特集 組織犯罪対策の歩みと展望

2 薬物対策

警察では、薬物事犯の取締り、薬物の危険性・有害性に関する広報啓発活動等により、薬物の供給の遮断と需要の根絶を図るなど、総合的な薬物対策を推進している。

(1)薬物の供給の遮断

① 薬物犯罪組織の壊滅に向けた取締り

薬物犯罪の捜査においては、薬物の供給ルートを解明し、薬物乱用者の背後にある薬物犯罪組織を壊滅することが重要である。警察では、通信傍受等の組織犯罪の取締りに有効な捜査手法の積極的な活用を推進しているほか、密売人等についてより重い処罰がなされるよう、麻薬特例法の規定に基づき、業として行う密輸・密売等の検挙を推進している。また、薬物犯罪組織に資金面から打撃を与えるため、麻薬特例法を活用し、マネー・ローンダリング事犯の検挙及び薬物犯罪収益の没収・追徴を徹底している。

② 国境を越えて行われる薬物の不正取引への対策

我が国で乱用されている薬物の大半が海外から流入していることなどから、薬物対策を推進するに当たっては、国内外の関係機関と連携した取組が重要である。警察では、乱用薬物の流入を水際で阻止するため、税関、海上保安庁等の関係機関との連携を強化しているほか、捜査員の派遣、国際会議への参加を通じた情報交換等による国際捜査協力を推進している。平成27年2月には、警察庁のODA事業として、32の国・地域及び2国際機関の参加を得て、第20回アジア・太平洋薬物取締会議を東京都で開催し、薬物情勢、捜査手法及び国際協力に関する討議を行った。

 
第20回アジア・太平洋薬物取締会議
第20回アジア・太平洋薬物取締会議
③ インターネットを利用した薬物密売事犯対策(注)

インターネットの利用により、不特定多数の者に対する薬物の密売が容易となっていることから、警察では、サイバーパトロールやインターネット・ホットラインセンター(IHC)からの通報等によりインターネット上の薬物密売情報を収集し、その取締りを徹底している。また、ウェブサイトや電子掲示板に薬物密売関連情報を掲載した者等に対して薬物の密売や広告、これらの幇助(ほうじょ)に関する罪を適用するなど、インターネット上で薬物密売・乱用を助長する行為に対しても、厳正に対処している。さらに、薬物関連の違法・有害情報についてIHC等を通じた削除要請を行っており、特に、インターネットを利用した薬物密売事犯を検挙した場合には、サイト管理者等に対して警告及び再発防止指導等を行っている。

注:134頁参照

(2)薬物の需要の根絶

薬物の需要の根絶を図るためには、社会全体に、薬物を拒絶する規範意識が堅持されていることが重要である。警察では、薬物乱用者を厳しく取り締まるとともに、広報啓発活動を行い、社会全体から薬物乱用を排除する気運の醸成を図っている。特に、若年層における薬物乱用を防止するため、薬物乱用の弊害等について記載したパンフレットを作成し、全国の学校等に配布しているほか、文部科学省と連携し、全国の中学校・高等学校において開催されている薬物乱用防止教室に講師を派遣するなどしている。また、薬物事犯で検挙された者やその家族等の希望に応じて、薬物乱用防止のための相談先等を記載した資料を配付するなど、薬物再乱用防止に向けた相談活動の充実を図っている。

(3)危険ドラッグ対策

危険ドラッグの乱用者による重大な交通死亡事故が発生するなど、危険ドラッグが深刻な社会問題となっていることを受け、平成26年7月、関係閣僚らが出席する薬物乱用対策推進会議において、危険ドラッグの実態把握の徹底とその危険性についての啓発強化等を内容とする「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策(注)」が策定された。これを受けて、警察では、関係機関と緊密な連携を図りながら、政府一体となって各種対策を推進している。

注:26年7月に策定された「「脱法ドラッグ」の乱用の根絶のための緊急対策」が同年8月に一部改正されたもの。「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」となった。
① 危険ドラッグの販売・流通ルートの壊滅に向けた取組

危険ドラッグは、繁華街等で販売され、簡単に入手できる状態にあったことから、警察では、厚生労働省等と連携した一斉合同立入等による危険ドラッグの販売店舗の実態把握や指導・警告を実施するとともに、危険ドラッグの販売店舗や製造拠点に対する突き上げ捜査を徹底してきた。その結果、26年3月末現在215店舗であった危険ドラッグの販売店舗が、27年4月末現在では2店舗にまで減少する(注1)など、対策の成果がみられつつある。

また、警察では、危険ドラッグの原料となる物質の国内への流入を阻止するため、関係機関との連携を強化するとともに、外国の取締機関との情報交換を実施し、水際対策の強化を図っている。26年10月には、第38回アジア・太平洋薬物取締機関長会議(注2)に参加し、危険ドラッグ対策の国際的な取組の必要性等について議論した。

さらに、危険ドラッグがインターネットを利用して販売されており、その供給ルートの潜在化が懸念される状況にあることから、警察では、IHCの運用ガイドラインの見直しを関係者に対して要請し、必要な情報提供を行った。その結果、26年10月、同ガイドラインが改訂され、インターネット上の危険ドラッグに関する広告が違法情報・有害情報に追加された(注3)

注1:厚生労働省の調査による。
注2:国連麻薬委員会アジア・太平洋地域の地域別会合であり、地域内諸国・地域の薬物取締機関の代表が参加するもの
注3:134頁参照。なお、IHCの運用ガイドラインは、26年12月の医薬品医療機器法の一部改正を受けて、27年4月に再度改訂され、違法情報・有害情報に当たる危険ドラッグの広告の対象が拡大された。
② 危険ドラッグの乱用者の徹底的な取締りと広報啓発活動の強化

危険ドラッグについては、薬事法(現・医薬品医療機器法)が改正され、26年4月から、指定薬物の単純所持、使用等が禁止された。警察では、危険ドラッグの需要を根絶するため、同法を始めとする各種法令を駆使して危険ドラッグの乱用者の取締りを徹底するとともに、危険ドラッグの影響によるとみられる異常な運転行為やこれに伴う事故については、厳正な取締り・交通事故事件捜査を推進している。また、危険ドラッグは、合法ハーブ等と称して販売されている一方で、乱用すれば死に至ることもあるなど、非常に危険な薬物であることから、警察では、危険ドラッグの危険性についての少年向けの教材を作成し、薬物乱用防止教室等で活用しているほか、各種交通安全活動においても、乱用の拡大防止に向けた広報啓発活動を強化している。

 
危険ドラッグの危険性についてのビデオ教材(大阪府警)
危険ドラッグの危険性についてのビデオ教材(大阪府警)
③ 関係機関との緊密な連携

我が国では、麻薬や指定薬物に化学構造が類似する特定の物質群を医薬品医療機器法における指定薬物として包括的に指定することなどにより、危険ドラッグを法の規制の対象としている。また、26年12月には、同法が改正され、危険ドラッグの販売店舗等に対する厚生労働大臣等による検査命令・販売等停止命令の対象物品の拡大、危険ドラッグの広告規制の拡充等が行われた。警察では、指定薬物等の化学構造をわずかに変えることにより、規制が及ばない新たな危険ドラッグが次々と出現している状況や、インターネット上に危険ドラッグの広告が氾濫している状況を踏まえ、関係機関において適切な対応がなされるよう、捜査等を通じて把握した危険ドラッグの情報を関係機関と共有している。



前の項目に戻る     次の項目に進む