特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

5 大規模災害発生時における交通規制

(1)首都直下地震(東京湾北部地震)発生時の交通規制

 文部科学省地震調査研究推進本部によると、首都直下地震が30年以内に発生する確率は70%程度とされており(平成24年1月公表)、政府の中央防災会議では、首都直下地震が発生した場合には都心部を中心に甚大な被害が発生することが想定されている(16年12月、17年2月公表)。
 
図-16 首都直下地震の被害想定
図-16 首都直下地震の被害想定

 警察庁では、24年3月、首都直下地震発生後速やかに警察、消防、自衛隊等の部隊を派遣したり、水、毛布、食料等の物資を被災地域に輸送することができるよう、関係都県警察と共に広域交通規制計画原案を策定した。
 この案においては、地震発生直後から都心部への車両の流入を禁止するほか、緊急交通路の指定予定路線から一般車両を排除し、道路の安全性を確認した後に、緊急交通路として指定することとしている。
 
図-17 広域交通規制計画原案に基づく緊急交通路の指定予定路線(全体)
図-17 広域交通規制計画原案に基づく緊急交通路の指定予定路線(全体)
 
図-18 広域交通規制計画原案に基づく緊急交通路の指定予定路線(都心)
図-18 広域交通規制計画原案に基づく緊急交通路の指定予定路線(都心)

① 緊急交通路の指定予定路線

 「幅員が広い主要道路であること」、「被災により通行が困難になるおそれがある区域内の道路を避けること」及び「通過交通の排除等実効性が担保できること」を条件に、
 ・ 高速道路等
 ・ 高速道路等が通行不能となった場合の代替路線
 ・ 主要幹線道路(上記の高速道路等と接続する路線)
 ・ 都心部へ流入する幹線道路で、並行する一般道路をう回路として確保できるもの
 ・ 中央防災会議で定められた緊急輸送ルート
 ・ 部隊の進出拠点、物資の集積拠点と高速道路等を結ぶ幹線道路
等から路線を選定した。

② 緊急点検箇所

 緊急交通路の指定予定路線において、橋梁、橋のジョイント部、上方に高架が設置されている箇所、沿線に高層ビルが建ち並んでいる箇所等のうち、橋の段差、建物の崩落等が発生すれば通行不能となることが見込まれるために発災後緊急に点検を行う必要性の高い箇所を選定した。

③ 交通検問所

 緊急交通路の指定予定路線において、緊急通行車両等以外の車両の通行を阻止する必要のある箇所を選定した。
 警察、消防、自衛隊等の活動拠点、主要な港や空港の直近に位置する高速道路等のインターチェンジ(IC)等、緊急通行車両等の通行が多く見込まれるICについては、緊急通行車両等以外の車両の通行を阻止しつつ、可能な限り緊急通行車両確認標章を交付することとした。
 
交通検問所
交通検問所

 今後は、関係方面の意見やこの案に係る訓練の過程で得られた経験等を基に、緊急交通路の指定予定路線等を適宜見直すこととしている。

(2)大規模災害に伴う交通規制実施要領の作成

 警察では、本震災における対応を踏まえ、そのノウハウ・知見をマニュアル化するとともに、効率化・改善方策も盛り込んだ「大規模災害に伴う交通規制実施要領」を策定し、大規模災害発生時の交通対策に万全を期することとした。その基本的な考え方及び通行を認める車両の取扱いについては、次のとおりである。

① 交通規制の基本的考え方

 ・ 大規模災害発生直後は人命救助、災害の拡大防止、政府・自治体・インフラ関係、負傷者搬送等に要する人員・物資輸送を優先(第一段階)
 ・ 緊急交通路として規制する範囲は、道路の交通容量(復旧状況)、交通量等に応じて順次縮小
 ・ 通行を認める車両の範囲も、交通の状況、被災地のニーズ等を踏まえ、優先度を考慮しつつ順次拡大(第二段階)

② 通行を認める民間車両の取扱い

 ・ 緊急通行車両以外で緊急交通路の通行を認める民間事業者の車両について、新たに、本震災の事例も踏まえて例示(医師・医薬品関係車両、重機運搬・道路啓開(道路における障害物の除去)関係車両、燃料輸送関係車両、食料品等輸送大型車等)
 ・ そのうち、医療、重機運搬、道路啓開等に関する車両について、緊急通行車両同様の事前届出を導入
 
図-19 今後の大規模災害発生時の交通規制
図-19 今後の大規模災害発生時の交通規制

 通行を認める車両の取扱い等については、関係方面の意見等を基に適宜見直すこととしている。

 第2節 災害に係る危機管理体制の再構築

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