2 国民の財産を狙う事犯への対策
(1)財産犯の被害額の罪種別状況
財産犯(注)の被害額の推移は、図表2-15のとおりである。財産犯の被害総額は平成14年以降減少傾向にあるが、24年以降、特殊詐欺等による現金の被害額が増加傾向にある。
財産犯の被害額の罪種別状況は、図表2-16のとおりである。26年は詐欺の被害額が約846億2,700万円(46.5%)と最も多かった。
(2)特殊詐欺の現状
振り込め詐欺(オレオレ詐欺(注1)、架空請求詐欺(注2)、融資保証金詐欺(注3)及び還付金等詐欺(注4))を始めとする特殊詐欺(注5)の認知件数・被害総額の推移は、図表2-17のとおりである。
特殊詐欺全体の認知件数及び被害総額は、振り込め詐欺以外の特殊詐欺を振り込め詐欺と共に集計することとした平成22年以降、増加を続けている。特に、被害総額については、振り込め詐欺の中でも1件当たりの被害額が大きくなりがちな、現金を宅配便等で送付する「現金送付型」の架空請求詐欺の多発により、過去最高となった。
注2:架空の事実を口実に金品を請求する文書を送付して、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
注3:融資を受けるための保証金の名目で、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
注4:市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺(平成18年6月に初めて認知された。)
注5:被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝を含む。)の総称であり、振り込め詐欺のほか、金融商品等取引名目、ギャンブル必勝情報提供名目、異性との交際あっせん名目等の詐欺がある。
(3)特殊詐欺を撲滅するための取組
警察では、依然として大きな被害が発生しているこれらの特殊詐欺を撲滅するための取組を推進している。
① 警察の総力を挙げた取締活動の推進
都道府県警察では、高齢者を標的とした特殊詐欺に重点を置き、部門横断的な集中取締体制の構築等により、検挙の徹底を図っている。また、警察庁では、集約した情報を都道府県警察に還元し、戦略的な取締活動を推進するとともに、都道府県警察間の合同・共同捜査を積極的に推進している。
また、架空・他人名義の携帯電話や預貯金口座等が特殊詐欺に利用されていることから、これらの流通を遮断し、犯行グループの手に渡らないようにするため、預貯金口座を売買するなどの特殊詐欺を助長する行為についても、関係法令を駆使して取締りに当たっている。
② 国民から寄せられた情報による先制的抑止措置の推進
警察では、110番通報のほか、警察相談専用電話(全国統一番号「#(シャープ)9110」番(注1))、専用メールアドレス等の様々な窓口を通じて、特殊詐欺に関する相談や情報を幅広く受け付けており、平成27年4月からは、匿名通報ダイヤル(注2)で特殊詐欺に関する情報を受け付けることとした。また、国民から寄せられた情報を活用し、携帯電話事業者に対する犯行に利用された携帯電話の契約者確認の求め、金融機関に対する振込先指定口座の凍結依頼等による犯行ツールの無力化等を実施するほか、「だまされた振り作戦(注3)」による犯人の検挙を推進している。さらに、犯行に悪用された私設私書箱の住所等が記載されたリストを警察庁ウェブサイトに掲載し、広く注意を呼び掛けており、郵便・宅配事業者においては、同リストを活用して、被害金が入った宅配便等の発見や警察への通報を行っている。
注2:警察庁の委託を受けた民間団体が、国民から一定の犯罪等に関する匿名の通報を電話又はインターネットにより受け付け、事件検挙等への貢献度に応じて通報者に情報料を支払う制度。電話番号は、0120-924-839(平日午前9時30分から午後6時15分まで受付)
注3:特殊詐欺の電話等を受け、特殊詐欺であると見破った場合に、だまされた振りをしつつ、犯人に現金等を手渡しする約束をした上で警察へ通報してもらい、自宅等の約束した場所に現れた犯人を検挙する、国民の積極的かつ自発的な協力に基づく検挙手法
③ 官民一体となった予防活動の推進
ア 広報啓発活動の推進
特殊詐欺の被害を防止するためには、国民の犯罪に対する「抵抗力」を高めていくことが重要である。このため、警察では、様々な機会を通じて、その手口や被害に遭わないための注意点等の情報を積極的に国民に対して提供しているほか、戸別訪問等の直接的・個別的な働き掛けを推進している。
広島県警察による被害防止キャンペーンの状況
イ 関係機関・団体等との連携
被害金を犯人が利用する預貯金口座に振り込む「振込型」による被害が多発しているほか、宅配便等で送付する「現金送付型」による被害が急増している。このため、警察では、金融機関や日本証券業協会、宅配事業者等の関係機関・団体等との連携を強化し、被害防止キャンペーンの実施等、官民一体となった予防活動を推進している。
コラム 被害者を取り巻く様々な方面からの被害防止
特殊詐欺の被害金の多くがATMや金融機関窓口を利用して送金又は出金されていることから、金融機関職員等による顧客への声掛けは、被害防止のために極めて重要である。警察では、声掛けをする際に顧客に示すチェックリスト(注)の提供、金融機関等の職員と共同で行う訓練等により声掛けを促進している。
さらに、コンビニエンスストアや宅配事業者に対して現金が入っていると疑われる荷物の発見、通報等を依頼するなど、被害者を取り巻く様々な方面からの被害防止を図っている。
京都府警察による金融機関における声掛け訓練の状況
(4)侵入窃盗対策
侵入窃盗の認知・検挙状況の推移は、図2-21のとおりである。ピーク時である平成14年(33万8,294件)以降減少傾向にあり、同年から26年にかけて、侵入窃盗の認知件数は24万4728件(72.3%)減少した。
警察庁、経済産業省、国土交通省及び建物部品関連の民間団体から成る「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」では、16年4月から、侵入までに5分以上の時間を要するなど一定の防犯性能があると評価した建物部品(CP部品)を掲載した「防犯性能の高い建物部品目録」をウェブサイトで公表するなどして、CP部品の普及に努めており、目録には27年3月末現在で17種類3,277品目が掲載されている。さらに、警察庁のウェブサイトに「住まいる防犯110番」(注)を開設し、侵入犯罪対策の広報を推進している。
CPマーク
CP部品だけが表示できる共通標章でCrime Prevention(防犯)の頭文字を図案化したもの
(5)侵入強盗対策
侵入強盗の認知・検挙状況の推移は、図2-22のとおりである。平成21年にコンビニ強盗の認知件数が前年比で大きく増加したことなどから、同年には侵入強盗の認知件数が増加に転じたものの、ピーク時である15年(2,865件)以降、減少傾向にある。
警察では、コンビニエンスストアや金融機関等を対象とした強盗対策として、防犯体制、現金管理の方法、店舗等の構造、防犯設備等について基準を定め、警察官の巡回や機会を捉えた防犯訓練等を実施している。
(6)自動車盗対策
自動車盗の認知・検挙状況の推移は、図2-23のとおりである。ピーク時である平成15年(6万4,223件)以降、自動車盗の認知件数は減少傾向にあるが、車両別被害件数をみると、近年、貨物自動車(トラック、ライトバン等)の占める割合が上昇傾向にある。
警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省及び民間19団体から成る「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、「自動車盗難等防止行動計画」(14年1月策定、25年12月改定)に基づき、イモビライザ(注)等の盗難防止機器の普及促進、自動車の使用者に対する防犯指導、広報啓発等を推進している。
コラム 地域の実情に応じた自動車盗対策
全国に約2,100か所存在するヤード(注)のうち約2割以上が存在する千葉県では、近年、一部のヤードにおいて、自動車部品由来の油等による環境汚染、盗難自動車等の不正に取得された自動車の部品の保管等が行われている状況に鑑み、生活環境の保全と平穏な生活の確保を図ることを目的として、千葉県特定自動車部品のヤード内保管等の適正化に関する条例を制定し、平成27年4月から施行した。同条例では、特定自動車部品のヤード内保管等を行おうとする者の県知事への事前届出、原動機を受け取ろうとする際の相手方の確認、取引記録の作成、立入検査の際の警察への援助要請等が規定されており、これにより、ヤードにおける不正な行為の抑止等の効果が期待されている。
(7)万引き対策
万引きの認知・検挙状況の推移は、図2-24のとおりである。万引きの認知件数は、平成22年以降減少傾向にあるものの、刑法犯認知件数に占める万引きの認知件数の割合は上昇傾向にあり、26年中は10.0%に達している。また、万引きの検挙人員全体に占める高齢者(注)の割合が上昇傾向にあり、26年中は35.1%であった。
警察では、万引きを許さない社会気運の醸成や規範意識の向上を図るため、関係機関・団体等と連携した広報啓発活動を行うなど、社会を挙げた万引き防止に向けた取組を推進している。
京都府警察万引き防止ポスター
(8)ひったくり対策
ひったくりの認知・検挙状況の推移は、図2-25のとおりである。ひったくりの認知件数は、平成14年(5万2,919件)をピークに12年連続で減少しており、26年中は6,201件と、ピーク時の8分の1以下にまで減少した。
警察では、ひったくり事件の発生状況や手口を分析して、ひったくりの被害防止に効果のあるかばんの携行方法や通行方法等について指導啓発を行っているほか、関係機関・団体等と協力し、自転車用のひったくり防止カバー等の普及を促進するなどしている。
(9)通貨偽造犯罪対策
① 発見状況
過去10年間の偽造日本銀行券の発見枚数(注)の推移は図表2-26のとおりであり、平成26年中は、前年より増加した。
② 特徴的傾向と対策
最近の偽造日本銀行券の中には、精巧に偽造されたものが発見されている。これは、高性能のプリンタ等が一般に普及したためと考えられる。
警察庁では、財務省、日本銀行等と連携して、ポスターやウェブサイトで偽造日本銀行券が行使された事例や偽造通貨を見破る方法を紹介するなどして、国民の注意を喚起している。
事例
会社員の男(43)は、26年6月頃、東京都内において、停車中のタクシー内で運転手に乗車代金の支払いとして偽造一万円券を手渡し、行使した。同年10月、同会社員を偽造通貨行使罪で逮捕した(警視庁・神奈川)。
押収した偽造日本銀行券及びカラープリンタ
(10)カード犯罪対策
過去10年間のカード犯罪(注)の認知・検挙状況の推移は図表2-27のとおりであり、認知件数、検挙件数及び検挙人員は平成18年以降減少傾向であったが、26年中は、前年より増加した。
警察では、早期検挙のため捜査を徹底するほか、口座名義人からキャッシュカード等の盗難・紛失の届出があった場合にカードの利用停止を促すなど、被害の拡大防止に努めている。
(11)悪質商法事犯対策
① 利殖勧誘事犯
利殖勧誘事犯(注)の検挙状況の推移は、図表2-28のとおりである。利殖勧誘事犯の検挙事件数及び検挙人員は、近年増加傾向にある。また、被害者に占める高齢者の割合は依然として高い。平成26年中の検挙事件を類型別にみると、元本保証等をうたって、事業等への投資名下に資金を集める事犯が目立った。
警察では、利殖勧誘事犯を重点的に取り締まるとともに、犯罪に利用された預貯金口座を凍結するための金融機関への情報提供等を推進しており、26年中の情報提供件数は950件であった。
事例
会社役員の男(43)らは、震災復興をうたい文句にして、キノコ類栽培の農業支援名目で投資を勧誘し、元本保証と配当支払いを約して、24年5月から25年5月にかけて、46都道府県の2,454人から合計約17億4,700万円を受け取り、業として預り金をした。このほか、25年4月から9月にかけて、半導体事業への出資を内容とするファンドへの投資を募って10府県の80人から合計約1,900万円を受け取り、無登録で第二種金融商品取引業を営んだ。26年5月までに、同会社役員ら1法人、36人を出資法違反(預り金の禁止)及び金融商品取引法違反(無登録営業)で検挙した。また、強制捜査に先立って金融機関に対し、法人口座2口座の情報提供を行い、合計約1億8,700万円を凍結した(愛媛、宮城、福島、福岡)。
農業支援名目で栽培されたキノコ類等
② 特定商取引等事犯
特定商取引等事犯(注)の検挙状況の推移は、図表2-30のとおりである。前年と比べ、特定商取引等事犯の検挙事件数は、増加したが、検挙人員は減少した。また、26年の検挙事件を類型別にみると、被害者に占める高齢者の割合が高い訪問販売や電話勧誘販売に関連した事犯の検挙が目立った。
事例
会社役員の男(36)らは、25年3月から26年5月にかけて、雑誌等に開運カウンセラーが入念したとする開運ブレスレットの販売広告を掲載した上、購入した客に願い事や悩みを記載させた御札等を送付させ、さらに、電話で「御札を焚き上げたところ、燃え方がおかしい。」「あなたに憑いている邪念を祓えば、金運も上がる。」などとうそを告げて、祭壇作成費用等の名目で、47都道府県の537人から合計約2億4,165万円をだまし取った。26年10月、同会社役員ら4人を詐欺罪で逮捕した(熊本)。
押収した御札等
(12)ヤミ金融事犯対策
ヤミ金融事犯(注1)の検挙状況の推移は図表2-32のとおりである。ヤミ金融事犯のうち、無登録・高金利事犯の検挙事件数及び検挙人員は減少傾向にあるが、ヤミ金融関連事犯(注2)については、増加傾向にある。また、不動産売買等を仮装した新たな手口がみられた。平成26年中に検挙した無登録・高金利事犯に占める暴力団が関与する事犯の割合は、19.9%であった。
警察では、引き続き取締りを推進するほか、犯罪に利用された預貯金口座を凍結するための金融機関への情報提供、ヤミ金融に利用されたレンタル携帯電話の解約についての事業者への要請等の総合的な対策を行っている。26年中の情報提供件数は3万4,705件、レンタル携帯電話事業者への解約要請は3,973件であった。
注2:貸金業に関連した犯罪収益移転防止法違反、詐欺、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(以下「携帯電話不正利用防止法」という。)違反に係る事犯
事例
登録貸金業者の男(44)らは、17年6月から25年6月にかけて、顧客が所有する不動産を買戻し特約付きの条件で買い取り、元金として買取り代金を顧客に交付し、期日には顧客が元利金として買戻し金を支払うなどとして、不動産売買を仮装し、法定利息の約14倍から約114倍で金銭を貸し付け、約74億3,700万円の元利金を受領した。26年1月、男ら1法人、8人を出資法違反(超高金利・脱法行為)で検挙した(警視庁)。
(13)知的財産権侵害事犯対策
① 商標権侵害事犯及び著作権侵害事犯
偽ブランド事犯等の商標権侵害事犯(注1)、海賊版事犯等の著作権侵害事犯(注2)においては、インターネットを利用して侵害行為が行われる場合が多いことから、警察では、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めている。加えて、偽ブランド品については、その広告が掲載されている日本語のウェブサイトを通じて注文を受け付け、外国から国際郵便で日本の購入者に届けられるという形態で密輸入されるものが多いことから、警察では、中国等の外国捜査機関に対し情報を提供し、被疑者の検挙やウェブサイトの削除を要請している。
また、不正商品対策協議会(注3)における活動を始め、権利者等と連携した知的財産権の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。
注2:著作権法違反に係る事犯
注3:昭和61年、不正商品の排除及び知的財産権の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。
事例
衣類販売会社の実質的経営者の男(39)らは、平成25年4月から6月にかけて、インターネット上に設けた販売サイトを通じ、中国から輸入した偽ブランド品の衣類5点を販売し、購入者から約2万7,000円をだましとるなどした。26年4月までに、同男に加え、密輸入をしていた中国人ブローカーら7人を詐欺罪、商標法違反等で検挙した(愛知)。
押収した偽ブランド品の衣類
② 営業秘密侵害事犯
26年中は、企業の保有する技術情報等が、同業他社に転職した元社員によって持ち出される事犯や、システム開発を請け負った他社の社員によって、大量の個人情報が持ち出され、名簿業者に売り渡される事犯等、社会の関心を呼ぶ営業秘密侵害事犯(注)の検挙が目立った。
事例
派遣システムエンジニアの男(39)は、26年6月、2回にわたり、不正の利益を得る目的で、派遣先の会社のサーバコンピュータにアクセスし、同社の営業秘密である顧客情報合計約2,989万件を自己所有のスマートフォンの内蔵メモリに記録させて複製し、営業秘密を領得した。また、当該顧客情報約1,009万件を大容量ファイル送信サービスを使用して、名簿業者に送信し、営業秘密を開示(販売)した。同年8月までに、同派遣システムエンジニアを不正競争防止法違反(営業秘密の領得・開示)で検挙した(警視庁)。