研究領域は極めて広く、医学、生物学、薬学、化学、物理学、工学、心理学、社会学等の多様な専門性を有する約100名の研究員を擁している。

① 犯罪捜査等のための研究

科学技術を犯罪捜査や刑事事件の立証等に利用するためには、その有効性、信頼性等を厳格に検証する必要がある。科学警察研究所では、犯罪捜査をはじめとする警察活動への実用化の観点から科学技術の研究を行うとともに、鑑定等に利用する技術、資機材等についての検証等を行っている。科学警察研究所の研究によって確立・実証された知識や技術は、犯罪捜査における鑑定・検査に活用されており、DNA型鑑定、違法薬物の分析、画像解析、ポリグラフ検査、プロファイリング等を通じて、事件の解明、被疑者の検挙等に貢献している。

また、良好な治安を確保するためには、事件・事故の発生を未然に防ぐことが極めて重要であることから、科学警察研究所では、社会学、心理学、工学等の知見を活用して、人身安全関連事案等の未然防止及び交通事故の被害軽減のための研究を行っている。

研究例 農薬製剤の異同識別

流通食品への農薬製剤の混入事件において、農薬製剤の入手経路や製品の特定等に寄与するため、農薬製剤に含まれる成分のうち、経年劣化の影響を受けず、流通食品に含まれない成分を指標として、農薬製剤の異同識別を可能とするための研究を行っている。

研究例 音声による出身地の推定

ヒトの音声は、出身地等によって異なる特徴があることを利用して、被疑者の音声からその出身地を推定することを可能とするための研究を行っている。

 
音声による出身地の推定の例
音声による出身地の推定の例

研究例 高齢者等に配慮した信号制御

高齢者等の歩行者が道路を横断中、歩行者用灯器が赤色の灯火となり、道路上に取り残されることのないよう、歩行者用灯器について、青色の灯火の点滅時間や、信号表示面に青時間の残り時間を表示する機能が歩行者の交通行動に与える影響について研究を行っている。

 
青時間の残り時間の表示の例
青時間の残り時間の表示の例

研究例 ストーカー事案の被害者の特性

ストーカー事案の更なる被害の未然防止及び拡大防止を図るため、同事案の被害者が関係機関・団体等に援助を求める申出を促進又は抑制する要因について、行動科学的見地から研究を行っている。

 
ストーカー事案の被害者の援助の申出先と援助の種類
ストーカー事案の被害者の援助の申出先と援助の種類
② 鑑定・検査

科学警察研究所では、ミトコンドリアDNA検査(注)、薬物の微量成分分析等の高度な専門的知識や技術が必要とされる鑑定及び火災の再現実験等の特殊な設備や技術が必要とされる鑑定を実施している。また、偽造通貨及び銃器の弾丸・薬きょう類については、全て科学警察研究所が資料の鑑定を行っている。

注:細胞核ではなく、細胞内のミトコンドリアに存在するDNAの塩基配列を分析する検査。同配列は、男女を問わず母親の配列と同一となるため、母子や兄弟姉妹間の比較に有効とされる。

③ 法科学研修所における研修

科学警察研究所に置かれている法科学研修所では、主に都道府県警察の科学捜査研究所及び鑑識部門で勤務する職員を対象として、鑑定・検査及び鑑識活動に必要となる専門的知識に関する研修を行っている。また、国内外の大学、研究機関等に研修生をおおむね3か月から6か月の期間にわたって派遣し、専門性を高めるための研究に従事させることによって、新たな鑑定手法の開発等に役立てている。



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