第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 子供の安全を守るための取組

(1)子供を犯罪から守るための取組

① 子供が被害者となる犯罪

13歳未満の子供が被害者となった刑法犯の認知件数(以下「子供の被害件数」という。)は、図表2-64のとおりである。子供の被害件数は、平成14年以降は減少傾向にあり、27年中は2万106件と、前年より4,601件(18.6%)減少した。全被害件数に占める子供の被害件数の割合の高い罪種についてみると、27年中は略取誘拐が43.8%(全被害件数192件のうち84件)、強制わいせつが13.0%(全被害件数6,755件のうち881件)であった。

 
図表2-64 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成18~27年)
図表2-64 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成18~27年)
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② 子供の生活空間における安全対策

警察では、子供を犯罪から守るための取組として、学校や通学路等の安全対策、被害防止教育の推進等(注)のほかに次のような対策を行っている。

注:45頁参照
ア 情報発信活動の推進

警察では、子供が被害に遭った事案等の発生に関する情報を子供や保護者に対して迅速に提供できるよう、警察署と教育委員会、小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報発信を行うなど、地域住民に対する情報提供を実施している。

イ ボランティアに対する支援

警察では、「子供110番の家」として危険に遭遇した子供の一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を支援している。

③ 子供女性安全対策班による活動の推進

警察では、21年4月、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の事案に関する情報収集、分析等により行為者を特定し、検挙又は指導・警告等の措置を講ずる子供女性安全対策班(JWAT(注))を警視庁及び道府県警察本部に設置した。これにより、従来の検挙活動等に加え、これらの先制・予防的活動を積極的に推進していくことによって、子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Teamの略
④ 子供対象・暴力的性犯罪出所者の再犯防止措置制度の強化

警察では、13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役して出所した者について法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、その出所者の所在確認を実施している。また、23年4月からは、必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど、再犯防止に向けた措置の強化を図っている。

(2)児童虐待対策

① 検挙・通告の状況

平成27年中の検挙件数は785件、検挙人員は811人と、統計をとり始めた11年以降、過去最多となった。近年の態様別検挙件数をみると、身体的虐待が全体の7割以上を占めている。

また、児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は年々増加し、27年中は過去最多となった。態様別では、特に心理的虐待の増加が著しく、同年中は2万4,159人と全体の6割以上を占めている。

 
図表2-65 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成23~27年)
図表2-65 児童虐待事件の態様別検挙件数の推移(平成23~27年)
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図表2-66 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成23~27年)
図表2-66 警察から児童相談所に通告した児童数の推移(平成23~27年)
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② 関係機関と連携した取組

児童を迅速かつ適切に保護するためには、関係機関がそれぞれの専門性を発揮しつつ、連携して対処することが重要となる。警察では、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した際の児童相談所への確実な通告の実施、通告に際しての事前照会の徹底等、児童相談所等との情報共有を図るとともに、必要に応じて地域の要保護児童対策地域協議会(注)に参加するなど、関係機関との緊密な連携を保ちながら、児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じている。

注:児童福祉法第25条の2において、地方公共団体は、単独で又は共同して、要保護児童の適切な保護又は要支援児童若しくは特定妊婦への適切な支援を図るため、関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者により構成される要保護児童対策地域協議会を置くように努めなければならないとされている。

事例

27年11月、「男女が児童に火のついたタバコをくわえさせ吸引させている内容の動画がインターネット上に投稿されている」旨の通報が警察や児童相談所に寄せられたことを受け、関係する3県警察が、児童相談所と連携の上、迅速に対応し、児童を同所で一時保護するとともに、実父(24)らを暴力行為等処罰ニ関スル法律違反(集団的暴行)で逮捕した(愛知・栃木・岐阜)。

(3)いじめ事案への対応

近年のいじめ(注)に起因する事件数は図表2-67のとおりであり、27年は200件であった。また、同年中の検挙・補導人員は331人であり、その約6割を中学生が占めている。

警察では、いじめ防止対策推進法の趣旨に基づき、少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、把握したいじめ事案の重大性及び緊急性、被害少年及びその保護者等の意向、学校等の対応状況等を踏まえ、学校等と緊密に連携しながら、的確な対応を推進している。

注:平成25年以降の数値は、「いじめ」の定義を、25年6月に制定されたいじめ防止対策推進法第2条に定める「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としている。また、24年以前の数値は、「いじめ」の定義を「単独又は複数で、単数又は複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃又は言動による脅し、いやがらせ、無視等の心理的圧迫を一方的に反復継続して加えることにより苦痛を与えることをいい、暴走族等非行集団間における対立抗争に起因する事件を含まないもの」としている。
 
図表2-67 いじめに起因する事件の事件数と検挙・補導状況の推移(平成23~27年)
図表2-67 いじめに起因する事件の事件数と検挙・補導状況の推移(平成23~27年)
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図表2-68 警察によるいじめ事案への対応
図表2-68 警察によるいじめ事案への対応

(4)少年(注)の福祉を害する犯罪への対策と有害環境対策

注:20歳未満の者
① 少年の福祉を害する犯罪への対策

福祉犯(注)の被害少年数は図表2-69のとおりであり、平成23年以降は減少しているが、スマートフォン等の普及により、インターネットの利用に起因する福祉犯が発生するなど、深刻な状況にある。

被害少年を早期に発見・保護するとともに、新たな被害を発生させないため、警察では積極的な取締りと被害少年に対する支援のほか、インターネット上の援助交際を求めるなどの不適切な書き込みをサイバーパトロールによって発見し、書き込みを行った児童と接触して直接注意・指導するサイバー補導を推進している。

注:少年の心身に有害な影響を与え、少年の福祉を害する犯罪をいう。例えば、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務等)等が挙げられる。
 
図表2-69 福祉犯の検挙件数等の推移(平成23~27年)
図表2-69 福祉犯の検挙件数等の推移(平成23~27年)
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ア 悪質性の高い福祉犯

近年、出会い系サイト等を利用して児童買春の周旋を行う事犯や、性を売り物とする営業に児童を従事させる事犯等、児童の心身に有害な影響を与える事犯が発生しており、中には、暴力団の資金獲得活動として行われる場合もある。このような悪質性の高い福祉犯に対して、警察では、実態の把握と情報の分析、積極的な取締り等を推進している。

事例

27年9月、暴力団組員の男(20)らは、出会い系サイトで客を募り、家出中の少女(17)を引き合わせて売春をさせた。同年12月、男ら2人を児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)等で逮捕した(神奈川)。

事例

27年2月、「作業所」と名のる店舗を経営する男(41)らは、少女(17)を雇い入れ、客に下着を見せながら折り紙をさせるなどの業務に就かせた。同年5月、男ら3人を労働基準法違反(有害業務の就業制限)で逮捕した(警視庁)。

イ 児童ポルノ

児童ポルノ事犯は近年増加傾向にあり、27年中の児童ポルノ事犯の検挙件数は1,938件、検挙人員は1,483人、被害児童(注)数は905人と、いずれも過去最多となった。児童ポルノ事犯の約5割は、新たな被害児童を生む製造事犯であり、また小学生以下の被害児童のうち、約5割が強姦・強制わいせつの手段により児童ポルノ製造の対象とされているなど、児童ポルノをめぐる情勢は引き続き深刻な状態にある。

注:児童ポルノ事犯の検挙を通じて、新たに特定された被害児童

コラム 内閣官房からの児童の性的搾取等に係る対策に関する業務の移管について

児童の性的搾取等(注)に係る対策に関する業務については、被害児童の権利を擁護するとともに、児童の性的搾取等を撲滅させるべく、関係府省庁が緊密な連携協力を図った上で、政府全体で推進する必要があるところ、平成28年4月以降、その対策に関する企画・立案及び関係府省庁間の総合調整の業務を内閣官房に代わり、国家公安委員会が行うこととなった。

移管後は、国家公安委員会委員長を議長とする関係府省庁による連絡会議等において、児童の性的搾取等に係る総合的な対策を検討している。

注:児童に対する性的搾取(児童に対し、自己の性的好奇心を満たす目的又は自己若しくは第三者の利益を図る目的で、児童買春、児童ポルノの製造その他の児童に性的な被害を与える犯罪行為をすること及び児童の性に着目した形態の営業を行うことにより児童福祉法第60条に該当する行為をすること並びにこれらに類する行為をすることをいう。)及びその助長行為(児童買春の周旋、児童買春等目的の人身売買、児童の性に着目した形態の営業のための場所の提供及び児童ポルノの提供を目的としたウェブサイトの開設等をいう。)

警察では、このような情勢を踏まえ、25年5月の犯罪対策閣僚会議で取りまとめられた「第二次児童ポルノ排除総合対策」等に基づき、関係機関・団体等と緊密な連携を図りながら、低年齢児童を対象とした児童ポルノ愛好者グループ等に対する取締りの強化、国内サイト管理者等に対する児童ポルノ画像の削除依頼、被害児童に対する支援等を推進している。

また、警察庁では、国際会議への参加や、東南アジア各国の捜査官等を招いた児童の商業的・性的搾取犯罪対策に関する会議の開催等により、国際捜査協力や情報交換の強化に努めている。さらに、プロバイダによる閲覧防止措置(ブロッキング)について、アドレスリスト作成管理団体に情報提供や助言を行うなどの流通・閲覧防止対策を推進している。

なお、26年7月、児童買春・児童ポルノ禁止法における自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等の禁止についての罰則が新設され、27年7月15日から同年末までの検挙件数は17件(注)となっている。

注:児童買春・児童ポルノ禁止法第7条第1項に係るものに限る。
 
図表2-70 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成23~27年)
図表2-70 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成23~27年)
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事例

児童ポルノ愛好者グループのメンバーである地方公務員の男(31)らは、インターネット上の掲示板等を通じて知り合い、互いに児童ポルノ画像を提供し合うなどしていた。また、被疑者の中には、女児にわいせつな行為をし、その状況を撮影した者もいた。27年6月までに、同男ら16人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ提供等)等で検挙するとともに、計200万点以上の児童ポルノ画像等を押収した(大分・神奈川・岐阜・大阪・兵庫・広島・宮崎)。

② 少年を取り巻く有害環境の浄化対策

近年、スマートフォン等の普及に伴い、コミュニティサイト等のインターネットの利用に起因する少年の犯罪被害が増加しているほか、繁華街等において少年の性を売り物とする新たな形態の営業が出現しているなど、少年を取り巻く社会環境は深刻な状況にある。

警察では、インターネットの利用に起因する少年の犯罪被害の発生状況を踏まえ、関係機関・団体等と連携し、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、携帯電話事業者等に対するフィルタリング(注)等の普及促進のための要請等の取組を推進している。

また、少年の性を売り物とする新たな形態の営業については、少年の保護と健全育成の観点から、あらゆる警察活動を通じて、各地域の実態の把握に努めるとともに、これらの営業において稼働している女子高校生等に対する補導、立ち直り支援等の取組を推進している。

このほか、少年に有害な商品等を取り扱う店等に対して、少年の健全育成のための自主的措置が促進されるよう指導・要請を行うなど、有害環境の浄化に努めている。

注:インターネット上のウェブサイト等を一定の基準に基づき選別し、青少年に有害な情報を閲覧できなくするプログラムやサービス

事例

兵庫県では、インターネットの安全利用に向け、県警察、知事部局及び教育委員会が、大学や企業等と連携しつつ、「インターネットの利用に起因する非行防止等対策モデル地区」を設けるとともに、小・中学生を対象とする教材等の作成、地域密着型の大学生ボランティアによる情報モラル教室の開催、スマートフォンの安全な使い方等について意見交換等を行う「スマホサミット」の開催等、産学官の連携によるインターネットの安全利用に向けた総合的な対策を推進し、少年のインターネットリテラシーの向上や、地域社会におけるインターネットの安全利用に係る気運の醸成を図っている。

 
地域密着型情報モラル教室記者発表
地域密着型情報モラル教室記者発表
 
大学生ボランティアによる講演
大学生ボランティアによる講演

(5)少年の犯罪被害への対応

警察では、犯罪の被害に遭った少年に対し、少年補導職員(注)を中心としてカウンセリング等の継続的な支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

注:特に専門的な知識及び技能を必要とする活動を行わせるため、その活動に必要な知識と技能を有する警察職員(警察官を除く。)のうちから警視総監又は道府県警察本部長が命じた者で、少年の非行防止や立ち直り支援等の活動において、重要な役割を果たしている。平成28年4月1日現在、全国に約890人の少年補導職員が配置されている。
 
図表2-71 被害少年の支援
図表2-71 被害少年の支援

事例

福井県警察では、被害少年の支援の一環として「体験型立ち直り支援活動」を推進しており、自然体験や制作体験など多様な体験メニューの実施を通じて、被害少年の精神的被害の回復に向けた継続的な支援活動を行っている。



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