第2章 組織犯罪対策の推進

2 犯罪のグローバル化及び犯罪インフラに対応するための取組

(1)犯罪のグローバル化の状況

最近の来日外国人犯罪の特徴として、世界的規模で活動する犯罪組織が、我が国の犯罪組織等と相互に連携・補完を図りつつ、より大規模かつ効率的に犯罪を敢行していること、より巧妙かつ効率的に犯罪を敢行するため、様々な国籍の構成員が、それぞれの特性を生かして役割を分担するなど、国籍等にかかわらず結びついていること、犯行関連場所が日本国内のみにとどまらず複数国に及んだり、被疑者や被害者との関係を有しない地域であったりすることが挙げられ、「犯罪のグローバル化」は治安に対する重大な脅威となっている。

(2)犯罪のグローバル化に対応するための戦略プランの策定

犯罪のグローバル化に対応するには、発生した事件の検挙のみにとどまることなく、犯罪のグローバル化を支えるネットワーク等を解明し、情報の収集・分析能力を高めるなど、国際犯罪組織を解体するための体制を強化する必要がある。また、国際組織犯罪は、犯行形態の広域性・多様性を強めていることから、警察が部門や管轄を越えて連携を強化するとともに、外国治安機関等との連携を緊密化させていくことが不可欠である。

警察庁では、平成22年2月、「犯罪のグローバル化に対応するための戦略プラン」を策定し、警察組織の総合力を発揮した効率的な対策を推進している。

図2―19 犯罪のグローバル化に対応するための戦略プランの概要

コラム〔4〕 ヤード対策

ヤードとは、周囲を鉄壁等で囲まれた作業所等であって、海外への輸出等を目的として、自動車等の解体、コンテナ詰め等の作業に使用していると認められる施設のことをいい、農村部を中心として日本全国に多数点在している。一部のヤードが犯罪の温床となっている状況がみられ、このまま放置すれば我が国の治安上大きな脅威となることから、警察では平成22年6月、全国一斉ヤード対策を実施するなど、犯罪の関与が疑われるヤードに対する諸対策を推進している。

事例

ヤード経営者であるナイジェリア人の男(46)は、盗難自動車を買い取り、ヤード内で解体して自動車部品としてナイジェリアに輸出していた。輸出するに当たり、同男は日本の貿易会社社長らと結託して、ナイジェリアでの関税の支払いを免れるため、輸出貨物量を過少申告していた。22年6月、ナイジェリア人1人、スリランカ人1人及び日本人2人を有価証券虚偽記入罪で逮捕した(兵庫)。

(3)国内関係機関との連携

平成17年1月、警察庁、法務省及び財務省は共同で、航空機で来日する旅客及び乗員に関する情報と同省庁が保有する要注意人物等に係る情報を入国前に照合することのできる事前旅客情報システム(APIS)(注1)を導入した。18年の入管法の改正により、19年2月からは、情報の事前提出が航空機及び船舶の長に義務付けられ、同年11月からは、偽変造旅券の使用や他人へのなりすましによる不法入国を防ぐため、外国人が入国する際に指紋等の個人識別情報を提出することが義務化された。さらに、法務省が警察庁の協力を得てICPO 紛失・盗難旅券データベースに蓄積された各国の情報を入国審査に活用することとされ、警察庁では、法務省における同データベースの活用のためのシステム開発に協力し、21年から、法務省において同データベースの活用が開始され、国際組織犯罪やテロ等の取締り等の効率化が図られている。

注1:Advance Passenger Information System

(4)外国治安機関等との連携

日本で犯罪を敢行した被疑者が外国人である場合、住所、氏名、生年月日等を把握するためには、その者の国籍国への照会を要する場合があり、また、被疑者が海外に逃亡した場合、逃亡先国における所在確認等の捜査協力を依頼しなければならない。さらに、外国に本拠を置く国際犯罪組織については、世界の各国にわたって犯罪を敢行していることから、関係国の治安機関等との情報交換、被疑者の検挙に向けた共同オペレーション等を通じた連携が不可欠であり、警察では次のような取組を進めている。

<1> ICPO を通じた国際協力

ICPO は、昭和31年に設立された各国の警察機関を構成員とする国際機関であり、事務総局はフランス・リヨンに置かれている。その任務は、国際犯罪に関する情報の収集と交換、犯罪対策のための各種国際会議の開催、国際手配書の発行等多岐にわたり、平成22年末現在188の国・地域が加盟している。

ICPO は、加盟国・地域間の情報交換を迅速かつ確実に行えるようにするため、独自の通信網を整備して盗難車両、紛失・盗難旅券、国外逃亡被疑者等に関するデータベースを運用しており、全加盟国・地域がこの通信網(注2)を通じて、直接検索を行うことができる。

警察庁は、捜査協力の実施のほか、各種会合への参加、事務総局への職員の派遣、分担金の拠出等により、ICPO の活動に貢献している。

注2:I―24/7(Interpol’s global police communications system 24/7)

<2> 外国捜査機関との捜査協力

警察庁では、ICPO ルートを通じた捜査協力のほか、外国捜査機関と外交ルートや刑事共助条約(協定)に基づく捜査協力を実施するなど、連携を図っている。また、中央当局間協議の開催等を通じて、外国治安機関との連携を図っている。

(5)国外逃亡被疑者等の追跡

日本国内で犯罪を行い、国外に逃亡している者及びそのおそれのある者(以下「国外逃亡被疑者等」という。)の数は依然として多い。被疑者が国外に逃亡することにより、外国捜査機関との捜査協力が必要となる場合も多く、捜査も困難になる。しかし、警察では、犯罪者の「逃げ得」を許さないための取組を進め、厳正な対処に努めている。

被疑者が国外に逃亡するおそれがある場合には、入国管理局に手配するなどして出国前の検挙に努める一方で、被疑者が国外に逃亡した場合には、外交ルートやICPO ルートによる関係国の捜査機関等との捜査協力や刑事共助条約(協定)に基づく共助の実施を通じ、被疑者の人定や所在の確認等を進めている。その上で、犯罪人引渡条約等に基づいて被疑者の引渡しを受けたり、被疑者が逃亡先国で退去強制処分に付された場合には、その被疑者の身柄を公海上の航空機で引き取ったりするなどして確実な検挙に努めている。

このほか、事案に応じ、国外逃亡被疑者等が日本国内で行った犯罪に関する資料等を逃亡先国の捜査機関等に提供するなどして、逃亡先国における国外犯処罰規定の適用を促している。

図2―20 国外逃亡被疑者等の推移(平成13~22年)

事例

平成19年6月、東京都内の貴金属店に客を装って侵入し、店内に陳列されていた2億8,000万円相当の貴金属を奪い取った強盗致傷事件で国際手配されていた「ピンクパンサー」と呼ばれる国際的武装強盗団の構成員であるモンテネグロ人の男(43)らについて、警察ではICPO 及び関係外国機関と緊密に連携を図りながら捜査中のところ、1人がスペインで身柄を拘束されていることが判明したことから、同国に対し外交ルートによる身柄引渡請求を行い、22年8月、身柄の引渡しを受け、同人を逮捕した(警視庁)。

(6)犯罪インフラ対策

犯罪のグローバル化が進む背景には、国際犯罪組織が、犯罪を助長し、又は容易にする基盤である「犯罪インフラ」を利用して、各種犯罪を効率的に敢行している状況がある。

また、犯罪インフラは、社会の急速な変化に応じて、グローバル化する犯罪にとどまらず、国内の組織犯罪、詐欺、窃盗、サイバー犯罪等のあらゆる犯罪の分野で着々と構築され、巧妙に張り巡らされてきており、その存在は治安に対する重大な脅威となっている。犯罪インフラ対策は根源的な犯罪対策といえ、10年先の治安対策という観点からも速やかに対策を実施することが重要である。

コラム〔5〕 犯罪インフラ対策プランの策定

警察庁では、23年3月、犯罪インフラに対応するための基本方針として、警察が当面取り組むべき施策を取りまとめた「犯罪インフラ対策プラン」を策定した。警察では同プランに基づき、警察組織の総合力を発揮した効果的な対策を推進している。

犯罪インフラ対策プランの概要


第3節 来日外国人犯罪対策

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