第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

第3節 女性・子供を犯罪から守るための取組

1 恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応

(1)現状

恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブルや事件であって、被害者やその親族等(以下「被害者等」という。)に危害が及ぶおそれのある事案(以下「恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案」という。)のうち、ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等(注1)の相談等件数の推移は図表2-58のとおりである。27年中のストーカー事案の相談等件数は4年ぶりに減少したものの、ストーカー規制法(注2)施行後から23年までに比べ、24年以降は高水準で推移している。また、27年中の配偶者からの暴力事案等の相談等件数は、配偶者暴力防止法(注3)の施行以降、最多となった。

注1:平成25年6月に成立した配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴い、26年1月3日以降、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手方からの暴力事案についても計上している。
注2:ストーカー行為等の規制等に関する法律
注3:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
 
図表2-58 ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の相談等件数の推移(平成18~27年)
図表2-58 ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の相談等件数の推移(平成18~27年)
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(2)対策

恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、また、加害者が、被害者等に対して強い危害意思を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいものである。

このため、警察では、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を始めとする人身の安全を早急に確保する必要の認められる事案(以下「人身安全関連事案」という。)に一元的に対処するための体制を確立し、被害者等の安全の確保を最優先に、ストーカー規制法や配偶者暴力防止法その他の法令の積極的な適用による加害者の検挙のほか、被害者等の安全な場所への避難や身辺の警戒、110番緊急通報登録システム(注1)への登録、ビデオカメラや緊急通報装置等の資機材の活用等による被害者等の保護措置等、組織による迅速・的確な対応を推進している。さらに、被害者等からの相談に適切に対応できるよう「被害者の意思決定支援手続」(注2)等を導入している。

注1:あらかじめ電話番号を登録した被害者等から通報があった場合、被害者等からの通報であることが自動表示されるもの
注2:94頁参照
 
図表2-59 ストーカー事案への対応状況の推移(平成23~27年)
図表2-59 ストーカー事案への対応状況の推移(平成23~27年)
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図表2-60 配偶者からの暴力事案等への対応状況の推移(平成23~27年)
図表2-60 配偶者からの暴力事案等への対応状況の推移(平成23~27年)
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① 一元的に対処するための体制の確立

人身安全関連事案に的確に対処するため、警視庁及び道府県警察本部において、事案の認知の段階から対処に至るまで、警察署への指導・助言・支援を一元的に行う生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築した。また、警察署においても、人身安全関連事案への対処を統括する責任者及び事案対処時の要員をあらかじめ指定することにより生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築した。

こうした体制の下、事案認知時において危険性・切迫性を見極めるために、被害者等からの相談対応に当たっては、生活安全部門の担当者と刑事部門の捜査員が共同で聴取するなど、組織による的確な対応を徹底しており、個別の事態に応じて、誘拐事件や立てこもり事件の捜査に関する専門的知識を有した刑事部捜査第一課特殊班や機動力をいかした捜査活動を行う機動捜査隊を積極的に投入している。

 
図表2-61 体制の確立
図表2-61 体制の確立

事例

静岡県警察は、平成27年4月に生活安全部に人身安全対策課を新設するとともに、同課内に被害者等の保護対策、加害者への行政措置及び検挙措置等を支援する現場支援係を増強し、警察署に対する迅速な支援のための取組を強化している。

夫の暴力から逃れるため秘匿避難中の妻(30歳代)に対してつきまとい等をした夫(48)が、26年12月、警察からストーカー規制法に基づく警告を受けたにもかかわらず、その後も当該行為を続けていたことから、静岡県警察では、妻の身辺警戒と夫の検挙に向けた捜査のため、上記現場支援係を警察署に派遣した。27年4月、警戒中の同係が、妻の避難先付近において夫が見張りをしているのを発見し、夫をストーカー規制法違反で現行犯逮捕した。

② 被害者の意思決定支援手続

被害者の意思決定支援手続は、事案の危険性やストーカー規制法等に基づき警察が執り得る措置等を被害者等に図示しながら分かりやすく説明し、被害者等が求める対応についての意思決定を支援するためのものである。警察では、この手続により被害者等の意思を明確にすることで、被害者等と共通認識を持って、より迅速・的確な事案対応を図っている。

 
図表2-62 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等に関する手続の流れ
図表2-62 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等に関する手続の流れ
③ 被害者等の一時避難等に係る公費負担

危険性・切迫性が高い事案の被害者等の安全を確保するため、緊急・一時的に被害者等を避難させる必要がある場合に、ホテル等の宿泊施設を利用するための費用について、公費で負担することとしている。

④ 関係機関・団体と連携したストーカー対策

実効性のあるストーカー対策を行うためには、社会全体での取組が必要である。警察庁では、27年3月にストーカー総合対策関係省庁会議が策定したストーカー総合対策、同年12月に閣議決定された「第4次男女共同参画基本計画」等に基づき、関係機関・団体と連携して、ストーカー被害防止のための広報啓発、加害者に関する取組等を推進している(注)

注:44頁参照
⑤ いわゆるリベンジポルノ等への対応

近年、交際中に撮影した元交際相手の性的画像等を、撮影対象者の同意なくインターネット等を通じて公表する行為(いわゆるリベンジポルノ等)により、被害者が多大な精神的苦痛を受ける事案が発生している。このような状況を受け、26年11月、第187回国会において、私事性的画像被害防止法(注1)が成立し、同年12月から全面施行された。

27年中の私事性的画像に係る相談等の件数(注2)は1,143件であった。このうち、被害者と加害者の関係については、交際相手(元交際相手を含む。)が63.4%であったが、インターネット上のみの関係にある知人・友人についても11.4%を占めており、また、被害者の年齢については、20歳代が38.0%、19歳以下が19.5%を占めている。さらに、同法の適用による検挙件数は53件、脅迫罪、児童買春・児童ポルノ禁止法(注3)違反、強要罪等の他法令による検挙件数は250件であった。

警察では、この種事案について、被害者の要望を踏まえつつ、違法行為に対して厳正な取締りを行うとともに、公表された私事性的画像記録の削除のための措置等の迅速な対応を講じている。また、被害防止教育の推進等を通じて、被害の未然防止を図っている。

注1:私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
注2:私事性的画像記録又は私事性的画像記録物に関する相談のうち、私事性的画像被害防止法やその他の刑罰法令に抵触しないものも含む。
注3:児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
 
図表2-63 私事性的画像に係る相談等の状況(平成27年)
図表2-63 私事性的画像に係る相談等の状況(平成27年)
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事例

会社員の男(33)は、27年1月、衣服の一部を着けていない元交際相手の画像等を加工した写真多数を商業施設駐車場に置き、公然と陳列した。同年2月、同男を私事性的画像被害防止法違反(私事性的画像記録物公然陳列)で逮捕した(福島)。

事例

27年8月、女性から、インターネット上に自己の裸の画像が投稿されているとの相談を受理した。画像の拡散防止措置を執るとともに、同年9月、元交際相手の男(41)を私事性的画像被害防止法違反(私事性的画像記録物公然陳列)で逮捕した(鹿児島)。



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