第6章 公安の維持と災害対策

第2節 外事情勢

北朝鮮、中国及びロシアは、様々な形で対日有害活動を行っており(注)、警察では、平素からその動向を注視し、情報収集・分析等を行っている。

注:対日有害活動については、56頁(トピックスV 対日有害活動等の現状と警察の取組)参照

(1)北朝鮮の動向

北朝鮮は、平成29年(2017年)中、ICBM(注)級の弾道ミサイルを含む様々な弾道ミサイルの発射を繰り返し行い、同年8月及び9月には、我が国の上空を通過する形で中距離弾道ミサイル「火星12」型を発射したほか、同月に6回目の核実験を実施した。北朝鮮の核・ミサイル開発及び運用能力の向上は、我が国の安全に対する、より重大かつ差し迫った新たな段階の脅威であり、我が国及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものになっている。

 
「火星12」型を視察する金正恩朝鮮労働党委員長
「火星12」型を視察する金正恩朝鮮労働党委員長

国際連合安全保障理事会(以下「国連安保理」という。)は、同年6月、北朝鮮による累次の弾道ミサイルの発射を受け、資産凍結対象の追加等、北朝鮮に対する新たな制裁を盛り込んだ決議第2356号を採択した。また、同年8月には、北朝鮮が同年7月中に弾道ミサイルを2回にわたり発射し、我が国の排他的経済水域に着弾させたことなどを受け、北朝鮮からの石炭、鉄鉱石及び海産物の輸入禁止等、北朝鮮に対する更なる制裁を盛り込んだ決議第2371号を採択した。さらに、同年9月には、北朝鮮が6回目の核実験を実施したことなどを受け、北朝鮮への石油精製品の輸出量の制限等、北朝鮮に対する一層の制裁を盛り込んだ決議第2375号を採択した。

北朝鮮は、トランプ・米国大統領が、同月、第72回国際連合総会における一般討論演説において、北朝鮮に対する軍事行動を示唆したことなどに対し、史上初めて国務委員会委員長声明を発表するなど、米国及びトランプ大統領に対する対決姿勢を強めた。また、同年11月には、ICBM級の弾道ミサイル「火星15」型を発射し、「国家核武力の完成」を宣言した。

これを受け、国連安保理は、同年12月、北朝鮮への石油精製品の更なる輸出量の制限等、北朝鮮に対するより一層の制裁を盛り込んだ決議第2397号を採択した。

北朝鮮は、平成30年(2018年)に入ると、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が中国、韓国及び米国の首脳とそれぞれ会談するなど、積極的な対話姿勢を示している。

注:Intercontinental Ballistic Missile(大陸間弾道ミサイル)の略

(2)中国の動向

① 中国国内の情勢等

平成29年(2017年)10月に北京で開催された中国共産党第19回全国代表大会(第19回党大会)においては、党規約の改正案が採択され、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が同規約の行動指針に追加された。中国共産党の歴代指導者のうち、個人名を冠した政治理念が行動指針として党規約に明記されたのは、毛沢東(もうたくとう)及び鄧小平(とうしょうへい)に次いで、習近平(しゅうきんぺい)総書記が3人目である。

 
第19回党大会の状況(写真提供:共同通信社)
第19回党大会の状況(写真提供:共同通信社)

また、同大会閉会後に開催された中国共産党第19期中央委員会第1回全体会議(一中全会)では、習近平総書記をはじめとする7人の新たな中央政治局常務委員が選出され、2期目の習近平指導部が発足した。

内政面では、同月、中国共産党中央紀律検査委員会の楊暁渡(ようぎょうと)副書記が、過去5年間で、汚職等の規律違反によって約153万7,000人の党員を処分し、このうち約5万8,000人を司法機関に送致したと公表するなど、習近平指導部による「虎もハエもたたく」という大物幹部から末端の公務員まで取り締まる方針の下、反腐敗闘争を進めている。

外交面では、同年5月、「一帯一路」構想(注)に関する初めての国際会議が北京で開催され、29か国の首脳をはじめ、約130の国・地域から約1,500人が出席した。習近平国家主席は、同会議において、同構想を資金面で支える「シルクロード基金」に1,000億元を増資する方針等を示した。

軍事面では、同年の国防費が約1兆444億元(前年比約7.1%増加)と公表され、初めて1兆元を超えるなど、軍事力の増強が図られている。

注:平成25年(2013年)9月に習近平国家主席がカザフスタンを訪問した際に提唱した、中国から中央アジアを経由して欧州を結ぶ「シルクロード経済ベルト(一帯) 」と、同年10月に同人がインドネシアを訪問した際に提唱した、中国から東南アジア、南アジア、中東、アフリカを経由して欧州を結ぶ「21世紀海上シルクロード(一路) 」の2つから成る、中国と関係国との経済・貿易関係等を拡大・強化する構想

② 我が国との関係をめぐる動向

29年11月、習近平国家主席は、ベトナム・ダナンで安倍首相と首脳会談を行い、両首脳が同会談を新たなスタートとして、今後も意思疎通していくことなどを確認した。

一方、24年9月、日本政府が尖閣諸島の一部の島について所有権を取得して以降、尖閣諸島周辺海域では、中国公船の出現が常態化するとともに、中国公船が我が国の領海に侵入を繰り返している。

また、同海域以外においても、29年7月には、中国海軍の情報収集艦が北海道松前町沖、中国公船が長崎県対馬市沖、福岡県宗像市沖、青森県深浦町沖及び同県外ヶ浜町沖の我が国の領海に、同年8月には、中国公船が鹿児島県南大隅町沖の我が国の領海に、それぞれ入域した。

 
尖閣諸島周辺海域を航行する中国公船(写真右下)と海上保安庁の巡視船(写真提供:共同通信社)
尖閣諸島周辺海域を航行する中国公船(写真右下)と海上保安庁の巡視船(写真提供:共同通信社)

(3)ロシアの動向

平成29年(2017年)中、日露間の対話は継続しており、同年4月にはロシア・モスクワ、同年7月にはドイツ・ハンブルク、同年9月にはロシア・ウラジオストク及び同年11月にはベトナム・ダナンと相次いで日露首脳会談を行った。この結果、両首脳は、北方四島における共同経済活動について、早期に取り組むプロジェクトの候補を特定し、双方の法的立場を害さない形でプロジェクトを具体化するための検討を加速させることで一致した。

一方、同年2月、ロシアのショイグ国防大臣が、北方四島を含む地域における軍備を強化することを明らかにするなど、我が国の立場と相容れない動向がみられた。

ロシア国内では、反政府運動がロシア全土で広がりを見せたが、同年9月の統一地方選挙では、首長選挙が行われた16の州、共和国等の全てで与党「統一ロシア」の候補が当選した。また、同月以降、プーチン大統領は、沿海地方の知事をはじめとした連邦構成主体の首長を相次いで交替させるなど、政権基盤の一層の強化を図り、平成30年(2018年)3月のロシア大統領選挙では、7割を超える得票率で圧勝し、再選を果たした。

外交面では、米国をはじめとする欧米諸国との対立を続けつつ、ウクライナ及びシリアに対する政治的及び軍事的関与を継続している。



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