第3章 サイバー空間の安全の確保

第3章 サイバー空間の安全の確保

第1節 サイバー空間の脅威

1 サイバー空間をめぐる脅威の情勢

インターネットが国民生活や社会経済活動に不可欠な社会基盤として定着し、今や、サイバー空間は国民の日常生活の一部となっている。こうした中、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等のサイバー犯罪(注1)が多発しているほか、重要インフラの基幹システムを機能不全に陥れ、社会の機能を麻痺させるサイバーテロ(注2)や情報通信技術を用いて政府機関や先端技術を有する企業から機密情報を窃取するサイバーインテリジェンス(サイバーエスピオナージ)といったサイバー攻撃が世界的規模で頻発するなど、サイバー空間における脅威は深刻化している状況にある。

注1:高度情報通信ネットワークを利用した犯罪やコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪等の情報技術を利用した犯罪
注2:18頁参照
 
図表3-1 サイバー空間をめぐる脅威
図表3-1 サイバー空間をめぐる脅威

(1)サイバー犯罪の検挙状況

平成27年中のサイバー犯罪の検挙件数は8,096件と、前年より191件(2.4%)増加した。

不正アクセス禁止法(注)違反の検挙件数は373件と、前年より9件(2.5%)増加した。また、検挙人員は173人と、前年より3人(1.8%)増加した。

刑法に規定されているコンピュータ又は電磁的記録を対象とした犯罪及び不正指令電磁的記録に関する罪(いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪)の検挙件数は240件と、前年より48件(25.0%)増加した。このうち、コンピュータ・ウイルスに関する罪の検挙件数は45件であった。

ネットワーク利用犯罪の検挙件数は7,483件と、前年より134件(1.8%)増加した。

注:不正アクセス行為の禁止等に関する法律
 
図表3-2 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成23~27年)
図表3-2 サイバー犯罪の検挙件数の推移(平成23~27年)
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(2)サイバー攻撃の情勢

① サイバーテロの情勢

情報通信技術が浸透した現代社会において、 重要インフラの基幹システムに対する電子的攻撃はインフラ機能の維持やサービスの供給を困難とし、国民の生活や社会経済活動に重大な被害をもたらすおそれがある。我が国では、これまでサイバーテロは発生していないが、海外では、不正プログラムによって金融機関のシステムや原子力関連施設の制御システムの機能不全を引き起こす事案が発生している。

サイバーテロに用いられる手口としては、セキュリティ上のぜい弱性を悪用するなどして攻撃対象のコンピュータに不正に侵入するもの、不正プログラムに感染させることにより管理者や利用者の意図しない動作をコンピュータに命令するものなどがある。

② サイバーインテリジェンスの情勢

近年、情報を電子データの形で保有することが一般的となっている中、軍事技術への転用も可能な先端技術や、外交交渉における国家戦略等の機密情報の窃取を目的として行われるサイバーインテリジェンスの脅威が、世界各国で問題となっている。

サイバーインテリジェンスに用いられる手口としては、市販のウイルス対策ソフトでは検知できない不正プログラムを添付して、業務に関連した正当なものであるかのように装った電子メールを送信し、これを受信したコンピュータを不正プログラムに感染させるなどして、情報の窃取を図る標的型メール攻撃が代表的である。また、我が国に対するテロの脅威が現実のものとなっていることを踏まえると、物理的なテロの準備行為として、重要インフラ事業者等のシステムに侵入し警備体制に関する情報を窃取するなどのサイバーインテリジェンスが行われるおそれがある。

また、このほかにも、対象組織の職員が頻繁に閲覧するウェブサイトを改ざんし、当該サイトを閲覧したコンピュータに不正プログラムを自動的に感染させる手口による水飲み場型攻撃も発生するなど、その手口はますます巧妙化・多様化している。

 
図表3-3 サイバーインテリジェンスの手口
図表3-3 サイバーインテリジェンスの手口

事例

平成27年6月、アメリカの政府職員の個人情報を管理する米国連邦人事管理局は、サイバー攻撃により、政府職員等に関する氏名、住所、社会保障番号等の個人情報420万人分が流出したと発表した。

さらに、同年7月、その後の調査の結果、政府職員等約2,150万人分の個人情報が流出していたことが新たに判明した。

事例

27年6月、日本年金機構に対するサイバー攻撃により、同機構が保有する個人情報の一部が流出したことが判明した。また、同事案の発生が判明した後、我が国の複数の機関、団体、民間企業等において、同種の被害が発生していたことが明らかとなった。



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