特集:大規模災害と警察~震災の教訓を踏まえた危機管理体制の再構築~ 

4 原子力災害対策の強化

(1)体制の整備

 本震災における福島第一原子力発電所の事故対応や政府の各種計画の改定を踏まえ、警察では、住民の避難誘導や交通規制等の活動に関する計画の抜本的な見直しを図るほか、原子力災害の発生時には、原子力事業者・規制官庁等と緊密に連携し、部隊を的確に運用して広域的な対応を行うことが求められる。
 そこで警察庁では、平成24年4月、上記の観点から都道府県警察を指導するとともに関係機関等との連携を強化するため、警備局警備課に特殊警備対策官を新設し、対策の推進体制を整備した。また、都道府県警察においても、対策室の設置等の組織改編や増員を行うなどして体制を整備している。

(2)装備資機材の整備

 放射線は五感で感知できないことから、警察では、福島第一原子力発電所の事故への対応で有効性が認められた装備資機材の整備を順次進めている。
 具体的には、積算線量を測定する個人被ばく線量計や放射線を浴びた粉じん等から身体を防護する放射性粉じん用防護服、放射線量率を検知するサーベイメータ、車体に放射線に対する防護機能を施した放射線防護車等の整備を進めている。
 警察では、これらの装備資機材を活用することにより、自らの安全を確保しつつ実態把握を迅速に行うこととしている。また、放射線に関する基本的知識や対応要領に関する教養を継続的に実施するとともに、原子力災害発生時において、警察職員の個人被ばく線量を組織的に管理する体制や要領を検討している。
 

(3)原子力災害を想定した検討や訓練の推進

 原子力災害に対応するためには、まず、避難誘導や防犯対策が必要な施設、検問や交通規制を行うべき地点、派遣部隊の活動拠点等について実態を把握しておく必要がある。また、原子力災害における避難誘導は、多数の要援護者を長距離かつ一斉に搬送することとなるため、実施体制のほか、要援護者の人数や所在地、連絡方法、搬送手段、搬送先等について施設管理者、地方自治体等の関係者と検討を行うことが不可欠である。
 警察では、原子力関連施設を管轄する道府県警察を中心として検討を進めるとともに、原子力災害を想定した実践的・広域的な訓練を地域住民、地方自治体等関係機関と合同で実施し、災害対応能力の向上に努めている。

事例①
 23年11月、九州管区警察局、佐賀県警察及び長崎県警察は、九州電力玄海原子力発電所での原子力災害の発生を想定した約3万2,900人規模の原子力防災訓練に参加した。この訓練は、玄海原子力発電所から半径20キロメートル圏内の住民約1,200人を避難させる初めての広域避難訓練であり、警察は、離島の住民の避難誘導、交通規制、県警ヘリによる情報収集、危機管理センターへの映像配信を行うなどの訓練を実施した。
 
県警ヘリからの映像配信
県警ヘリからの映像配信

事例②
 24年2月、愛媛県警察は、四国電力伊方発電所の事故を想定した約9,500人規模の愛媛県原子力防災広域避難訓練に参加した。この訓練は、地震により原子炉の全交流電源が喪失し、炉心損傷及び原子炉格納容器からの放射性物質放出による影響が発電所周辺地域に及ぶおそれがあるとの想定の下で行われたものであり、警察は、広報車や警察用船舶による住民への広報、住民避難バスの誘導、発電所から20キロメートル圏内への車両流入規制、ヘリテレ映像の知事部局への配信等の訓練のほか、県警察では初めてとなる県警ヘリの護衛艦への着艦訓練を実施した。
 
護衛艦へ着艦する愛媛県警察ヘリコプター
護衛艦へ着艦する愛媛県警察ヘリコプター

事例③
 23年10月、京都府警察は、複合災害(地震・津波・原子力)の発生を想定し、住民の避難誘導、被災者の救出救助要領等に関する図上・実動訓練を、消防、自衛隊、海上保安部及び地方自治体と共同で行った。この訓練では、大地震の発生による津波警報の発表及び原子力発電所における放射性物質の拡散を想定して相互の連携要領等を確認したほか、避難指示区域内に地震による負傷者が取り残された事態を想定した負傷者の救助・搬送訓練を行った。
 
図上訓練における検討
図上訓練における検討
 
自衛隊員との連携
自衛隊員との連携

 第2節 災害に係る危機管理体制の再構築

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