第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

3 構造的な不正事案への対策

(1)政治・行政をめぐる不正事案対策

地方公共団体の首長や職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法(注)違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。

しかし、この種事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、被害申告や目撃者の証言等が通常は期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。

警察では、この種事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。第47回衆議院議員総選挙(平成26年12月14日施行)における選挙期日後90日現在(27年3月14日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は87件、検挙人員は105人(うち逮捕者は20人)であった。

注:入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律
 
図表2-35 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成17~26年)
図表2-35 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成17~26年)
Excel形式のファイルはこちら

事例

元南島原市長(67)らは、24年8月頃から25年9月頃までの間、数回にわたり、電気設計等を業とする会社役員らから、同市が発注するポンプ場施設整備工事等の受注に関して、職務上不正な行為をしたことの謝礼として、現金合計約1,300万円を収受した。26年7月、同市長ら2人を加重収賄罪で逮捕した(長崎)。

事例

福岡県川崎町長(66)らは、25年10月頃及び同年11月頃の2回にわたり、測量・設計等を業とする会社役員から、同町が発注する改良住宅改善測量・造成設計等業務委託の受注に関して、職務上不正な行為をしたことの謝礼として、現金合計800万円を収受した。26年9月、同町長ら3人を加重収賄罪等で逮捕した(福岡)。

(2)経済をめぐる不正事案対策

企業の役職員らが企業の内部統制を逸脱したことによる違法事犯のほか、最近の経済状況を背景として、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、証券市場を舞台とした証券の発行や取引に関連した事犯が後を絶たない状況にある。また、国の補助金や生活保護費等の不正受給事犯も相次いで発生している。

警察では、これら企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、金融事犯及びその他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。

これらの不正の背景には、企業や業界を取り巻く利権に絡む構造的な不正や反社会的勢力等の介在も見られることから、その摘発を図ることが課題となっている。

このような犯罪の捜査では、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察において、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

 
図表2-36 金融・不良債権関連事犯の検挙件数の推移(平成17~26年)
図表2-36 金融・不良債権関連事犯の検挙件数の推移(平成17~26年)
Excel形式のファイルはこちら

事例

NPO法人の元代表理事(35)らは、震災等緊急雇用対応事業委託契約に基づく委託料を業務上預かり保管中、自己らの用途に費消する目的で、平成23年11月頃から24年11月頃にかけて、合計約5,300万円を横領した。26年2月、同元代表理事ら5人を業務上横領罪で逮捕した(岩手)。

事例

婦人服輸入販売会社の元代表取締役(57)らは、同元代表取締役が経営する他社の利益を図る目的で、任務に背き、貸付金の回収が困難となり、損害を与えることを認識しながら、貸付金の回収を確保するための措置を講ずることなく、21年1月頃から24年5月頃にかけて、当該他社に対し合計約6億4,900万円を貸し付け、もって財産上の損害を与えた。26年5月、同元代表取締役ら2人を会社法違反(特別背任)で逮捕した(警視庁)。

事例

東証一部上場の機械器具販売会社の元営業部長(56)らは、真実は同社が発注した設置工事等の注文が架空であるにもかかわらず、これらが存在するかのように装って、発注先の会社から内容虚偽の請求書を郵送させ、20年1月頃から21年8月頃にかけて、約束手形13通を発行させるなどして、額面金額合計約2,200万円をだまし取った。26年10月、同元営業部長ら3人を詐欺罪で逮捕した(大阪)。



前の項目に戻る     次の項目に進む