第5章 安全かつ快適な交通の確保

2 適正かつ緻密な交通事故事件捜査

(1)交通事故事件の検挙状況

平成29年中の交通事故事件の検挙状況は、図表5-51のとおりである。

 
図表5-51 交通事故事件の検挙状況(平成29年)
図表5-51 交通事故事件の検挙状況(平成29年)
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(2)適正かつ緻密な交通事故事件捜査

警察では、一定の重大・悪質な交通事故の発生に際しては、交通事故事件捜査の豊富な経験を有する交通事故事件捜査統括官等が現場に臨場して、初動段階から捜査を統括するとともに、科学的な交通事故解析の研修を積んだ交通事故鑑識官が現場で証拠収集に従事するなど、組織的かつ重点的な捜査を推進している。

特に、飲酒運転、信号無視、無免許運転等が疑われるものについては、一般的に交通事故に適用される過失運転致死傷罪より罰則の重い危険運転致死傷罪や過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の立件を視野に入れた捜査を推進している。

また、ひき逃げ事件については、交通鑑識資機材や常時録画式交差点カメラの有効活用による被疑者の早期検挙を図っており、平成29年中の死亡ひき逃げ事件の検挙率(注)は、100.0%であった。

注:検挙件数には、29年の前年以前の認知事件の検挙が含まれることから、検挙率が100%を超える場合がある。

CASE

29年6月、東名高速道路の本線車道上に停止中の普通乗用自動車が大型貨物自動車に追突され、普通乗用自動車の運転者等6人が死傷する事故が発生した。自動車を運転し、被害者が乗車する普通乗用自動車を追い越した後、同車の進路を塞ぐように車線変更及び減速を繰り返すなどして、同車を本線車道上に停止させ、同車に大型貨物自動車を追突させたとして、同年10月、建設作業員の男(25)を過失運転致死傷罪等で逮捕した。その後、被疑者の取調べや実況見分等の捜査を実施した結果、被害者が乗車する普通乗用自動車の通行を妨害する目的で自動車を走行させていたことが明らかとなった(同月、より罰則の重い危険運転致死傷罪等で起訴)(神奈川)。

(3)交通事故事件捜査の科学化・合理化

緻密で科学的な交通事故事件捜査を推進するため、警察庁では、交通鑑識に携わる都道府県警察の警察職員を対象とした研修を行っている。研修内容は、様々な状況を想定した車両の衝突実験を行い、衝突後の状況のみを見分させた上で交通事故の発生時における車両の状況や速度を究明させるなど、実践的・専門的なものとなるよう工夫している。

また、客観的な証拠に基づいた事故原因の究明を図るとともに、交通事故当事者の負担を軽減するため、常時録画式交差点カメラや3Dレーザースキャナ(注)をはじめとする各種の機器の活用を図っている。

他方で、重大な交通事故事件の捜査に集中することができるよう、軽微な交通事故に関しては、検察庁への送致書類の簡素化を図るなど、業務の合理化も進めている。

注:レーザー光線を周囲に照射することで、事故現場における道路構造や路面の痕跡、遺留品の散乱状況等を自動的かつ正確に計測し、三次元点群データを作成する機器。同データは、専門のシステムにより、三次元画像処理や図化ができる。

 
3Dレーザースキャナによる三次元画像
3Dレーザースキャナによる三次元画像
 
3Dレーザースキャナによる測定状況
3Dレーザースキャナによる測定状況

(4)交通事故被害者等(注1)の支援

警察では、「警察庁犯罪被害者支援基本計画」(注2)に基づき、交通事故被害者等の要望や心情に配意した捜査に努めるとともに、被害者連絡実施要領(注3)等に基づき、ひき逃げ事件、死亡又は全治3か月以上の重傷の被害が生じた交通事故事件、危険運転致死傷罪の適用が見込まれる事件等を中心として、交通事故被害者等に対して、捜査への支障の有無等を勘案しつつ、できる限り、交通事故事件の概要、捜査経過、被疑者の検挙や運転免許の停止・取消処分等に関する情報を提供するよう努めている。

また、交通事故被害者等に対して、「被害者の手引」等を活用して、刑事手続の流れ、交通事故によって生じた損害の賠償を求める手続、ひき逃げ事件や無保険車両による交通事故の被害者に国が損害を填補する救済制度、各種相談窓口等について説明を行うとともに、交通事故被害者等からの要望を聴取するなど、その心情に配慮した相談活動を推進している。

さらに、都道府県警察本部の交通事故事件捜査担当課に配置され、交通事故被害者等への連絡を総括する被害者連絡調整官等を効果的に運用し、組織的かつ適切な交通事故被害者等の支援を推進するとともに、交通事故被害者等の心情に配意した適切な対応がなされるよう交通捜査員等に対する教育を強化している。

このほか、交通事故被害者等が深い悲しみやつらい体験から立ち直り、回復に向けて再び歩み出すことができるよう、交通事故被害者等の権利及び利益の保護を図ることを目的とする交通事故被害者サポート事業が、28年に内閣府から警察庁に業務移管され、同事業の一環として、交通事故被害者等の支援に携わる関係者の意思疎通を図るための意見交換会等を開催している。

注1:交通事故事件の被害者及びその家族又は遺族

注2:平成28年4月に第3次犯罪被害者等基本計画が閣議決定されたことを受け、32年度末までの5年間において、警察庁が講ずるべき具体的な取組内容等について定められている。

注3:犯罪被害者等に捜査状況等を確実に連絡するために制定されたもので、連絡対象となる事件、連絡内容等について定めている。



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